1800年代、たった一人で33年をかけて自分だけの宮殿を作ってしまった、実在のフランスの郵便配達員シュヴァル。その奇跡の宮殿は、今も歴史的建築物として燦然と輝いています。夢を実現した彼の人生をリスペクトし、宮殿完成までの真実を愛の物語として甦らせたのが、フランスの男優で監督のニルス・タヴェルニエ。その想いをインタビューで語っていただきました。

夢を叶える愛の力で、不満だらけの時代に夢を与えたかった

「今、社会でいろいろな良くないことが起こっているのは、みんなが何か欲求不満を抱えているからです。だから私は、せめて私の作品を観た人たちに、そういった欲求不満で映画館を出るのではなくて、満足して出てもらえるような、そんな物語にしたかったんです。人は自分のことを受け入れた瞬間に、自分のやりたいことにつき進めると思うんですね。

彼もまた、自分が愛されていること、家族に受け入れられていることが分かって、そして自分を受け入れるようになって、自分がやろうと決めたことを徹底的にやることが出来たんです。自分を受け入れる、これは今の社会の中では非常に大切なことですから」

画像: 夢を叶える愛の力で、不満だらけの時代に夢を与えたかった

──勇気と希望を与えてくれる宮殿の存在と夫婦の愛の力ですね。その愛は二度目の妻、実はこの映画の主役はシュヴァルというより彼女なんだと私は気づいたんですが、そんな女性の控え目で耐える力が、頑固で朴訥で不器用な夫、シュヴァルをやる気にさせるのですが、そこに女性本来の強さを感じました。この作品を観ていてそれがとても嬉しかったんです。現代では失われているように思える(笑)、あるいは眠ってしまっている女性の力について伝えたかったのでしょうか?

「それをおっしゃってくださって、私もすごく嬉しいです。このヒロインは本当にすごく控えめな人なのだけれども、シュヴァルを支え絶望から救います。それに対して妻が生きているうちは言葉にしなかった、シュヴァルの最後の台詞に彼の愛情と感謝が込められています。彼は言いますね。『お前なしでは僕は生き延びられなかったかもしれない』と。それくらい、彼女が持っている力、強さというのはとても控えめであり、耐え忍ぶことができるということ。それが彼に力を与えたわけです」

フィクションを作っていても、心はいつもドキュメンタリー監督でいたい

──そこが素晴らしいし、また今回の作品を観て、その女性力を今の女性たちに、ぜひとも分かって欲しい。

「当時のフランス社会で、フランス女性というのはお金を自由にできる立場でもなければ、自由に使う決定権も持たされていない。男性に対して支配する権利もないのですから、女性の力というのは男性を支える力であったのです」

画像: フィクションを作っていても、心はいつもドキュメンタリー監督でいたい

──この作品を観ていると、今の時代でも、女性も権利ばかり主張するのではなく、耐えて男性を支える力を復活させても良いのではないでしょうか? シュヴァルの妻のように。きっと世の中が良くなるような気がしてきましたが(笑)

「なるほど。しかし、その逆もまたありで、男性の方も控えめだけれども、女性を支えるということが出来るようになるといいんですがね(笑)」

たった一人の男の力で出来上がった奇跡の城、と伝えられてきたシュヴァルの宮殿。けれども本作を観て、見えないところで妻や娘たちの彼への愛があってこそ奇跡が起きた。そのことをタヴェルニエ監督は信じている。そうであって欲しいという、そんな思いを馳せてこそ、この美しい作品も完成したに違いない。ひとつの宮殿の存在が監督を魅了し、そこまでつき動かしたことを感じさせるお話が続きました。

「そもそもが、監督になりたいと思ったことはないんです。技術的な方に興味がありました。父が監督でしたから、アフリカでの撮影で12歳の時にその技術に魅了され、カメラマンになりたい、技術スタッフになりたい、と思ったのが初めでした。あまり学校に熱心に行くようなタイプの学生ではなかったので、たくさんの資料を読んだり実際にいろいろな人たちに会ったりして、ドキュメンタリーを作ることによって成長していったわけです。

多くのテーマ、ドキュメンタリーを扱いながら、自分自身の教養を高めていったという感じなんですね。だからもちろん、フィクションでヒットした作品があっても、同時期にドキュメンタリーも作りますし、いつも私の心は、ドキュメンタリー作家の心なのです」

そんな素敵な言葉で結んでくださったインタビューでした。

画像: 映画『シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢』 www.youtube.com

映画『シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢』

www.youtube.com

『シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢』

2019年12月13日(金)より角川シネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国ロードショー

監督/ニルス・タヴェルニエ
脚本/ニルス・タヴェルニエ、ロラン・ベルトーニ
出演/ジャック・ガンブラン、レティシア・カスタ、ベルナール・ル・コク、フロランス・トマサン、ゼリー・リクソン、ルカ・プチ=タボレーリほか
配給/KADOKAWA
2018年/フランス/カラー/105分

©2017 Fechner Films - Fechner BE - SND - Groupe M6 - FINACCURATE - Auvergne-Rhone-Alpes Cinema

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