“秘密の文通”によって明かされる美しきTVスターの死の真相を描いた本作の魅力を紹介する。
幼い頃、憧れのハリウッドスターに手紙を書こうとしたが英語の読み書きができず断念したことがある。そんなことをこの映画は思い出させてくれた。本作は、カナダで子役をしていた8歳のドラン少年が“憧れのハリウッドスター”レオナルド・ディカプリオに宛てた手紙から生まれた物語であるという。一体どんな映画なのかワクワクして観始めると、人気ドラマに出演していたスター俳優のジョンが突然この世を去ってしまう悲劇的な冒頭に驚かされた。謎の死の真相の鍵を握るのは、誰にも知られずにジョンと文通をしていた11歳の少年ルパートだけというのも面白い。ジョンを演じるのは大ヒットドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」のキット・ハリントン、ジョンに憧れている少年ルパートを演じるのは『ルーム』のジェイコブ・トレンブレイだ。
ルパートは子役をやっていた影響で友達が少なく学校ではいじめられがちなのだが、TVドラマ「ヘルサム学園」に出演するスターのジョンを心の支えにして生きていた。“ジョンが大好き!”というルパートの純粋な想いを天才子役ジェイコブは見事に体現しているため、ジョンとの文通を繰り返す姿を微笑ましく見ていた。ところが、ひょんなことから2人が何年も文通していたことが公になり、100通を超える手紙はメディアの餌食となってしまう。突然の嫌な展開に“これはドラン作品の中でも私の好きなやつだ!”と確信し、ジョンと一緒に地獄の苦しみを味わう覚悟をした。
「ゲーム・オブ・スローンズ」では“なにも知らないジョン・スノウ”とたびたびいじられてきたキット・ハリントンだが、この映画のジョンも世間に隠してきた秘密がいつの間にかバレてしまっていてとても気の毒に思った。個人的にジョン・スノウは好きなキャラではなかったためキットにも正直良い印象を持っていなかったのだが、本作のキットの演技は素晴らしく、華やかな世界にいながらも本当はもの凄く孤独なジョンを繊細に表現しており一気に心を掴まれてしまった。観賞後はキットをジョン役に選んだドラン監督に“ありがとう”と心の中で100回は言ったと思う。本当の自分を隠さずに生きるということはこんなにも苦しいものなのかと胸を締め付けられたが、ラストはこれまでのドラン作品の中で最も好きな終わり方で“今すぐにもう一回観たい”と思えたのも嬉しかった。
ナタリー・ポートマンやスーザン・サランドン、キャシー・ベイツなど豪華なキャスト陣が説得力のある演技を見せているのも本作の魅力。ドランは本作について「母と息子、それはこれまで僕が描いてきたひとつのテーマですが、その集大成だと思っています」とコメントしている。ナタリー演じる母親とルパート、そしてスーザン演じる母親とジョンという二組の母と息子の関係性や絆にも是非注目してご覧頂きたい。
(文/奥村百恵)
【ストーリー】
舞台はニューヨーク。大ヒットTVシリーズに出演し、一躍スターの座へと駆け上がった、人気俳優のジョン・F・ドノヴァンが死んだ。自殺か事故か、あるいは事件か。謎に包まれた彼の死の真相を握るカギとなるのは、スキャンダルを巻き起こした、11歳の少年ルパートとの"秘密の文通"。100通以上にわたる手紙から明らかになる、美しきスターの切なくも衝撃的な死の真相とは―。
『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』
監督・脚本・編集・プロデューサー:グザヴィエ・ドラン
脚本:ジェイコブ・ティアニー
出演:キット・ハリントン、ナタリー・ポートマン、スーザン・サランドン、ジェイコブ・トレンブレイ
3月13日(金)より、新宿ピカデリー 他 全国ロードショー
配給:ファントム・フィルム/松竹
© 2018 THE DEATH AND LIFE OF JOHN F. DONOVAN INC., UK DONOVAN LTD.