昨年の10月28日から11月5日に開催、32回を迎えた2019年東京国際映画祭は、例年にも増して世界中の優れた作品が集まり注目を集めました。中でも、フランス映画、フランス合作映画が各部門で目立ち躍動的でした。筆者が注目した『動物だけが知っている』は最優秀主演女優賞を獲得。『戦場を探す旅』は幻想的な芸術作品で、監督と主演男優のインタビューが叶いました。
※トップ写真 オーレリアン・ヴェルネ=レルミュジオー監督(左)、マリック・ジディ 撮影:安井 進

シュールで、リアルで、かつ詩的に、観客を戸惑わせたい

──ファンタジックな映画が増えていますが、シュールで幻想的な映画が最近は少なくなっているように思える中、今回の作品は例えばルイス・ブニュエル監督などのような幻想的な作品を彷彿とさせられワクワクしました。また、作品の中で亡くなった息子のラザールらしき霊のような赤い眼をした存在が、森に潜んでいるというシーンがありますが、『ブンミおじさんの森』(2010)の監督、アピチャッポン・ウィーラセタクン作品へのオマージュなのかしらとも思いました。

監督「ブニュエルとアピチャッポンの名前をあげていただいたのは、自分も大好きな人たちなので嬉しく思います。でも、彼らの作品へのオマージュというよりも、自分はシュールレアリストで、かつリアリストでして、ポエティックな感じも生かしたい。映画では、観ている方々に戸惑いをもたらしたいと思って作っているのです」

──なるほど。そのうえ90分に収めたというのもみごとです。初監督作品というと肩に力が入って長くなったりしそうですが。

監督「賛辞の言葉が嬉しいです。今回は類を見ない心理的な葛藤とかそういった部分を描いているので、あんまりダラダラと長々やるよりも、やっぱり90分の長さに凝縮して、彼の内なる熱い想いを表現出来ると考え、その長さには自分でもこだわりがありました。彼はやっぱり息子を戦争で失っていて会えていない、また戦場を撮るという自分の理想を追い求めてワッと突き進んでいるので、7時間とかの(笑)長い時間より90分という短さは必然でした」

──主演にマリック・ジティさんを起用したのも必然的だったのでは?何しろ黒沢清監督作品『タゲレオタイプの女』に起用された逸材ですから。あの映画も霊的なことと、写真が絡んでいますので。

監督「なるほど、なるほど。黒沢監督もその作品も存じ上げていて興味深い作品の一つですが、残念ながら、そういう観点から選んだのではありません(笑)。19世紀という時代の男の顔をしていたからね、彼は。今時の若手はみんな同じ顔に思えるし、リアリティが生まれないでしょう。古い顔なんですよね、彼は(笑)。そして、非常に個性的な外観、なおかつ内面的な力も持っている。何かを体現して表現するのがとても長けている人。真逆の存在の相棒となるピントとのバランスも考えました」

演じるということは、どんな時代にでも飛び込むこと

画像2: 『戦場を探す旅』

『戦場を探す旅』

──そうだったんですね(笑)。確かに今時の若い人では、あの過酷な撮影に耐えられなかったことでしょう。馬に撮影の機材を乗せて山岳地帯を進んでいくけれど、大きいし重いし、途中で深い穴に落ちちゃったり、馬に逃げられたり……。監督の注文は大変だったのではないでしょうか?

マリック「もちろん撮影は大変だったんですけれど、それが19世紀の役柄だろうが、20世紀だろうが、あまり深く考えずバッとそのシーンに飛び込んで演じます。結構なりきれるタイプなんで(笑)。役を演じるにあたって、エネルギーを使うという点では、どんな時も全然変わらなくて。今回はストーリーの中にも飛び込めて、すぐになりきることが出来ましたよ」

監督「彼のすごいところは、オンとオフのスイッチの切り替えが早いこと。撮影中とオフの時は別人ですね(笑)」

──今までマリックさんが全然お話ししていなかったのも、オフだからだったんですね(笑)今からでもスイッチを押してオンにしたら、きっと、ガガガーっといろいろお話し下さいますね(笑)

というところでタイムオーバーとなり、インタビューは終了。監督のこだわりに完璧とも思える演技で応えた男優、そして、それに満足している監督ご自身、まさしく男性二人の友情にも等しい、映画が生み出したうらやましいばかりの関係を感じさせるインタビューでした。映画祭という場でこそ生まれる想いと、それを物語る言葉の数々。良い話がうかがえました。

劇場公開という形で、この『戦場を探す旅』を多くの方々に観ていただきたい気持ちで一杯です。

初挑戦したフィクションの長編映画づくりには手ごたえを感じたとも話して下さり、すでに次回作の準備にもとりかかっているそうです。完成の折には、また、東京国際映画祭に持って来ていただきたいものです。

やりたい役柄を演じることは、自分にとってのGIFTである

最後にもう一つ、この映画祭で得られた印象的な言葉がありました。

冒頭に記した『動物たちが知っている』の主演女優ナディア・テレスツィエンキーヴィッツの、受賞前の発言です。上映後のトークイベントで、体を張っての演技ともいえるシーンも少なくないマリオンという若い女性に起用されたことについて、迷いや苦労はなかったかという質問についての答えでした。

「この役は、私にとってはGIFTだと思っていますから」と素晴らしい一言を残したのです。

そんな彼女へのご褒美、GIFTは、最優秀主演女優賞受賞ということにもなるのでしょうが、この作品のこの役柄を演じたことこそが、自分にとっての最大のGIFTであったと思い続けてくれるに違いない。今もそう感じさせられ、こちらも幸せな気持ちで一杯になっています。

そして映画こそ、我々にとってのGIFTでもあります。そんなことを感じさせてくれた、2019年の東京国際映画祭でした。

『戦場を探す旅』

監督/オーレリアン・ヴェルネ=レルミュジオー
出演/マリック・ジディ、レイナール・ゴメス、マクサンス・テュアル
2019年/フランス・コロンビア/89分/カラー

『動物だけが知っている』

監督/ドミニク・モル
出演/ ドゥニ・メノーシェ、ロール・カラミー、ダミアン・ボナール 、ナディア・テレスツィエンキーヴィッツ
2019年/フランス/117分/カラー

©2019 HAUET ET COURT RAZOR FILMS PRODUKTION FRANCE 3 CINÉMA VISA N˚ 150 076 | ©Jean-Claude Lother © Hauet Court

第32回東京国際映画祭2019公式サイト

前回の連載はこちら:
90年代作品『HHH:侯孝賢』と新作『冬時間のパリ』を語る オリヴィエ・アサイヤス監督インタビュー@東京フィルメックス映画祭

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