※本文はネタバレを含んでいますので、映画を未見の方はご注意ください。
まさかジョン・コナーが…衝撃すぎるオープニング
「タイタニック」「アバター」と映画史を塗り替えてきたジェームズ・キャメロンにとって、ヒットメーカーの原点になったのが、1984年の「ターミネーター」。未来から過去へと時空を移動することで、世界または愛する人の運命を変える……。タイムマシンなど古くからあるSFの設定を、アクション映画として大成功させたのが「ターミネーター」で、翌1985年の「バック・トゥ・ザ・フューチャー」から最近の「君の名は。」まで、時空を超えるエンタメ映画の「基準」になったと言っていい。
今回、キャメロンがシリーズに戻ってきたことで、その「基準」や「原点」が強く意識されている。つまり、「ターミネーター」の物語がいかに面白いのかを証明することに!人類の救世主となる存在がジョン・コナーからダニー・ラモスに変わったとはいえ、基本的なストーリーは「ターミネーター」と続編の「ターミネーター2」を合わせた印象。オリジナルの世界観が堂々と踏襲され、その面白さに改めて興奮してしまう。
完成前にジョン・コナー役のエドワード・ファーロングが再登場することが話題になったが、まさかのCGで再現。しかも絆を育んだはずのT-800に抹殺されるというショッキングなオープニングから、タイトルが示す「ニュー・フェイト」=「新たな運命」が、原題の「Dark Fate」=「暗黒の運命」であることを予感させる。
T-800は「ターミネーター2」のラストで溶鉱炉に沈んだはずだが、新たな個体がジョンを殺すために送り込まれていたのだ。もともと人間ではないので、その「使命」をプログラミングされただけの新たなT-800は、中米のグアテマラのリゾートで、サラの目の前で当然のように使命をまっとうする。このシーンは、ファーロングだけでなく、リンダ・ハミルトン、アーノルド・シュワルツェネッガーも超リアルなCGで登場することに驚かされる。
この結果、サラ・コナーが残りの人生をターミネーターへの復讐のために捧げたわけであり、リンダ・ハミルトンの顔に刻まれた深いシワが、狂おしいまでの苦悩を表現することに……。映画の前半で、新たな救世主のダニーを助けたサラが、シリーズの名セリフ「I’ll Be Back」と言い放って立ち去るシーンは、サラの孤高の生きざまが伝わってきて、爽快ながら胸を締めつけられるのだ。
スカイネットは消失したはず!? 一体未来はどう変わったのか?
一方のT-800は、ジョンを抹殺した後、人間社会にとけこんで、ひっそりと生活していたという設定。現在に至る日々は映画には描かれないものの、人間と同じように外見には老化が表れている。皮膚のパーツは時間とともに「劣化」する、ということだろう。
そしてこのT-800は、自分の使命を果たしたため、もはや人間にとっての敵ではない。それどころか、「ターミネーター2」でジョンを守った旧T-800と同じように、人間を「愛する」機能が残っていたようだ。このあたりは送り込んだ側の設計ミスと言えるかも。
とにかく「ほぼ人間」となったT-800が、ジョンの殺害をどう感じ、サラにどんな思いを抱いていたかは、今作の中でも重要なポイントとして機能している。「ターミネーター2」のあの有名なラストから連なるエモーショナルな見どころだ。
このT-800と、ダニー、サラ、そしてダニーを守る強化型兵士のグレースが立ち向かうだけあって、敵キャラのターミネーター、REV-9の破壊力、再生力には度肝を抜かれる。触れたものへの変身や、分身などを駆使しつつ、過去のターミネーター以上に知能も優秀のようで、ほとんど欠点が見つからない。
こうした宿敵キャラの場合、「何でもアリ」「やりすぎ」に映ることもあるが、「デッドプール」のティム・ミラー監督らしくアクションはかなり生々しく演出されるし、演じるガブリエル・ルナの、どこか人の良さそうな外見とのギャップが新鮮で、意外や意外、ありえない戦いっぷりにも説得力を与えている。
そして「ターミネーター2」から続く物語で最も気になるのは、未来がどう変わったかという点。ターミネーターを送り込むスカイネットは、その元となる研究を絶たれて消失したはずだった(ジョンを抹殺したT-800は、おそらく未来が書き換えられる前に送られたのだろう)。2042年から来たグレースは、スカイネットという単語も知らないのである。
未来で新たに脅威となっているのが、人工知能(AI)の「リージョン」で、その反乱による大戦争によって数十億人の人類が犠牲になったという衝撃の設定だ。このAIというのがやけにリアルで、「ターミネーター2」が公開された1991年とは違って、現代社会の中で日常風景になっているAIの急速な進化は、未来にも大きな影響を及ぼすことをわれわれは実感している。スカイネットがなくなっても、次のリージョンが存在するというのは、2019年の観客にとって確実な未来として映るのではないか。
最後に「ニュー・フェイト」に刻まれたキャメロンらしさと新しさといえば、女性たちの活躍。ダニー、サラ、グレースという3人の女性が今作のヒーローというのは、最近のハリウッドが意識する多様性の表れのようでありつつ、「女性」という点を強調していないところが妙に新鮮。
彼女たちはあくまでも戦うキャラで、もはや男とか女とかこだわるレベルではない。とくにグレースの性別を超えたカッコよさは今作最大の魅力で、そのカッコよさが導く結末が心を鷲掴みにする!