住人の心理的描写のみで血も凍るような緊迫したサスペンス性を獲得
本作は、戦地シリアを舞台に自らの住むアパートの一室をシェルターにし、身を寄せる家族と隣人一家の緊迫の 24 時間を描いた密室劇。
暴力を視覚化した衝撃描写であおる手法は避け、聴こえてくる音と住人の反応によって恐怖を伝える演出は、戦地に実際に立ち会っているかのような究極の臨場感を醸し出す。
戦争や兵器の映像を出さずとも、住人の心理的描写のみで、血も凍るような緊迫したサスペンス性を獲得した本作は、現在進行形のシリアの悲劇を世界に伝える役割を果たし、第 67 回ベルリン国際映画祭で見事、観客賞を受賞。その後も数々の映画祭を席巻し 18 冠を獲得した。今こそ世界に伝えたい、終わらない悲劇の物語だ。
このたび解禁された予告編には、未だ内戦の終息が見えず、アサド政権と反体制派、そしてISの対立が続く戦地シリアの様子が市民の目線から捉えられている。
シリアの首都ダマスカスのアパートに住む女主人のオームは戦地に赴いた夫の留守を預かり、家族と共にアパートの一室にこもり、そこに身を寄せた隣人で、幼子を持つハリマ夫婦とともに、何とか生活を続けている。不安を抱える子どもたちに「もうすぐ戦争は終わって安全になる」と言い聞かせるオーム。
しかし一歩外に出ればスナイパーに狙われる状況。爆撃が建物を振動させ、さらに強盗が押し入ろうとする。果たしていつまで持ちこたえられるのか…。息をのむような切迫感、緊張感に満ちた映像になっている。
あわせてジャーナリストの綿井健陽氏からのコメントも解禁された。
『シリアにて』で聞こえる音の恐怖の“感染”は、際限が無い。銃声や爆音だけではなく、扉を叩くわずかなノックの音、空爆の着弾音、救急車のサイレン、怒鳴り声、嗚咽……。この緊迫のステイホームで繰り広げられる光景は、コロナ禍前から10年近く続く、世界が救えなかった実在のシリア人たちの閉ざされた部屋のように見える。
―――綿井健陽(映像ジャーナリスト/映画監督)
シリアにて
2020年8月22日 (土) より岩波ホールにてロードショー ほか全国順次公開
配給:ブロードウェイ
©Altitude100 – Liaison Cinématographique – Minds Meet – Né à Beyrouth Films