映画史に燦然と輝く“山”映画の最高峰
ダニエル・シュミットやアラン・タネールらと並び、1960年代後半に起こったスイス映画の新しい潮流「ヌーヴォー・シネマ・スイス」の旗手として知られる、フレディ・M・ムーラー。代表作である『山の焚火』は、ロカルノ国際映画祭で金豹賞(グランプリ)を獲得し、世界にムーラーの名を轟かせた。
ムーラーは、1940年10月1日生まれ。長編ドキュメンタリー映画『我ら山人たち─我々山国の人間が山間に住むのは、我々のせいではない』で、74年のロカルノ国際映画祭国際批評家賞を受賞。85年に発表した『山の焚火』はロカルノ国際映画祭金豹賞およびエキュメニカル賞を受賞し、スイス国内では25万人を動員。スイス映画アカデミーよりスイス映画史上最高の一作に選定され、世界各地で公開された。
14年、自身の母が75歳の時に記した自伝に基づく劇映画『LoveandChance』(原題Liebeund Zufall)を発表し、映画制作からの引退を発表している。
本特集では、『山の焚火』と合わせて<マウンテン・トリロジー(山三部作)>を構成する2本のドキュメンタリー映画『我ら山人たち』と『緑の山』を同時公開。
民話と山人に惹かれたムーラーが、吸い寄せられるように生まれ育ったスイス・ウーリー州の山岳地帯に戻り、長期取材を敢行。そこから生まれたこれら三部作は、人と自然、そしてまるで現代を予知したかのような今日的問題を、驚くほど大胆な創意と圧倒的な映像で描き出す。
完成したポスタービジュアルは、本特集のメイン作品である『山の焚火』より、聾啞の弟が、姉の喉元に手を当てて、その歌声を聞き取ろうとする場面写真を使用。
予告編ではムーラー監督自身による言葉、「山人の生活には、魔術的でアニミズム的な思考が、現実的かつ合理的な思考と共存しながら根付いている」から始まり、『山の焚火』より、広大な山腹を駆け回る少年を横移動するカメラが捉えた名場面を切り取りながら、三作品を紹介している。
「マウンテン・トリロジー」上映作品
①『山の焚火デジタルリマスター版』
広大なアルプスの山腹。人々から隔絶された地で、ほぼ自給自足の生活を送る4人家族。10代半ばの聾啞の弟は、その不自由さゆえに時に苛立つこともあるが、姉と両親の愛情を一身に受け健やかに育つ。ある日、草刈り機が故障したことに腹を立てた弟は、それを投げ捨て、父の怒りを買う。家を飛び出し山小屋に隠れ、一人で生活をする弟。そこに食料などを届ける姉。二人は山頂で焚火を囲み楽しい時間を過ごすが、やがて姉の妊娠が発覚し……。1985年ロカルノ国際映画祭金豹賞およびエキュメニカル賞受賞。
②『我ら山人たち─我々山国の人間が山間に住むのは、我々のせいではない』
ムーラーが自らの故郷ウーリ州の山岳地帯で撮った長編ドキュメンタリー作品。変わりゆく山岳地帯に住む山人たちの生き方と精神世界に迫る。民俗学的なテーマや、共同体の閉鎖性など『山の焚火』に直接的に繫がる多くの要素がこの映画のなかに認められる。1974年ロカルノ国際映画祭国際批評家賞受賞。
③『緑の山』
アルプスの山間で持ち上がった放射性廃棄物処理場の建設計画。土地と自分たちのルーツを守ろうとする反対派と賛成派の住民たちを追ったドキュメンタリー。ムーラーはこの作品を「子どもたちと子どもたちの子どもたち」に捧げており、次世代に対して責務を負うべき大人たちに問いを突きつける。
特集上映「マウンテン・トリロジー」
2020年2月22日(土)よりユーロスペースほか全国順次ロードショー
配給:ノーム