昨年の10月28日から11月5日に開催、32回を迎えた2019年東京国際映画祭は、例年にも増して世界中の優れた作品が集まり注目を集めました。中でも、フランス映画、フランス合作映画が各部門で目立ち躍動的でした。筆者が注目した『動物だけが知っている』は最優秀主演女優賞を獲得。『戦場を探す旅』は幻想的な芸術作品で、監督と主演男優のインタビューが叶いました。
※トップ写真 オーレリアン・ヴェルネ=レルミュジオー監督(左)、マリック・ジディ 撮影:安井 進

『動物だけが知っている』などフランス映画力が多数結集

コンペティション部門に選出され、高い評価を得たフランス映画『動物だけが知っている』は、これぞまさしく「面白い!」の一言が似合う逸品。これまでも常に衝撃的なテーマで一作品ごと楽しませてくれたドミニク・モル監督が、脚本も手がけた最新作にして最高傑作と言って間違いのない演出力。そして主演のナディア・テレスツィエンキーヴィッツが、みごと最優秀主演女優賞を獲得。秀逸なミステリーで、ブラックなコメディ性も楽しめる作品です。

主演男優には、本連載第21回でご紹介した、フランスを代表する女性監督アンヌ・フォンテーヌ作品『マルヴィン、あるいは素晴らしい教育』(2017)で、同性愛者である息子を嫌う傲慢な父親役として登場したドゥニ・メノーシュ。本作ではネット交際の罠にはまる熟年男を演じ、作品の中枢を支える存在として、見ごたえある演技力を発揮。

映画祭会期中には、監督に代わって男優、女優が揃って来日。上映後のトークイベントが大いに盛り上がりました。劇場公開された際には、絶対にお見逃しなく。

加えて、スペインとの合作、アリツ・モレノ監督作品『列車旅行のすすめ』、グアテマラとの合作、ハイロ・ブスタマンテ監督作品『ラ・ヨローナ伝説』、コロンビアとの合作『戦場を探す旅』で合計4作品が出品となりました。

さらには、ワールド・フォーカス部門でもスペイン・ルクセンブルク合作作品で、カンヌ映画祭での高い評価を常に獲得してきたオリヴァー・ラクセ監督作品『ファイアー・ウィル・カム』、スペイン・ブラジル合作作品、オリヴィエ・アサイヤス監督作品『WASPネットワーク』、インドネシア・マレーシア合作で、ヴェネチア映画祭でスペシャルメンションに輝いたヨセプ・アンギ・ヌン監督作品『サイエンス・オブ・フィクションズ』、ルーマニア・ベルギー合作、アンカ・ダミアン監督のアニメーション作品『マローナの素晴らしき旅』の4作品があり、今さらながら、フランスの「映画力」に驚かされました。

唯一の長編初監督作品『戦場を探す旅』に注目

精鋭の監督の作品が揃う中、筆者としては、『戦場を探す旅』で初長編作品に取り組み、コンペ部門に選ばれたオーレリアン・ヴェルネ=レルミュジオー監督の挑戦に注目。これまでは短編映画やインスタレーションなどアート活動で才能を発揮してきた才人という点にも興味津々でした。

主演男優のマリック・ジディと共に来日していたので、お話をうかがうことにしました。ジティが黒沢清監督作品『タゲレオタイプの女』(2016)に主演男優として起用されていたことにも注目していました。

『戦場を探す旅』は、1863年に内戦を続けていたメキシコにフランスが介入。1850年代のクリミア戦争時代から始まった戦場カメラマンという仕事に主人公ルイが挑みます。軍の許可を得て撮影に赴くも、厳しい山岳地帯に迷い込み、大がかりな撮影機材の運搬もままならない中、メキシコの男ピントに助けられる。彼と戦場を探して旅することで、それまでの欲望から解き放たれ、クリミア戦争に出兵して亡くなった長男との霊的出会いや、戦争で亡くなった男たちの幻影を得るうちに、戦争現場を記録撮影する真の意味や意義を悟っていくという崇高な物語。

画像1: 『戦場を探す旅』

『戦場を探す旅』

しかし、それを説明的であったり、教訓めいて描くのではなく、シュールでスピリチュアル的アート作品に仕上げたところが魅力です。これほど自由自在に観る者のイマジネーションを広げてくれる作品は久々で、私にとっては映画祭ならではの幸せな出会いだと嬉しくなりました。実力派の主演男優であるエリック・ジティの演技力や存在感、メキシコの人気男優であるレイナール・ゴメスの魅力にも惹きつけられます。

戦場カメラマンが誕生したその頃をイメージして

──今回映画祭には、フランス映画とフランスとの合作映画が数多く出品され、とても目立っていました。『戦場を探す旅』はコロンビアとの合作ですね。

監督「そうですね。実際はメキシコでの話ですが、今回はコロンビアでメキシコとしてのロケーションを得ることがベターであることがわかり、そこで撮影しました。主人公ルイを助けるピント役の男優はメキシコ人を起用しましたけれど」

──こういった話は、かなり史実に基づいたものなのでは?

監督「あくまで、フィクションですが、こういったことはあったと思います。当時の戦場カメラマンがいかに苦労して戦争というものを記録に残そうとしたのか興味深かったですし」

──今回映画祭では、『CROSSCUT ASIA』部門でも『ファンタスティック!東南アジア』と銘打ってのホラー、SF、ファンタジーなどの特集が組まれ、各部門の出品作にも、超常の世界を描いたものが多かったのです。

『戦場を探す旅』でも、現実から離れた霊的な存在が描かれたり、史実にもある現実について伝えようという中、幻想的な表現が多く、観ていて夢の中にいるような監督の世界観に誘われました。すごく映画的な作品だと思います。で、思うに今は現実が映画より怪奇的だったり猟奇的だったり、一昔前には起きなかったような事件が次々起きていますので、映画で描くテーマは現実から離れたものが選ばれる時代ということになるのでしょうか?

不可視の存在を想い、作品テーマにする意味とは

監督「そうですね。そう言い切れるかはわかりませんが、私は常日頃から不可視の存在に惹かれて、インスタレーションのテーマにしたりしてきました。と言っても、幽霊に興味があるわけではなくて、見えないものを思いやることが好きなのです。だから、廃墟とか大好きなんですよ。そこで何が起きていたのか?そこにいた人々はどうしていたのか?などを考えてみることは素晴らしいことであり、そういう時間は大切だと。

今の時代、精神的なことを大事にして人と付き合うということがあまりに少なくなっているから、霊的なものや、目に見えないものを思いやるということは、人との繋がりを考えることでもあると私は思うんです。

ルイとピントの友情にしても、フランス人とメキシコ人ですから言葉は全然通じないけれど、深く感じあえるようになる。それと同じですね、不可視なものへの関心も」

──凄く映画的なテーマですね。

監督「長編映画に限らず、動くものが私の取り組むべきアートの中心で、重要なテーマは『記憶と足跡と廃墟』。今までもドキュメンタリーや短編や、コンテンポラリー・アートなどでも手がけてきたんですよ」

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