日本での公開を記念して来日したウィル・ベチャー監督のインタビューをお届けする。
人気クレイ・アニメーション「ひつじのショーン」は、アカデミー賞®を4度受賞している英国アードマン・アニメーションズの大ヒットシリーズ『ウォレスとグルミット』 の第3作目『ウォレスとグルミット、危機一髪!』(1997 年)に登場するショーンを主人公にしたスピンオフ作品。2007年に英国 BBCで1話7分のショートアニメがシリーズ化され、日本でもテレビ放映された。2015年にはシリーズ初の長編映画『映画 ひつじのショーン〜バック・トゥ・ザ・ホーム〜』が公開され、全世界で1億600万ドルもの興行収入を挙げて大ヒットを記録。第88回アカデミー賞®長編アニメ賞にもノミネートされるなど、大きな話題となった人気作の長編第2弾『映画 ひつじのショーン UFOフィーバー!』を今作が長編デビュー作となるウィル・ベチャーが監督を務めた。
SCREEN ONLINEのインタビューに応じたウィル・ベチャー監督が、4年の歳月をかけて完成させた本作の制作秘話を語ってくれた。
ひつじのショーンとSFは凄くマッチするという確信があった
ーーまさか長編第2弾がSF映画になるとは思いもしなかったのですが、何故SFタッチで描こうと思われたのでしょうか?
「ひつじのショーンシリーズが終わった段階で次の映画をどうするかという話し合いをしたのですが、今作の原案・製作総指揮を務めるリチャード・スターザックさんがSF好きだったり、テレビ版にエイリアンが登場したことがあったので、誰かが“エイリアンを出すのはどうかな?”と提案したんです。みんなSF好きだったので“それいいね!”とかなり盛り上がって、ショーン達が暮らすのは田舎の牧場だからミステリーサークルも登場させたいなとか僕も言ったりして(笑)。ひつじのショーンとSFは凄くマッチするという確信があったのでSF映画として製作することにしました。スケールを大きくするために今回はシネスコサイズで撮っているんですよ」
ーークレイアニメというのが信じられないぐらいSFの世界観をしっかりと映像として見せてらっしゃいましたが、例えばUFOを守るバリアが登場するシーンなどはどのように撮られたのでしょうか?
「地元のVFXの会社に頼んでルーラが力を発揮する場面と宇宙船のキラキラする感じを足してもらったり、バリアのシーンなんかは森の中にある宇宙船の有り無しバージョンを撮って、そこにVFXで加工したり実写ではできない部分を足しながら撮っていった感じです。それから撮影監督のチャールズ・コッピングさんが光の使い方を凄く研究してくれて、木の間から差し込む光や霧なんかを見事にクレイアニメに反映させてくれました。照明をいじることでまるで霧の中にいるかのような光を生み出すことができるので、本物の森に見えますし、もちろん美術スタッフなどみんなでいかにSF映画っぽく見えるかを研究しながら作っていきました」
ーーショーン達はしゃべらないこと以外は人間っぽい動きや感情を持っていますよね。だからこそ共感できたりするのですが、キャラクターを描く際に大事にしていることを教えて頂けますか。
「まず観客と心が通じ合うようにしたいので、“キャラクターが持つハートがどんなものなのか”を見極めることを大切にしています。ひつじのショーンの世界観を作り上げてきたピーター・ロードさんとニック・パークさんもおそらくそこをしっかりと考えてこられたのではないかと。表情に関しては目と眉が凄く重要で、そこがキャラクターの感情を伝えるパーツだと言えます。今作で苦労したのはやはりルーラですね。足が無いのでどのように動かすのか凄く悩みました。
ルーラはとにかく好奇心旺盛でエネルギーが有り余ってる感じにしたかったので、横から見ると少し前のめりになっていたり、気になるものを見つけると子供のように目を見張って近づこうとする、といった動きにしました。僕には娘が2人いるのですが、彼女達の幼い頃がそんな感じだったので参考にしたりね(笑)。ルーラは興味を持ったものにはまっしぐらに突っ込んでいくので、スピード感にもこだわりました」
ーールーラの造詣に関してはいかがですか?
「イノセントであることにこだわりましたが、子供っぽくなりすぎないように気をつけました。デザインに関しては最初は昔ながらのロケットのイメージがあって、体はその名残りで頭の部分はオールドタイプのUFOがベースになっています。それからカラフルであることにもこだわりました」
ーー顔や耳が犬っぽいですよね?
「実は最初の頃に書かれたストーリーにはビッツァーがルーラと出会うシーンで“あれ? 犬かな?”と思うシーンがあったんです(笑)。その名残りなのか最終的にデザインに反映されていましたね(笑)」
ーー前作ではショーン達が知恵を絞って人間並みの活躍を見せていましたし、今作ではビッツァーが人間でも造れないような大きなあるものを完成させます。今後ショーン達やビッツァーにやらせたいことは何かありますか?
「確かに前作も今作も彼らには“グッジョブ!”と思わず言いたくなるようなことをこなしていたよね(笑)。ただ、クレイアニメーションだとどんなことも大抵できてしまうから、やっぱり登場するキャラクターやストーリー次第になるかな。『ウォレスとグルミット』の場合、彼らは発明家達だから常に新しい発明品が登場するけど、ショーンの世界観は“アドベンチャー”と“楽しいこと”を描くことが大切なので、次にショーンがどんな冒険をするのかで彼らにやってもらうミッションが決まってくると思います(笑)」
ーー監督が子供の頃に観た映画で思い出に残っている作品を教えて頂けますか。
「一番最初に観たアニメ映画は確か『バンビ』だったかな。凄く感動したのを覚えています。そんな感じで小さい頃からアニメーションが好きで、中でもストップモーションアニメをよく観ていました。12歳の時にピーター・ロードさんが番組か何かでトークしているのを見て、その時にアニメーターになろうと決めたんです。それ以降は2Dアニメや3Dアニメ、ストップモーションアニメやディズニーアニメなどジャンル問わず様々な作品を観ました」
ーー最近ご覧になって面白かった映画も教えて頂けますか。
「制作中は忙しすぎてほとんど映画を観られなかったんですけど、参考のためにSF映画はよく観ました。大抵のSF映画は観たことがあるものを見直すという作業でしたが、『コンタクト』と『サイン』は今回初めて観たんです。そしたら凄く面白くて。あとはやっぱり80年代の映画が好きなので『インディ・ジョーンズ』シリーズや『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズが好きです。最近の映画じゃなくて申し訳ないけど(笑)」
ーーいえいえ、私も80年代の映画が凄く好きです! 今作には色んなSF映画のオマージュがありましたが、『E.T.』を思い出させるシーンもあって嬉しかったです。
「制作陣みんなスティーヴン・スピルバーグ監督のファンなんですよ。そういえば、割と最近たまたま『激突』をテレビで観たんですけど、物語に引きこむ力を持っていて、ドラマやアクションを描いたら世界一と言えるような素晴らしい監督だなと改めて思いました。スピルバーグ監督からは大きな影響を受けています」
(インタビュアー・文/奥村百恵)
【ストーリー】
ショーンと仲間たちがのんびり暮らす中、突如UFOがやってきた。町はたちまちUFOフィーバーに沸き、牧場主も宇宙をテーマにしたアミューズメントパーク “FARMAGEDDON”を作り、一儲けをしようと企む。そんな中、ひょんなことから牧場に迷い込んだルーラは、ショーンたちと出会いすぐに仲良しになる。家族が恋しくなったルーラを家に帰してあげようと計画をたてるも、思いもよらぬハプニングが次々と巻き起こる。ルーラを故郷に返すためUFOに乗り込んだショーンとビッツァーの運命やいかに――!
『映画 ひつじのショーン UFOフィーバー!』
12月13日(金)より全国ロードショー
監督:リチャード・フェラン、ウィル・ベチャー
脚本:マーク・バートン、ジョン・ブラウン
製作:アードマン・アニメーションズ、スタジオ・カナル
2019/イギリス・フランス/アニメーション/英語/カラー/原題 Shaun the Sheep Movie: Farmageddon
配給:東北新社 STAR CHANNEL MOVIES
© 2019 Aardman Animations Ltd and Studiocanal SAS. All RightsReserved.