2020年3月29日、新型コロナウィルス感染により、突然にして帰らぬ人となった国民的コメディアン・志村けん。最近では、“朝ドラ”「エール」の出演や、初の主演映画「キネマの神様」(松竹・山田洋次監督)のクランクインなど役者としても注目されていた。毎週、人気のテレビ番組に出演していたこともあり、彼の死を身近な出来事として、改めてCOVID(コビット)-19の恐ろしさを受け止めた国民は少なくない。
生前、志村さんは大の映画ファンであったという。実は、SCREEN1978年5月号“水野晴郎連載対談”のゲストとして、多忙なスケジュールの中ご出演を頂いていた。その全文を紹介するとともに、彼の笑いの原点に映画があったことを覚え、ご冥福をお祈りしたい。
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笑いを生み出すことの難しさ

画像: 「卒業」1968年6月公開

「卒業」1968年6月公開

水野:他にはどんな映画が印象的でした?

志村:ダスティン・ホフマンの「卒業」ですか、あれが好きですね。初めて見た時は、なんてつまらない顔の男を主役にしたんだろうって思ったんですけど(笑)、最後にはすごく素晴らしく見えてくるんですよね。外国映画の場合、そういうのがかなりあるんじゃないんですか。

水野:そうですね。先程の「ボギー!俺も男だ」にも共通するんだけど、どこにでもいる男だからこそ、そこに親近感みたいなものを感じて、よくその男の気持がわかるんですよね。ダスティン・ホフマンが登場して来た頃から、従来の役者のキャラクターが変わって来ましたね。ヤングの二枚目スターが……アル・パチーノが出てきたり、男優の方がかなり変わったみたいで……、ロバート・レッドフォードが二枚目だといっても、昔の男優とは本質的に違いますものね。

志村:そうですね。

水野:他にはどんな俳優がお好きですか。

志村:あの「ヤング・フランケンシュタイン」の目の大きい人。

水野:ああ、マーティ・フェルドマン?

志村:ええ。たまんなく好きですね、ああいう役者は(笑)。

水野:僕も好きだなあ。

志村:あの人もあんまりしゃべらないでしょう(笑)。

水野:そうですね。「サイレント・ムービー」なんかじゃ当然しゃべらないし……(笑)。

志村:やはり、 顔と身体で笑わせますしね。

画像: 「ヤング・フランケンシュタイン」1975年10月公開

「ヤング・フランケンシュタイン」1975年10月公開

水野:日本映画ではどうですか。

志村:ウーン……、最近見た映画では「幸福の黄色いハンカチ」が良かったですね。久し振りに感動しました。

水野:あの映画の笑いもいいですね。でもどうなんですか、日本映画にかかわらず全体的に見て、日本の笑いというのは?

志村:日本では、何と言うか、笑いをどちらかというと下に見るでしょう。

水野:シリアスな物語が上でね。でも本当は違うんじゃないんですかね。

志村:笑いの方が難しいと思います。

水野:志村さんは、テレビを通じて笑いを日本中に提供していますね。それだけに小学生の子供たちなどには、大きな影響を与えているわけですね。

志村:悪い影響かな(爆笑)。

水野:そんなことはないでしょう(笑)。

志村:僕は日常の中にもっともっと笑いが必要だと思うんです。 特に日本ではね。子供たちがクラスの中でふざけ合ったりすることが、たいへん大切なことだと思うんです。

水野:いやあ!僕もそう思うな。笑いは、日常生活の中で必要不可欠なものだと思う。それが生活の潤滑油となるんですね。

志村:最近の子供たちは、その点で目が肥えているんですよ。ウソではダメなんです。

水野:と言うと?

志村:つまり、舞台が終わった時に、僕たちが汗をかいていないとダメなんです。汗をかいてるといいんですよね。みんな喜ぶんですよ。

水野:わかるな。作り物じゃない本物を見たいという……。

志村:だから、僕たちもがんばるんです。こういうことがありました。舞台で壁や戸に顔からぶつかるギャグなんですけど、終わった時、一人の子供が『あんなに顔を壁にぶつけて平気なの』って言うんです。実は、壁にはトタンが張ってあって、ぶつかると大きな音がするようになってたんです。僕らは手でぶつかるから平気(笑)。これは裏話ですが、子供がああいう反応を示してくれれば、こちらとしては成功なんですよ(爆笑)。

水野:なるほどなあ。いろいろな苦労があるわけだ。

志村:それから、先程も言いましたが、理屈で作ったものは受けませんね。ある程度の反応が前もってわかっていますから、面白くないんです。でも感覚的な、即興的な、顔や身体を使った笑いは違うんですよね。個性的な笑いの方がいいんですね。キャラクターを生かした笑いっていうんですか、そっちの方が受けがいいんです。話は戻りますが、ジェリー・ルイスじゃなければダメな笑いみたいなものがあるでしょう。それが重要な事だと思います。

水野:僕はジェリー・ルイスに会ったんですけど、周囲の者にはすごく彼、厳しいんですよね。でも僕たちが行くと、すぐ三枚目の顔になって、笑わせてくれるんです。志村さん、ジュリー・ルイスと共演したいんじゃないんですか。

志村:とても、とても(笑)。

水野:けっこう、彼を食っちゃったりして(笑)。

洋画は話題を作るのがうまい

画像: 「ビッグ・ガン」1973年11月公開

「ビッグ・ガン」1973年11月公開

水野:ところで、アラン・ドロンはどうですか。

志村:僕は彼の「ビッグ・ガン」が好きです。ああいう彼がいいですね。ただ劇場に彼の映画を見に行くと、女性が多くてね。気になってしょうがないですよ(笑)。

水野:すると志村さんは、映画はお一人で見に行くんですか。

志村:ええ、ほとんど一人で行きますね。女性と行くと、どうも良く見られませんからね。彼女の事ばかり気になって……(笑)。

水野:ドリフのメンバーも、よく映画を見に行くんですか。

志村:ええ、よく映画の話をします。あれはいいから見て来い、なんてよく話しています。

水野:そうですか。御家族の皆様はどうです?

志村:僕のおふくろは、全く洋画がダメなんです。映画見て、字幕を読むのがたいへんだっていうんです(笑)。

水野:すると、テレビなどで見るんですか。

志村:ええ、そうですね。まあ、うちのおばあちゃんじゃないんですけど、テレビ見て『あの外人、日本語がうまいねえ』って見てる方……(爆笑)。

水野:志村さんの好きな女優は?

志村:むこうの人は皆きれいだから(笑)。でもなんと言ってもBB(べべ)が好きですね。僕はどちらかと言うと、小悪魔的な女優が好きですね。でもなぜか、その女優さんの名前を覚えられないんです。別の映画に出てくるたびに、別人のようになって出てくるから(笑)。きれいになったり汚くなって……。

水野:それが女優の魅力の一つなんですけどね。

志村:僕はあの映画が好きなんです。ええと「明日に向って撃て!」ですか。高校卒業の時に見たんですが、たまらなくよかった。腹をかかえて笑いました。

水野:笑いの中にカラッとした青春をうたいあげていて、実にさわやかな映画でしたね。ああいう青春映画が日本にないというのが寂しいですよね。

志村:そうですね。でもむこうの映画は、なんと言っても話題作を作るのがうまいでよ。例えば「大地震」なんか、ただ揺れるだけで、それだけで話題になるんですもの(笑)。やはり、むこうは世界を相手にして映画を作っているからでしょうか。それにしても最近は、日本映画も映画宣伝のキャッチフレーズがうまくなりましたね。僕たちのところにも時々、大入り袋が来るんですよ。

水野:それは、どういうことです?

志村:キャッチフレーズを舞台で使うからです。「サスペリア」の“決して一人では見ないで下さい”とか、「八つ墓村」の“たたりじゃあ!”なんかを(笑)。

水野:なるほど、それはいい。大いに日本映画のためにがんばって協力して下さいよ(笑)。これからも日常生活の中にもっともっと笑いを提供して下さいね。御活躍をいのります。

画像: 「明日に向って撃て!」1970年2月公開

「明日に向って撃て!」1970年2月公開

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