100年前からやっているんだから女性にもスタントはできる、と示したかった
本作は、『トゥルーライズ』『ワイルド・スピード』『マトリックス リローデッド』をはじめとした映画史に残るアクションシーンを演じてきたスタントウーマンたちの証言で紡ぎだすドキュメンタリー映画。息を呑むような名シーンの数々を彼女たちはいかに作りあげてきたのか。彼女たちスタントウーマンたちの日々の鍛錬の様子やスタントウーマンの歴史を通して、ハリウッド映画の最前線で活躍するプロフェッショナル達の姿が映し出されていく。
公開後は熱狂的な反響を巻き起こし、「アクション映画の見方が変わった」「スタントウーマンに勇気をもらえる」など様々なコメントが寄せられている。1/22(金)からは新たに11の劇場で上映されるほか、今後も順次多くの劇場で公開予定だ。
この日本での大反響を受けて、本作のメガホンをとったエイプリル・ライト監督のインタビューが到着。本作のきっかけとなった映画や現在のハリウッドの女性の雇用環境について語るとともに、日本のファンへのメッセージも寄せている。
Q:本作を制作するきっかけや影響を受けたアクション映画があれば教えてください。
『トゥルーライズ』で(スタントウーマンの)ドナ・キーガンがジェイミー・リー・カーティスのダブルを務めて、車からヘリコプターに飛び移るスタントに挑んだシーンなど、よく知られた名スタントを現在に持ち出して、多くの人に見せたかったんです。『マトリックス リローデッド』のバイクで高速道路をチェイスするシーンなど、私たちが何度も見ているスタントを実際に行っていたのはこんな人たちだと。スタントウーマンの歴史を見せながら、現在もこの様なスタントを行い活躍している女性が沢山いることを伝えたかったです。
Q:若手スタントウーマンがベテランスタントウーマンにインタビューをするという構成がとても好評です。この様な構成にした意図はありますか?
若いスタントウーマンに60年代、70年代に活躍していたレジェンドスタントウーマン達がいかにガラスの天井を破り、女性にもスタントができると証明したかを学んで欲しかったんです。例え彼女たちの名前を知っていたとしても、実際に彼女たちの苦悩を聞くのと全くでは違います。しかも彼女達はまだエネルギッシュで会って話を聞けるのですから。
Q:本作で最も印象に残っている取材対象はどなたですか?
全員印象に残っています。誰もがユニークで素晴らしいストーリーを持っていました。彼女たち一人一人のストーリーを伝えられた事を誇りに思います。その中でも、デビー・エヴァンスと彼女の姉妹ドナ・エヴァンスはトップスタントウーマンの一人です。特にドライビングテクニックは突出していて、生きるレジェンドと言えます。彼女達の話を聞けた亊は本当に素晴らしかったです。
Q:男性監督を代表してポール・バーホーベン監督とポール・フェイグ監督が出演していますが、このお二人を取材対象にした理由はなぜですか?
男性監督からピックアップしたというよりは、スタントに於てアプローチが異なるタイプの監督を探す事を意識していました。ポール・フェイグはたくさんのスタントウーマンと仕事をしていて、『ゴーストバスターズ』では20人ものスタントウーマンを使っています。そんなに多くのスタントウーマンを使った作品はそう多くはありません。ポール・バーホーベンは私が彼の作品のファンということもありますが、彼はまだCG全盛期になる前から、スタントウーマンを使って仕事をしていました。また、彼自身がアクション監督をしていた経験もあります。本当はパティ・ジェンキンスやライアン・クーグラーにも取材をしたかったのですが、『ワンダーウーマン』と『ブラックパンサー』の撮影で忙しく、それが叶いませんでした。今ではたくさんの女性監督や黒人監督が活躍しています。もしもう一度作れるとしたら、よりタイプの異なる多くの監督に話を聞きたいです。
Q:現在のハリウッドの女性の雇用環境をどう思いますか?
女性同様に有色人種の人たちも長い間キャリアを築くための機会に恵まれていませんでした。これはスタントだけではなく業界全体について言えます。私たちは現在変化を目の当たりにしていますが、統計的には未だに白人男性中心と言えます。しかしその事に意識的である事は大きな前進です。近い将来、より多くの女性が大作映画の監督や、スタントコーディネーターをしている状況が来ると思っています。
Q:昨年はキャシー・ヤン監督の『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒』やパティ・ジェンキンス監督の『ワンダーウーマン1984』など女性監督によるブロックバスタームービーが公開されました。アクション映画において、女性監督の強みや男性監督との違いは何だと思いますか?
男性も女性も特に違いはなく、同じ様に監督をする事ができると思います。女性が女性のストーリーを伝えるべきであるというのはもちろんありますが、女性だって男女関係なくストーリーを語る事ができるべきです。男性が長い間女性のストーリーを語っていた様に、もし興味があるのであれば女性だって男性のストーリーを語っても良いと思うんです。
Q:ここ数年、「ガラスの天井」を破る女性たちが次々に現れています。この映画からも女性エンパワーメントの要素を感じる観客が多くいますが意図的なものでしょうか?
この映画に出てくるスタントウーマンたちは刺激的で、スタントに限らず、何か目的を成し遂げるためのモチベーションを与えてくれます。ですが今になって「女性にも可能」になったわけではなく、この映画では100年前から女性達が危険なスタントを行っていた事を示しています。私はこのシーンで「女性にスタントができるのか」と聞かれたら、「100年前からやっているんだから、絶対にできる」という事を示したかったんです。
Q:日本のファンへのメッセージをお願いします
映画を観に来てくれた全ての人に感謝したいです。TwitterでGoogle Translationを使い、沢山の素晴らしい感想を目にして嬉しかったです。きっと彼女たち”ヒーロー”の存在を知って感激したと思います。この映画が観た方にたくさんのインスピレーションを与えた事を願います。
<エイプリル・ライト profile>
トロマエンターテイメントの『パニック・ウォーター』(2006)で脚本家兼プロデューサーを務める。長編映画監督してのデビュー作品『Layover(原題)』(2009)ではハワイ国際映画祭でシルバーレイ・アワードを受賞。全米のドライブインシアターに着目したドキュメンタリー映画『Going Attractions: The Definitive Story of the Movie Palace (原題)』(2013年)では全米中のドライブインシアターを取材し、7年の歳月をかけて作品を撮りきった。
スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち
2021年1月8日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開中
配給:イオンエンターテイメント
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