壊れた愛を再生しようとしてすれちがうカップルの普遍的でロマンティックな物語
本作は1995年のケベック州独立運動を背景に、ある(元)夫婦の過去・現在・未来の物語を詩的に描いた長編アニメーション。インスピレーションとなっているのは、日本では村上春樹の翻訳で知
られている短編の名手レイモンド・カーヴァーによる隠れた傑作小説「シェフの家」だ。
離婚した元カップルーー過去に引きずられる男と未来へと目を向ける女ーーの再会と再度の別れを淡々と描き出す20ページほどの短編が、本作においては、1995年、カナダからの独立を目指し住民投票を行ったケベック州(フランス語圏)におけるカップルの物語へと移し替えられる。
その大胆な移植によって、カーヴァーの原作は本作において壊れた愛を再生しようとしてすれちがうカップルの普遍的でロマンティックな物語でありつつ、世界中で高まる独立運動やそれへの弾圧といった現代の社会的な問題ともリンクする寓話へと変貌を遂げることになる。
監督は本作が初めての長編アニメーション作品となる新鋭のアニメーション作家フェリックス・デュフール=ラペリエール。全編が墨絵の手描きによって生み出されるシンプルで奥深い映像美、随所に詩の朗読が挟まれる芸術的な構成が、これまでのアニメーションではあまり見られなかった成熟したテーマと物語を贅沢に語りあげる本作は、ベネチア映画祭の「ヴェニス・デイズ」部門でプレミア上映、アヌシー、ザグレブといった世界的なアニメーション映画祭でのコンペティション上映など、アニメーションのみならず映画界でも高い評価を受ける必見作となっている。
このたび公開決定にあわせて、山村浩二(アニメーション作家)や秦早穂子(映画評論家)からのコメントも到着した。
山村浩二/アニメーション作家
変革の鐘は鳴ったのか。未練、歯がゆさ、残り火、残光、取り戻せないものと、新しい光、希望との板挟み。前進しているようでゆっくりと後退していく感覚。モノクロームのミニマムな画面に、ケベックの黄昏の淡い色の変化を見た気がした。
秦早穂子/映画評論家
分かりやすさばかりが求められる時代に息苦しさを感じるあなたの
死んでしまった心を掻き起す映画。
男との女の色気、その関係性の陰影(ニュアンス)がざわめくなか、
政治、国、そして世界が拓けて見えてくる。
新しい街ヴィル・ヌーヴ
2020年9月より、渋谷シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー
配給:ニューディアー
©L'unité centrale