(カバー画像撮影:萩原 順子)
大手チェーンも苦戦する中、ドライブイン・シアターに脚光が
2020年3月13日、アメリカ合衆国でコロナウイルス感染による国家非常事態が宣言された。その直後、全米で映画館が次々と休館していき、4月末現在も国内の5500館以上が依然として休業中である。
ロサンゼルスの大型ショッピング・モールの一角を占めるシネマコンプレックスの入り口にも一時休館を告げる紙が貼られているが、いつまでの休館なのかは明記されていない。映画館の従業員らは一時解雇されたままだし、業界大手の映画館チェーン、AMCはリストラを検討し始めたとも伝えられている。
そのような大手映画館チェーンが破産申請した場合、所有している映画館の中で、集客力のあるショッピング・モール内のシネマコンプレックスは生き残れる可能性が高いが、単一スクリーンの映画館は閉館されてしまうのではないかと言われている。
例外はドライブイン・シアターで、家族や友人たちだけで車の中にとどまることができて、不特定多数の人々と接することなく大きなスクリーンで映画を鑑賞できるということで、自宅の外でも安全に楽しめる貴重な娯楽施設となっている。
ただ、詳細は後述するが、現在、映画配給会社が新作の劇場公開を見合わせているため、ドライブイン・シアターで楽しめるのはすでに公開済みの過去の作品のみ。そのような事情もあって、営業されているドライブイン・シアターでも大盛況という状態にはなっていないようである。
独立系配給会社はそれぞれに独自の生き残り作戦を展開
映画興行がこのような苦境に置かれている中、独立系配給会社は、自社作品を多く上映してきたアートハウスと呼ばれる映画館(日本ではミニシアターに当たる小規模映画館)と組み、映画館のウェブサイトを通して上映予定だった作品を有料ネット配信する〝ヴァーチャル・シネマ〞という、独自の生き残り作戦を展開している。
配信料は、映画館の入場料より少し安めの価格設定にし、収益は従来の映画興行と同じ配分で配給会社と上映館が折半する。大手配給会社も、映画館が休業に入る時点で既に公開されていた作品や控えめな製作規模の新作をネット配信に切り替えて対応していたが、独立系配給会社とアートハウスは、さらにもう一工夫。新作の公開にあたっては、監督や俳優たちとのQ&Aセッションをライブ配信するなどして、イベントの雰囲気を再現してヴァーチャル・シネマのアピール力を高めようと努めている。
ネット配信で新作を〝上映〞することについては、観客が自宅で映画を観ることに慣れてしまい、コロナウイルス禍が終息した後も映画館に来なくなってしまうのではないかと危惧する声もある。しかし、スクリーン数の少ないアートハウスでは、これまでだったら限られたスペースゆえ上映を断ってきたような作品の配給会社に対し、ネット配信上映のオプションを提供できるのではないかと考える劇場主も居る。
また、全米の映画館が営業を再開させるやいなや、これまで公開が延び延びになっていた大手映画会社の大作が次々に公開されていくことが予想され、そうなると独立系プロダクションの作品や低予算作品の上映の場が一時的とはいえ激減する可能性も大きい。そのような場合でも、ヴァーチャル・シネマは新たな興行フォーマットとして大いに活用されていくことが考えられる。
独立系配給会社の中には、映画館休業に伴い一時解雇された従業員たちのサポートに乗り出したところもある。「トワイライト初恋」や「ハンガー・ゲーム」などの作品で知られる映画製作・配給会社のライオンズゲートはそのような会社の1つで、アメリカの映画チケット販売会社やYouTubeと提携。自社作品を無料でネット配信し、視聴した人たちから寄付金を募って勤続5年以上の映画館従業員たちに贈る事業を開始した。
第1回目は、ジェイミー・リー・カーティスが紹介する「ハンガー・ゲーム」で、まずまずの視聴者が集まったものの、残念ながら寄付金は予想した額を下回る結果になったようだが、その後もジェニファー・グレイ紹介による「ダーティ・ダンシング」、「ラ・ラ・ランド」、そしてキアヌ・リーヴズが紹介する「ジョン・ウィック」と配信して、寄付金を募り続けるとのことである。
映画館で新作が上映される可能性があるのは2020年7月から?
アメリカでは、4月末現在も感染者数や死亡者数が増える勢いが弱まる兆しは見えていないが、長引く商業活動の自粛規制に耐えられなくなった保守層を中心とした一部の国民が抗議行動を起こし始めた。
それを受けて、南部の保守系の州知事が商業活動の規制を解除。ジョージア州では、2020年4月27日から映画館などの施設の営業再開許可を出し、オクラホマ州やテネシー州、テキサス州の知事も、5月1日からの映画館営業を再開する許可を出すことを明らかにした。
しかし、これらの州でも5月中に営業を再開させる映画館はごく少数だと見られている。その最大の理由は、映画館を開けても上映する作品が無いからだ。製作費が莫大なハリウッド製大作は、宣伝やマーケティングにも多額のコストがかかるため、全米中の映画館で一斉に公開されなければ採算が取れない。それゆえ、配給会社としては、全米で商業活動が再開されるまでは新作の公開を保留する必要がある。
それがいつになるかという正確な予測は不可能であるが、映画業界では今のところ、クリストファー・ノーランの新作「TENET テネット」の公開が予定されている7月17日になるのではないかと言われている。
その翌週には、ディズニー・アニメーションの実写化「ムーラン」の公開が予定されており、その時点でコロナウイルス感染者数が下降線をたどっていれば、映画興行再開が実現するだろう。
映画館の営業再開にあたっては、数々の安全対策が取られることが予想されている。たとえば、チケットのもぎりはセルフスキャンで客とスタッフの接触を減らす、座席は前後左右を空けてチェス盤のように配置、座席はひじ掛けも含め回と回の間に消毒、客にも除菌シートを手渡す、ポップコーンなどスナックやドリンクも従業員の手が触れないような扱い方に変える、などといった対策が検討されているとのこと。
疫学者や医者などの専門家ですら終息の見通しを立てるのが難しいようなコロナウイルス禍だが、50年代のテレビ、80年代のホームビデオ、そして21世紀に入ってからのインターネットなど、対抗するメディアの普及によって、存続の脅威にさらされても生き残ってきた映画館ゆえ、コロナウイルスにも打ち勝つ日を心待ちにしていきたい。