「現代日本の凶悪犯の心理を代弁するかのような先駆的映画である」
本作は、1980 年に同国で実際に起きた殺人鬼ヴェルナー・クニーセクによる一家惨殺事件を映画化した実録スリラー映画。83 年公開当時はそのショッキングすぎる凄まじい内容により各国で上映中止となり、VHSが発売された日本でもほぼ陽の目を見ることはなく、観たくも観れない作品となり現在に至っている。
このたび解禁されたのは。主人公の異常な様子を捉えた閲覧注意の本編映像。映し出されるのは、主人公 K.が事故を起こすシーン。
直前に何があったのか、落ち着きのない様子で車を運転する K.が、勢いあまって前方の車に衝突。周囲の人々が集まって来ると、パニック状態に陥る。そして次の瞬間、運転席で狂ったように暴れ出す衝撃的な映像となっている。
あまりに奇妙で恐ろしい姿に身の毛がよだつが、これほどまでに K.を追い詰め、異常な精神状態を生み出した背景に一体何があったのだろうか。
この主人公の心理状態について、本作を鑑賞した二人の専門家が分析。元刑事で犯罪ジャーナリストの小川泰平氏は、主人公の犯行について「犯罪心理では計り切れない心理状態と凶暴かつ冷酷非情な行動」であると話す。
長年の警察人生で多くの事件を担当してきた小川氏でも「犯罪心理やプロファイリングでは到底追いつかない、考えもつかない、異常に常識を逸脱した残忍な行動には驚き以外何もない」とコメント。
さらに、心理学者(学術博士)の桐生正幸氏は、主人公の殺害動機について「まさに現代的なもの」であると語る。「過去の犯罪は、お金や人間関係のトラブルが主な動機だった。しかし、昨今の動機が理解できない殺人事件は、概ね、犯人が抱く個人内葛藤を解決するために犯行に及んでいる。犯人
にしてみれば、その時の被害者は、たまたまそこに居合わせただけであり、ただ、自身の得体のしれない不安だけを、その被害者に投影しているのである。この映画の主人公は、我々から理解してもらえない動機を、”家族殺し”を実行することで、自ら告白し表現した。現代日本の凶悪犯の心理を代弁するかのような先駆的映画である」と考察。
公開から 37 年もの時が経っているにも関わらず、「先駆的な犯行」を映し出しているという恐ろ
しい本作。忘れてはならないのは、この映画が娯楽を目的とした作品ではなく事実に基づく物語であるということ、そしてモデルとなった実在の殺人鬼は、今もどこかで生きているかもしれないということだ。
観る者の気持ちまで不安にさせ、心に深い傷痕を残す危険性がある本作。鑑賞にあたっては「この手の作品を好まない方、心臓の弱い方はご遠慮下さいますようお願い致します」という警告文も発信されている。
※本作は、1980 年にオーストリアで実際に起こった事件を描いております。当時の司法制度では裁ききれなかった為に発生した事象であり、本映画をきっかけとして以降大きく制度が変わりました。劇中、倫理的に許容しがたい設定、描写が含まれておりますが、すべて事実に基づいたものであります。本作は娯楽を趣旨としたホラー映画ではありません。特殊な撮影手法と奇抜な演出は観る者に取り返しのつかない心的外傷をおよぼす危険性があるため、この手の作品を好まない方、心臓の弱い方はご遠慮下さいますようお願い致します。またご鑑賞の際には自己責任において覚悟して劇場にご来場下さい。
アングスト/不安
2020年7月3日(金)よりシネマート新宿ほか全国順次公開
配給:アンプラグド
©1983 Gerald Kargl Ges.m.b.H. Filmproduktion