カバー画像:Photo by Carlos Osorio/Toronto 7 Star via Getty Images
政府が本当に正しいかどうか疑問視することが大切だと思います
キーラ・ナイトレイ
舞台役者ウィル・ナイトリーを父に持ち、子役時代から活躍。世界的人気シリーズ「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズのヒロイン、エリザベス・スワン役で大ブレーク。2013年にミュージシャンのジェームズ・ライトンと結婚し、現在は二児の母親。1985年3月26日生まれの35歳。
10歳に満たないうちから映画デビューを飾り、すでに20年以上のキャリアを誇るイギリスのトップ女優キーラ・ナイトレイ。2018年、彼女は大英帝国勲章第4位・OBEを授与された。
女優としての功績が認められたのはもちろん、社会奉仕活動も評価されての叙勲だった。彼女が女優業の傍ら積極的なボランティア活動を行なっていることは広く知られている。
南スーダンの難民キャンプを訪問し、その窮状を目のあたりにした彼女は、支援のための短編映画製作に参加。またアカデミー賞で着用したドレスをオークションにかけ、落札金を東アフリカの救援活動に寄付したり、DV(家庭内暴力)反対のチャリティー広告に出演したこともある。自らの名声を社会に還元する彼女の責任感と問題意識の高さは誰もが認めるところだ。
彼女の新作「オフィシャル・シークレット」はイラク戦争を止めるべく国家に戦いを挑んだ英国人女性の実話の映画化。当時17歳で、撮影でアメリカにいたというキーラは、この事件についてほとんど知らなかったという。
だからこそ、この重要な物語を広く知らしめるべきだと出演を決意したそうだ。世界に伝えるべき物語か否か。彼女にはそれが出演作品を決める大事な基準の一つになっている。
現代史の重要な部分を担う出来事に大きな興味を抱いた
──「オフィシャル・シークレット」で描かれるのは、あなたが17歳だった当時の出来事です。この事件について覚えていましたか?
『事件については覚えていませんでした。政治的な意識は強い方ですが、当時、私は「パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち」の撮影でアメリカにいたので。作品内でも触れられていますが、アメリカでは報道されなかったんです。現代史の重要な部分を担う出来事に大きな興味を抱きました。
語るべき、そして表に出すべき重要な物語だと思いました。この映画が面白いのは二つの見方があるところです。政府の不正を暴露し、多くの命を救った彼女は正しいという考え。
その一方で、諜報機関の職員である彼女は、機密情報を守るべきだったと考える人もいると思います。どちらも間違いではないし、映画を見てぜひ誰かと話し合ってみてほしいです』
──諜報職員のキャサリン・ガンという実在の人物を演じるにあたってどのようにアプローチしましたか?
『事件を記した本作の原作ともいうべき本を読み、「チルコット・レポート(イラク戦争検証報告書)」の重い内容も読みました。当時の政府の電子メールにも目を通しました。それが演じるときに必要な背景を与えてくれました。
その知識から、おそらくキャサリンはその文書をリークすることを正しい行ないだと確信していたのだと思いました。キャサリン本人にも会いました。ただ彼女はかなり難しい立場にいたので、事件について話してもらうのは簡単なことではありませんでした。
彼女は今でも国家機密保護法の縛りの中にいます。私はジャーナリストではなく女優です。彼女が話してもいいと思う以上のことを教えてくれと無理強いできる立場にはありません。それに、ギャヴィン(監督)がすでに彼女に取材をしていて、すべての真実は脚本にありました』
──弁護士役を演じるレーフ・ファインズをはじめ、マット・スミス、マシュー・グードといったイギリスを代表するキャストが集まりましたね。
『これはキャサリンの物語ではありますが、その周囲の記者やメディアの物語が映画をドラマチックにしています。たった一つのシーンの出演や、いくつかのセリフしかない役でも、素晴らしい俳優たちが出演してくれました。全員がこの物語に参加したいと思ったからです。それが現場にエネルギーを与えてくれました。本当に特別なことだと思います』
──監督のギャヴィン・フッドはアカデミー賞外国語映画賞を受賞した「ツォツィ」など議論を巻き起こす作品を次々と発表していますね。彼との仕事はいかがでしたか?
『とても仕事しやすかったです。何よりも彼はとても人がいいんです。監督なのに珍しいタイプ(笑)。それにエネルギッシュです。やれるものなら全部の役をひとりで演じて、メイクや衣装も、ひとりで全部やりたかったと思います。弁護士だったし、兵役もしていたから、知識が豊富なんです。信念を持って作品に取り組んでいました。物語を絶対的に信じているし、全く恐れてないんです』
──本作にはどんなメッセージが込められているのでしょうか?
『これは良心と倫理観について描かれた物語です。深刻な疑問を投げかけてきます。良心を持つ人は諜報員にはなれないのかもしれない。でも本当にそれでいいのでしょうか?
たとえ政府が不正を行なっていたとしても、諜報員はその情報を公にはできません。逮捕されてしまうから。それでいいのでしょうか?作品を見れば分かるのですが、政府は不正を行なっても法の裁きを免れてしまう。本当にそれでいいのでしょうか?そうした問いをこの作品は訴えかけています。
政府が正しい行ないをしているのかどうか、政府の倫理観と行ないに疑問を持つべきだと。面白い討論になると思います。どんな意見を持っていたとしても。イギリスの国民もアメリカの国民も、どの国の人も同じです。政府が正しいかどうか疑問視することが大切だと思います』
「オフィシャル・シークレット」
2020年8月28日(金)公開
監督:ギャヴィン・フッド
出演:キーラ・ナイトレイ、マット・スミス、マシュー・グード、レイフ・ファインズ
2003年のイラク開戦前夜、英米政府を揺るがした告発事件の実話を基にしたポリティカル・サスペンス。「ウルヴァリン:X-MEN ZERO」「ツォツイ」など多彩な作品で知られるギャヴィン・フッドが監督。
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