“黄金の耳”と呼ばれる人並み外れた聴覚を持つ特殊分析官・シャンテレッドが、フランス軍の潜水艦に乗り込み、危機を乗り越えるべく奮闘する姿を描いた『ウルフズ・コール』。
昨年6月に開催された『フランス映画祭 2019』で来日したフランソワ・シヴィルとアントナン・ボードリー監督のSCREEN ONLINE単独インタビューをお届けする。
画像1: フランス発の潜水艦サスペンス映画『ウルフズ・コール』
フランソワ・シヴィル × アントナン・ボードリー監督インタビュー

昨年開催された『フランス映画祭2019』で公開され、喝さいを浴びた映画『ウルフズ・コール』。
本作で長編監督デビューを果たしたのは、元外交官そしてコミック作家というユニークな経歴を持つ新鋭アントナン・ボードリー。
主演を務めるのは、ジュリエット・ビノシュのバーチャル上の恋人役を演じた『私の知らないわたしの素顔』や『ラブ・セカンド・サイト はじまりは初恋のおわりから』のフランソワ・シヴィル。
更に『最強のふたり』のオマール・シーや『アメリ』のマチュー・カソヴィッツなど実力派俳優が脇を固めた本作は、緊迫の潜水艦サスペンス & アクション大作となっている。
昨年6月に開催された『フランス映画祭 2019』で来日した際に、フランソワ・シヴィルとアントナン・ボードリー監督がSCREEN ONLINEの単独インタビューに応じてくれた。

フランソワ「人類滅亡の危機を救うために
自分の特別な能力を使って立ち向かう姿を僕は美しいと思いました」

ーー監督は何故この物語を撮ろうと思ったのでしょうか?

アントナン・ボードリー監督(以下、アントナン監督)「思春期の頃の話ですが、“友達のために自分を犠牲にする”といったテーマが描かれた作品を沢山観ていた時期があって、それは僕にとってとても大事な問題だと感じていました。それから何十年も経ったある日、“潜水艦でなら自己犠牲に基づく友情の物語を描けるかもしれない”と思いついて、それで本作の企画をスタートさせました」

ーーシャンテレッドは人並み外れた聴覚を持っていますが、実際の潜水艦にも彼のような分析官は乗っていたりするのでしょうか?

アントナン監督「たいてい一人は黄金の耳を持つ分析官が潜水艦に乗っていると言われていますが、機密事項らしいので詳しいことは僕にもわからないんですよね」

ーー事前のリサーチや資料集めなど大変だったのでは?

アントナン監督「長い期間潜水艦に乗って様々な体験をさせて貰ったおかげでしっかりとリサーチすることができました。フランソワも一緒に潜水艦に乗っていたけどどうだった?」
フランソワ・シヴィル(以下、フランソワ)「潜水艦の中で乗組員の方々と色々話したのですが、おかげで僕も様々なことをリサーチできたので凄く良かったです」

ーーこういった作品はリアリティをいかに出せるかが大事だったりしますしね。

アントナン監督「おっしゃる通りで、リアリティを出すことは本作にとってとても大切なことでした。というのも、明日もしかしたら本作と同じような危機的状況に陥るかもしれませんよね。もちろんそんなことは起きて欲しくないのですが、そのぐらいのリアリティを感じながら撮っていましたし、どんな仕組みでそういったことが起きるのかを徹底的に調べてリアルに描くことはとても大事でした」

ーーフランソワさんは事前のリサーチの他にどんな準備をされましたか?

フランソワ「シナリオを読んだあとに監督と長旅をする機会があって、その時に色んな話をしながらシャンテレッドの人物像を固めていきました。例えば“伝説のオルフェ(ギリシャ神話に登場する吟遊詩人のオルペウス)”をヒントにしているとか、他にも監督とあらゆる話をして、そういった内容からインスピレーションを受けてキャラクターを作り上げていきました。それから、分析官というのは特殊な職業なので、分析官らしい動きなどもしっかりと理解して演じられるように研究もしましたね。シャンテレッドは僕のキャリア史上最もリサーチや準備をして挑んだ役と言えます」

ーー伝説のオルフェをヒントにキャラクターを作り上げたというのは面白いですね。

フランソワ「オルフェが竪琴を弾いて歌う吟遊詩人というのも興味深いですよね。詩人というのは様々な物や事柄に対して言葉を使って表現しますが、シャンテレッドも聴こえてきた音に対して詩的な言葉でその音を表現したりします。そういった意味ではオルフェとの共通点を感じました。他にもギリシャ神話のオルフェの物語を読むとシャンテレッドの生き方と少し通じるところがあるので、そこも参考にしていました。ご覧になってみていかがでしたか?」

ーーシャンテレッドが任務を全うしようとする姿に心を動かされたのはもちろんですが、時折見せるチャーミングな部分もとても魅力的に感じました。

フランソワ「ありがとうございます。シャンテレッドの人間らしい部分を少しでも感じて頂けたのならば僕のお芝居は成功したと言えますね(笑)。まだ若いシャンテレッドは任務においてベテランでもないのにもの凄い重責を背負わされていて、聴こえるか聴こえないかぐらいの繊細な音を聴き取らなければいけません。人類滅亡の危機を救うために自分の特別な能力を使って立ち向かう姿を僕は美しいと思いました」

画像1: フランソワ「人類滅亡の危機を救うために 自分の特別な能力を使って立ち向かう姿を僕は美しいと思いました」

ーー緊迫したシーンも多かったですが、現場の雰囲気はどのような感じだったのでしょうか?

フランソワ「基本的に座ったままのお芝居が多かったので、その体勢で緊迫した空気を出さなければいけないのが大変でした。それから15分ほど長回しで撮ったシーンがあるのですが、役者陣がみんなクタクタになっていたのを覚えています(笑)」
アントナン監督「僕がなかなかカットをかけなかったシーンのことだね(笑)」
フランソワ「ほんとにみんなクタクタになっていたんですよ(笑)。そんななかオマール・シーが場を和ませてくれたのでホッとできたというか。彼が現場に入ってくると不思議とみんなが“幸せ〜”と感じるんです。カリスマ性があって素晴らしい方だなと心から思いました」

画像2: フランソワ「人類滅亡の危機を救うために 自分の特別な能力を使って立ち向かう姿を僕は美しいと思いました」

ーー素敵なエピソードですね。最後に、お二人の映画館での思い出を教えて頂けますか。

アントナン監督「二日続けて同じ映画館で同じ作品を観たことがあります。リチャード・リンクレイター監督の『6才のボクが、大人になるまで。』という映画なのですが、2回目の鑑賞時に知らない女性が隣りに座ったんですね。そしたらその方が何故かものすごいリアクションをしていたので、初見の時とは全く違う印象を映画から受けたんです。その時に、映画館で観るというのはこういう体験をすることなんだなと改めて思った記憶があります。同じ映画でも共有する人によって全く違うものになるというのは面白かったですね」
フランソワ「5、6歳の時だったと思いますが、初めて映画館で観たのがアニメの『ライオンキング』でした。シンバのお父さんのムファサが死んでしまうシーンで号泣してしまって、観終わっても涙が止まらなかった記憶があります(笑)。その時に、“映画ってもの凄く人の心を動かす力があるんだな”と子供ながらに思ったんですよね。その経験が僕の俳優人生に大きな影響を与えていると思います」

画像3: フランソワ「人類滅亡の危機を救うために 自分の特別な能力を使って立ち向かう姿を僕は美しいと思いました」

(インタビュアー・文/奥村百恵)

【ストーリー】
フランス軍の潜水艦で、並み外れた聴覚を活かし「黄金の耳」と呼ばれる特殊分析官として従事するシャンテレッド。それは僅かに聞こえる音から敵の動向を探る重要なポジション。しかしシリアでの潜航任務中、彼は怪しげな音に気づくも識別に失敗し、その判断ミスから甚大な危機を招いてしまう。彼の耳を惑わせたのはまるで“狼の歌(呼び声)”のような正体不明のソナー音。やがて再びその音が聞こえたとき、シャンテレッドは人類滅亡の危機を賭けた決断を迫られる。

『ウルフズ・コール』
全国公開中
監督・脚本:アントナン・ボードリー 
出演:フランソワ・シヴィル、オマール・シー、マチュー・カソヴィッツ、レダ・カテブ
2019年:フランス/115分/カラー/シネマスコープ/5.1ch/原題:Le Chant du loup/フランスほか/字幕翻訳:大城哲郎/配給:クロックワークス
© 2019 – PATHE FILMS – TRESOR FILMS – CHI-FOU-MI PRODUCTIONS – LES PRODUCTIONS JOUROR – JOUROR

画像: これがフランス発の、潜水艦映画だ!!『ウルフズ・コール』9.25(金)公開【予告編】 youtu.be

これがフランス発の、潜水艦映画だ!!『ウルフズ・コール』9.25(金)公開【予告編】

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