「AI崩壊」の入江悠監督が「ジョーカー」について語り尽くす!
売れない孤独なコメディアンのアーサー・フレックが、悪のカリスマ、ジョーカーに変ぼうするまでを描き出した『ジョーカー』。ヒース・レジャー、ジャック・ニコルソン、ジャレット・レトなど、歴代オスカー俳優たちが演じてきた悪のカリスマ、ジョーカーを演じているのは、『ザ・マスター』『ビューティフル・デイ』のホアキン・フェニックスだ。
入江悠監督は本作について「もともとホアキン・フェニックスの大ファンだったので。彼がジョーカーをやると聞いた時点で必ず、これは面白いだろうと思っていました」と言い、「一見とっつきにくい映画なのかなと思われるかもしれませんが、でも誰もが持っているような孤独や、他者と触れあえない苦しみというものがしっかりと描かれているので、のめり込みやすい。観客が自分に置き換えて観ることが出来る。それはいい映画の条件じゃないかなと思っています」と語った。
さらに、本作がR指定(日本はR15+)作品ながら、全世界で興収1000億円を突破する大ヒットを記録しているの理由について入江監督は、「やはり本物を見たいという観客が増えたんじゃないかという気がするんです。生ぬるいものではなく、本当に自分のこととして感じられるような映画を求めているんじゃないか」と切り出し、「近年はDCやマーベルなどのアメコミ映画が大ヒットを記録していて、観客にある種の安心感が生まれてきている。ジョーカーというキャラクターもある種のブランドになっていましたし。でもそんな安心感の中で、この『ジョーカー』という映画は違和感を抱かせた。この作品は他のアメコミ作品とはひと味違うぞ、突然変異的なものだぞと。そうしたところがお客さんに期待感を抱かせたんじゃないかなと思うんです」と分析した。
さらに「今回ブルーレイを見直してみたんですが、意外と映像がポップだなと思いました。衣装や美術の配色が、暖色と寒色のコントラストになっていて。視覚的にも楽しい画面になっている。ずっと観ていても飽きないような工夫がされているなと思いました。アーサーの家なども小道具含めて、かなり工夫されている。衣装や髪型、髪の色などもそうですが、やはりポップカルチャーをちゃんと踏まえた上で、大人もちゃんと楽しめるように作られていてセンスがいいなと。最先端のプロの仕事をしている」と感じたという。
主人公アーサーを演じるホアキン・フェニックスの鬼気迫る演技には、世界中で絶賛の声が相次いだ。1月に発表されたゴールデングローブ賞のドラマ部門では主演男優賞を獲得。さらに本年度アカデミー賞でも主演男優賞が有力視されている。
「もちろんこの映画の芝居は本当に素晴らしいので、僕としてはアカデミー賞をとってほしいなと思っています」と期待を寄せる入江監督は「ホアキン・フェニックスは世界最高峰の俳優だと思っていて。なんてことないアップのカットひとつを見ても、すごくいろんな感情がそこから溢れてくる。最近いい演技ってなんだろうなと考えるんですけど、きっと情報量が多い演技じゃないかなと思うんです。ひとつの表情の中に、楽しいし、悲しいし、ワクワクしている、といった相反する感情が入り乱れる。そういう演技は情報量が多いなと感じるんですが、その究極がホアキン・フェニックスの演技だと感じますね。
ブルーレイで見直してみると、笑いが止まらないシーンでも、先にちょっとだけ悲しい顔をちゃんと入れてから笑っているんですよね。笑いと哀しみが同居しているということを、きちんと計算しながらやっているんだなというのがすごいですよね。この人の心の中で何が起きているんだろうと、観客の想像がどんどんかきたてられていく。本当に希有な俳優さんです」とのこと。
さらに本作の音楽にも魅了されたという入江監督。「作曲しているのはヒルドゥル・グーナドッティルという女性なんですが、弦を使った音楽が心地良かった。とてもストイックな曲になっていて。アーサーに寄り添ったような、自分の琴線に触れるところがある音楽でしたね。アカデミー賞では作曲賞にノミネートされているので楽しみですね」。
入江監督の最新作「AI崩壊」と「ジョーカー」の共通点は…⁉
そんな入江監督の最新作は、大沢たかお主演の近未来サスペンス『AI崩壊』。同作の舞台は、AIが全国民の個人情報、健康を管理し、生活に欠かせない存在となっていた今から10年後の世界。だが、人に寄り添うはずのAIが暴走し、生きる価値のある人間、生きる価値のない人間を選別し始める…。「『SR サイタマノラッパー』のような等身大の映画が、入江の原点だと言われることが多いんですが、実は幼少期から『AI崩壊』のような、近未来パニック映画が好きでした。こういうジャンルが自分の映画的な原点ですし、ようやくここに戻ってこられたなと思いますね」という入江監督。
「大沢たかおさん演じる主人公の桐生もそうなんですが、社会から拒絶されてひとり漂う人物に関心があります。今までも自分の映画では、コミュニティから分離してしまった主人公が、自分の存在意義やアイデンティティを見失うようなさまを描いてきましたが、それは『ジョーカー』にも共通するところがあると思うんです」と語る入江監督。
『AI崩壊』も『ジョーカー』も、描いている題材こそ違えど、その根底には貧困や格差といった問題が流れている。「世界的な潮流として、優れた監督やプロデューサーたちがそういったテーマをきちんと見つめて作品を生み出そうとしているなと感じます。でも『ジョーカー』はその上で、ちゃんと娯楽作品として楽しめるようになっているのがすごいなと思うんですよね。ポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』にもそういったものを感じます。『AI崩壊』もそういった映画になっていたらいいなと思います」と締めくくった。
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発売・販売元︓ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
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