アイルランドの新鋭クリエイター2人による新作映画『ビバリウム』(公開中)と『サンドラの小さな家』(4月2日公開)が、この春に相次いで日本公開されることを記念し、両作の意外な共通点を紹介する。

“ホラーの帝王”スティーブン・キングも絶賛のロルカン・フィネガン監督

『ブルックリン』(15)のジョン・クローリー、『はじまりのうた』(13)、『シング・ストリート 未来へのうた』(16)のジョン・カーニー、『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』(14)、『ウルフウォーカー』(20)のトム・ムーアと、アイルランド出身の監督作は、日本でも人気が高い。今春は、世界を驚かせたアイルランドの新鋭クリエイター2人の作品が相次いで日本公開される。

まずは現在大ヒット公開中の『ビバリウム』だ。ジェシー・アイゼンバーグとイモージェン・プーツ演じるカップルが不動産屋の案内で、新興住宅地”ヨンダー”を訪れる。しかし、そこは脱出不可能な迷宮だった。閉じ込められたふたりは、段ボールで届けられた謎の赤ん坊を育てることになり、次第に精神が崩壊していく……というストーリー。

画像: ただ内見しにきただけだったのに…

ただ内見しにきただけだったのに…

画像: 案内された新興住宅地には、ひたすら同じ家が立ち並ぶ

案内された新興住宅地には、ひたすら同じ家が立ち並ぶ

昨年話題をさらった『ミッドサマー』を思い出させる、醒めない悪夢のようなラビリンス・スリラーである。メガホンをとったのはダブリン生まれのロルカン・フィネガン。長編2作目の本作が世界中で話題となり、“ホラーの帝王”スティーヴン・キングも絶賛。期待のホラー監督として今後に注目だ。

画像: 『ミッドサマー』のフローレンス・ピューを彷彿させるイモージェン・プーツの熱演も見どころ

『ミッドサマー』のフローレンス・ピューを彷彿させるイモージェン・プーツの熱演も見どころ

『ビバリウム』Vivarium
公開中

監督:ロルカン・フィネガン 脚本:ギャレット・シャンリー 出演:ジェシー・アイゼンバーグ、イモージェン・プーツ、ジョナサン・アリスほか

2019年|ベルギー・デンマーク・アイルランド|英語|98分|R-15|提供:パルコ、オディティ・ピクチャーズ、竹書房|配給:パルコ
© Fantastic Films Ltd/Frakas Productions SPRL/Pingpong Film

世界が注目する女性クリエイター、クレア・ダンの長編初主演作

そして4月2日にはサンダンス映画祭で注目された『サンドラの小さな家』が公開となる。夫のDVから2人の娘と共に逃げたシングルマザーが、隣人たちの優しさに助けられながら家をセルフビルドする珠玉のヒューマンドラマだ。

画像: 夫からDVを受けていたサンドラ

夫からDVを受けていたサンドラ

画像: 周囲の人々助けを得てマイホーム建築に着手する

周囲の人々助けを得てマイホーム建築に着手する

フィネガン監督と同じくダブリン出身の舞台女優、クレア・ダンが初めて書いた脚本に『マンマ・ミーア!』のフィリダ・ロイド監督が惚れこみ、クレア自身が主演に大抜擢された。「ケン・ローチ作品を彷彿とさせる」と称賛を浴びた本作はVariety誌が選ぶ「2020年ベスト映画」第4位に、さらに「2020年に注目すべき脚本家トップ10」にも選出され、一躍世界中が32歳のクレア・ダンの才能にくぎ付けとなった。

画像: 主演と共同脚本を務めたクレア・ダン

主演と共同脚本を務めたクレア・ダン

『サンドラの小さな家』Herself
4月2日(金) 新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開

監督:フィリダ・ロイド、共同脚本:クレア・ダン、マルコム・キャンベル
出演:クレア・ダン、ハリエット・ウォルター(『つぐない』、「ザ・クラウン」)、コンリース・ヒル(「ゲーム・オブ・スローンズ」)

2020年|アイルランド・イギリス|英語|97分|提供:ニューセレクト、アスミック・エース、ロングライド|配給:ロングライド
©Element Pictures, Herself Film Productions, Fís Eireann/Screen Ireland, British Broadcasting Corporation, The British Film Institute 2020

ジャンルが異なる2作品の“アイルランド”以外の共通点とは?

戦慄スリラーと心温まるヒューマンドラマ。全くジャンルが違う2作品だが、実はアイルランド作品であることの他にも共通点がある。

#1 “マイホーム”がテーマ
『ビバリウム』のカップルは郊外の同じ住宅が並ぶ家に閉じこめられ、『サンドラの小さな家』は住む場所がなく、自力で家を建てようとする。アイルランドではバブル崩壊後、賃貸用物件の不足、家賃の上昇でのホームレスの増加と深刻な住宅問題を抱えており、このことを背景に2作品は生まれている。

画像: 『ビバリウム』でカップルが閉じ込められた新興住宅地“ヨンダー”

『ビバリウム』でカップルが閉じ込められた新興住宅地“ヨンダー”

画像: 『サンドラの小さな家』ではDVに悩むシングルマザーがマイホームをセルフビルドする

『サンドラの小さな家』ではDVに悩むシングルマザーがマイホームをセルフビルドする

#2 子役の名演と存在感
『ビバリウム』に登場する不気味な少年を演じたのは11歳のセナン・ジョニングス。トラウマ級の名演技をスクリーンに刻んでいる。一方『サンドラの小さな家』でサンドラの娘であるエマ&モリー姉妹を演じたルビー・ローズ・オハラとモリー・マッカンは、その健気さと可愛さが絶賛され、クレア・ダンも「ふたりはこの映画の真のスター」とコメントしている。さらにモリー・マッカンは『ビバリウム』にも出演しており、イモージェン・プーツの生徒として冒頭の重要なシーンに登場している。(いずれの役名も本名と同じ“モリー”!)

画像: 『ビバリウム』の不気味な少年役で鮮烈な印象を残したセナン・ジョニングス

『ビバリウム』の不気味な少年役で鮮烈な印象を残したセナン・ジョニングス

画像: 『サンドラの小さな家』でサンドラの娘を演じたルビー・ローズ・オハラ(右)とモリー・マッカン

『サンドラの小さな家』でサンドラの娘を演じたルビー・ローズ・オハラ(右)とモリー・マッカン

#3 印象的なダンスシーンがある
『ビバリウム』ではトム(アイゼンバーグ)とジェマ(イモージェン)がデスモンド・デッカーアンド・ザ・エーシズの「Shanty Town」で踊り、『サンドラの小さな家』では冒頭にサンドラ(クレア)が娘二人とシーアの「シャンデリア」で踊る。どちらも苦しい状況から一瞬解放されるシーンとなっている。

さらにもう一か所、大きく共通しているシーンがあるのだが、ぜひ両作を見て確認してほしい!

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