「ゲーム・オブ・スローンズ」のHBO®と『ジョーカー』のDCコミックスが最強タッグを組んで放つ「ウォッチメン」は、アメコミ最高峰ともいわれる原作「ウォッチメン」から34年後となる現代アメリカを新たに描き出す、異色の歴史改変SFアクション。すでにデジタル先行配信中の本作だが、このたび6月3日のブルーレイ・DVD発売とレンタル開始に向けて、本作をより深く楽しめるコラム情報【WatchmenJournal】を計3回にわたりお届け。 Vol.2は「SCREEN」でもおなじみのアメコミ系ライター杉山すぴ豊による、 アメコミ愛むき出しの熱い解説を紹介する。

原作が長編小説並みの「ウォッチメン」は、TV シリーズとの相性抜群!

「ウォッチメン」のTVシリーズは「ゲーム・オブ・スローンズ」のHBO®と『ジョーカー』を生んだDCコミックスが手を組んでいるので、海外ドラマファン、アメコミファンにとって大注目の作品なんです。特にアメコミ好きには原作コミックが傑作中の傑作として知られているので、いやが上にも期待はあがりますね。「ウォッチメン」は2009年に映画化されていますが、原作は長編小説並みのボリュームと濃さがあるので、じっくり描こうとするならばTVシリーズの方が相性はいいハズ。結論から言うと、TVシリーズにしたのは大正解で見応えのある傑作に仕上がっています。しかしその内容は、とりわけ原作や映画版を知る人にとって大いにビックリするコンテンツだったのです。

というのも、“あの原作”をドラマ化したのではなく、そこから34年後の世界を描き出した続編的内容だったからです。当初僕は原作の内容をTV シリーズとして楽しむつもりだったので、第1話を見た時、正直唖然としました。ではつまらないのか?No!では“あの「ウォッチメン」”を知らないと楽しめないのか?No!です。パワフルでやみつきになるドラマ です。その魅力を、そもそも「ウォッチメン」とは何かを交えながら解説したいと思います。

“ヒーローが出てくるが、ヒーローものではない“社会派大人向け作品

原作は 1986 年に発表されたアメコミ。ただその内容はとても大人向けで、グラフィックノベルといわれたりもします。出版社はバットマンやスーパーマンに代表されるDCコミックスですが、いわゆるDCヒーロー物とは別の世界観で描かれています。作者の1人アラン・ムーアは、ジョーカーを描いた「バットマン:キリングジョーク」という作品も大変有名で、僕が冒頭で“『ジョーカー』を生んだDCコミ ックス”と言ったのはそのためです。

「ウォッチメン」はいわゆるヒーローが出てきますが、 ヒーローものではありません。ヒーローが実在するという設定のアメリカを舞台に、迫りくる第三次世界大戦=核戦争への恐怖を描いた作品だったのです。発表当時は米ソの対立が実際に高まっていた時期で、ポリティカル・フィクション(フィクションの手法で政治的なテーマを描いた作品)でもあります。とても大雑把にいうと『シン・ゴジラ』が巨大怪獣の来襲という筋立てで、日本政治の仕組みや危機管理をうまく描いていました ね。ヒーローたちを狂言回しにして当時の社会不安を描いた作品だと思ってください。

1921年に起きた”タルサの虐殺“という史実に基づき描かれている

というわけでコミックと映画版は1985年が舞台ですが、TVシリーズ「ウォッチメン」は2019年の米オクラホマ州のタルサが舞台。この街では1921年に“タルサの虐殺”と呼ばれる、白人による黒人たちへの集団暴力事件が起きており、多くの黒人が虐殺されたという暗い史実があります。主人公アンジェラ(演/レジーナ・キング)は黒人女性でこの街の警察官。街では“第7機兵隊”とよばれる秘密結社が暗躍しており、彼らは極めて過激な白人至上主義者の集まりです。メンバーの証として覆面を被っています。

画像: 黄色いマスクで素性を隠す覆面警察

黄色いマスクで素性を隠す覆面警察

かつて“第7機兵隊”は黒人の味方をするタルサ警察に敵意を抱き、警官たちの自宅を一斉に襲うというテロ行為(=ホワイトナイト事件)を起こします。以来、タルサの警察官は自分と家族の身を守るため、みな覆面をして、その職務と素顔を隠すようになったのです。一般の警察官は黄色いマスク、刑事はそれぞれが独自のマスクとコードネームで身分を隠し、アンジェラは<シスター・ナイト>と名乗り、まさに戦う修道女(シスター)のようなコスチュームに身をつつみ“第7機兵隊”を追うのです。しかし、タルサ警察の署長が殺されたことからアンジェラの運命は大きく変わっていきます。

警察とテロ集団がそれぞれ覆面をしているという異常さを除けば、署長殺しの裏に隠された陰謀とは?を描いていくクライム・サスペンスなのですが、ここで描かれるアメリカ社会は僕らが知っているアメリカとはちょっと違います。“タルサの虐殺”は史実なのだけれど、ここに登場するアメリカこそ、映画やコミックの「ウォッチメン」で描かれた“もう一つのアメリカ”なのです。物語を見続けていけば、一応これらの設定がわかるようにはなっているのですが、以下の「ウォッチメン」メモでざっと説明しますね。

【TVシリーズ「ウォッチメン」 観る前のこれだけメモ】

●1938年に頭巾を被ったフーデッド・ジャスティスというヒーローが現れ、彼に賛同した者たちがミニッツメンというヒーロー・グループを結成し、アメリカの治安を守ることに貢献した。
●ミニッツメンの伝統を受けて、その後のアメリカ社会には“覆面ヒーロー”たちが多数現れるようになる。
●覆面ヒーローたちは超能力を持っておらず、いわゆる腕っぷしの強い生身の人間である。
●しかし、科学実験の事故から生まれた超人Dr.マンハッタンという真の超人が現れる。全身が青く、あらゆる物理現象を操り、また独特の時間の概念を持つ。
●Dr .マンハッタンの介入により、アメリカはベトナム戦争で勝利する。ベトナムのサイゴンはアメリカの州となっている。
●1985年アメリカとソ連(=現ロシア)の対立が高まり、核戦争ギリギリのところまでいくが、NYで人類史上最も恐ろしい事件が起き数百万人の命が奪われる。 米ソは対立を止めて手を組むことになり、世界に平和が訪れる(これが原作、映画版のメインストーリー部分)。
●この事件を機に、地球一の頭脳を持つといわれたエイドリアン・ヴェイトことオジマンディアスというヒーローが表舞台から姿を消し、Dr .マンハッタンも人類と別れを告げて火星に引きこもってしまう。さらに、Dr.マンハッタンの恋人であり、女性ヒーローだったシルク・スペクターことローリーも引退する。
●その後、あの俳優ロバート・レッドフォードが大統領になる。 -

4話くらいからの伏線回収!もうそこからは引き返せない……

クセのある HBO®らしい重厚なストーリー、トンマナとかすごくかっこいいです。全9話中4話ぐらいから色々と繋がってきて、そこからはもう引き返せない面白さです。観終わった後、ああ面白かった!と言える作品なのは間違いありません。ただ、このTVシリーズが描いているのは偏見と差別によるアメリカの分断だったりもします。原作や映画版では、第三次世界戦争への懸念が大きなテーマでしたが、本作ではアメリカの分断——そう、ヘイトクライムは核戦争と同じくらい悪しきものなのかもしれません。ふとそんなことを思ってしまいました。

画像: 【ウォッチメン・ジャーナルVol.2】アメコミライターが語る本作の魅力とは?

「ウォッチメン」 シーズン1
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【発売・販売元】 ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
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