“名匠”と呼ばれるオスカー受賞監督たちの傑作&必見作が、この秋から相次いで新装版でリリースされます。その第1弾ロバート・レッドフォード監督の「リバー・ランズ・スルー・イット」と第2弾ベルナルド・ベルトルッチ監督の「ラストエンペラー」の見どころを探ってみましょう。(文・松坂克己/デジタル編集・SCREEN編集部)
カバー画像:©️Recorded Picture Company

ロバート・レッドフォード監督の「リバー・ランズ・スルー・イット」(1992)

SCREEN1993年度執筆者選出ベストテン第2位・読者選出ベストテン第3位

画像: 「リバー・ランズ・スルー・イット」演出中のロバート・レッドフォード監督 ©️1992 BY ALLIED FILMMAKER, N.V. All Rights Reserved.

「リバー・ランズ・スルー・イット」演出中のロバート・レッドフォード監督

©️1992 BY ALLIED FILMMAKER, N.V. All Rights Reserved.

監督デビュー作でいきなりアカデミー賞作品・監督賞受賞

ロバート・レッドフォードはもともと、1969年の「明日に向って撃て!」でブレイクし、1970年代には「追憶」「スティング」(共に1973)「華麗なるギャツビー」(1974)「大統領の陰謀」(1976)「遠すぎた橋」(1977)「出逢い」(1979)などヒット作・話題作を連発したハリウッドを代表する美男俳優だった。

「明日に向って撃て!」の出演料でユタ州コロラドの山中に土地を買いサンダンス・プロダクションを設立、これが後にサンダンス・インスティテュートとなって、新しい才能を発掘する現在のサンダンス映画祭を主催しているのは周知のこと。レッドフォードは若い頃から後進の育成にも心を砕いてきたのだ。

そんなレッドフォードが監督デビューしたのは1980年の「普通の人々」。両親と息子二人の家庭で長男が事故死、そのことから家庭内の歯車が次第に噛み合わなくなっていく……地味な内容だが見事な心理描写と社会的視点を評価され、アカデミー賞では作品・監督賞のW受賞など四部門に輝いた。

その後も「ミラグロ/奇跡の地」(1988)「リバー・ランズ・スルー・イット」(1992)「クイズ・ショウ」(1994)と監督作を発表、いずれも高い評価を受けている。現在までドキュメンタリー・アンソロジーの一編を含め10作の監督作を送り出しているが、2018年に俳優引退を発表、1936年生れなのでいま80代半ばのレッドフォードは、まだ監督作を送り出してくれるのだろうか。

ブラッド・ピットの出世作で大自然を捉えた撮影が美しい

「リバー・ランズ・スルー・イット」は監督作としては3作目。牧師の父を持つ兄弟の確執と絆を、美しい大自然の中でフライ・フィッシングを通して描いていく。弟ポールを演じたブラッド・ピットが若き日のレッドフォードを彷彿とさせる美貌で、彼はこの作品で一気に若手スターのトップに躍り出ている。

画像: 性格の違う兄弟の確執と絆が描かれていく

性格の違う兄弟の確執と絆が描かれていく

1910〜20年代のモンタナ州の田舎町ミズーラ。兄ノーマンは真面目な秀才で、弟ポールは奔放な性格。父も含め3人ともフライ・フィッシングが大好きで、地元のブラックフット川は最高の釣り場だった。やがてノーマンは州外の大学に進学して街を離れ、後にはシカゴ大学で教鞭をとることになる。ポールは州都ヘレナで新聞記者になるが、次第にポーカー賭博にのめり込んでいく……

画像: 父と息子二人の共通の趣味はフライ・フィッシング

父と息子二人の共通の趣味はフライ・フィッシング

原作は74歳のシカゴ大学教授ノーマン・マクリーンの自伝的処女作で、友人の勧めでこれを読んだレッドフォードは映画化を熱望するようになるが、マクリーンはなかなか許可を出さなかった。最初に二人が会ったのは1980年代半ばのサンダンスで、3年以上かけて脚本を練り直し、ようやく撮影に入ろうとする1990年、87歳のマクリーンは亡くなった。

アカデミー賞ではフィリップ・ルースローが撮影賞を受賞、フライ・フィッシングの光景が忘れ難い印象を残す。ちなみに、ノーマンの子供時代を演じているのはジョゼフ・ゴードン=レヴィットで、これが実質的なスクリーン・デビューだった。

画像: 兄の少年時代(右)を演じたのはジョゼフ・ゴードン=レヴィット

兄の少年時代(右)を演じたのはジョゼフ・ゴードン=レヴィット

「リバー・ランズ・スルー・イット 4Kリマスター版」

キングレコード/2020年11月11日発売/2時間4分
特典:メイキング、削除シーン、予告編集
ブルーレイ4,800円+税、DVD3,800円+税

ベルナルド・ベルトルッチ監督の「ラストエンペラー」(1987)

SCREEN1988年度執筆者選出ベストテン第1位・読者選出ベストテン第1位

画像: 「ラストエンペラー」撮影中のベルナルド・ベルトルッチ監督 ©️Recorded Picture Company

「ラストエンペラー」撮影中のベルナルド・ベルトルッチ監督

©️Recorded Picture Company

高い評価の作品だけでなく論議を呼ぶ問題作も発表

2007年にベネチア映画祭の功労賞、2011年にはカンヌ映画祭の名誉パルムドールを受けているベルナルド・ベルトルッチ監督。ピエル・パオロ・パゾリーニ監督とは友人で、監督デビューはそのパゾリーニが脚本を書いた「殺し」(1962)。「暗殺のオペラ」「暗殺の森」(共に1970)で高い評価を受ける一方、「ラストタンゴ・イン・パリ」(1972)では大胆なセックス描写でポルノか芸術かという論争を引き起こしたりもしている。

大作「1900年」(1976)ではロバート・デニーロとジェラール・ドパルデューを主演にイタリアにおけるファシズムの誕生から崩壊までを、五時間十六分という長尺で描き切った。東洋への関心も深く、今回リリースされる「ラストエンペラー」(1987)に始まる“東洋三部作”(1990年の「シェルタリング・スカイ」、1993年の「リトル・ブッダ」)では東洋文化や風物、仏教、歴史など幅広い分野に目配りし、西洋文化一辺倒ではない立場を見せていた。

その後も「魅せられて」(1996)「シャンドライの恋」(1999)「ドリーマーズ」(2003)とほぼ3年ごとに良作・話題作を発表してきたが、ガンを発症してしまい、長い闘病生活を送ることになった。2012年には「孤独な天使たち」で復帰するものの、単独監督作としてはこれが遺作となり、2018年11月26日、ローマ市内の自宅で亡くなった。

清朝最後の皇帝の時代に翻弄された生涯

「ラストエンペラー」は清朝最後の皇帝で後に満洲国皇帝となった宣統帝愛新覚羅溥儀の激動の生涯を追った歴史劇で、今回は4時間43分の劇場公開版に加え、3時間38分のオリジナル全長版も収録されている。

画像: 清朝最後の皇帝・溥儀の激動の生涯が描かれる

清朝最後の皇帝・溥儀の激動の生涯が描かれる

溥儀はわずか3歳で清朝の皇帝となるが、近代化の嵐にもまれ、孤独な日々を過ごさざるを得なかった。映画は1950年、第二次大戦後にソ連軍のもとで五年間の抑留生活を送った溥儀が帰国、自殺を試みるところから始まり、一命を取り止めた彼の回想として時代を遡っての物語が語られていく。

皇帝即位から成長し、乳母のアーモへの初恋、後に親友となる家庭教師レジナルド・ジョンストンの来訪、17歳の婉容を皇后に迎え、社交界での日々のうちに日本軍の甘粕雅彦が接近する……

画像: 18歳からの溥儀を演じたのはジョン・ローン

18歳からの溥儀を演じたのはジョン・ローン

戦犯として中華人民共和国の収容所に入れられた50年代の溥儀の様子とその回想が交互に描かれ、中国近代史の知られ難い部分が綴られていくが、溥儀の自伝を基にしてはいるもののベルトルッチが大幅に脚色しており、どこまでが史実通りの出来事なのかは判然としない構成になっている。

実際に紫禁城で映画の撮影が行なわれたのはこの作品が初めてで、通常は観光名所として一日5万人が訪れるところ、共産党政府の全面協力で数週間借り切っての撮影だった。群集シーンも多いため集められたエキストラは1万9000人、準備された衣装は9000着に及んだ。アカデミー賞では作品・監督賞をはじめ脚色(ベルトルッチ、マーク・ペプロー)など9部門で受賞している。

画像: 紫禁城で映画がロケされたのは史上初

紫禁城で映画がロケされたのは史上初

「ラストエンペラー 特別版」

キングレコード/2020年11月18日発売
2時間43分(劇場公開版)+3時間38分(オリジナル全長版)
特典:メイキング、作曲らのインタビュー、日本語吹き替え版、予告編集
2枚組ブルーレイ5,800円+税

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