クリストファー・プラマー
『サウンド・オブ・ミュージック』(1965)のトラップ大佐役でファンから愛されたクリストファー・プラマーはトロント生まれ。その後、ナショナル・シアターやブロードウェーで舞台俳優としてキャリアを積み、映画俳優としては特に晩年になって輝きを増した。
享年、91歳。ジュリー・アンドリュースは「大切な友人を失った」と嘆き、長年マネージャーを務めたルー・ピットは「カナダの宝」と称えた。周囲からも愛された人だったのだ。
1960年代
トラップ大佐などハンサムな若き軍人が当たり役に
トラップ大佐を演じたことについて、当初は「死んだ馬に鞭打つようなもの」と忌み嫌っていたが、作品の仕上がりには満足していたし、2015年に開催された50周年イベントの席では、アンドリュースと笑顔で再会。時を経て愛おしく思えるようになったようだ。
また、『将軍たちの夜』(1967)『空軍大戦略』(1969)と相次いで軍人役を好演。 ミュージカル『ドリトル先生不思議な旅』(1967)では途中降板。ファンは再び彼の歌声を聴く機会を失った。
1970年代
エミー賞、トニー賞などを次々受賞して実力発揮
ミュージカル『シラノ』でトニー賞とドラマディスク大賞をW受賞。『マネー・チェンジャース/銀行王国』(1976)でエミー賞を獲得。これに後年オスカーを加えて3冠を達成する。
また、名探偵シャーロック・ホームズを演じた『名探偵ホームズ 黒馬車の影』(1979)でジニー賞(カナダのアカデミー賞)を受賞。『王になろうとした男』(1975)では物語の語り部となる記者を演じたプラマーは、これを境に主役志向を捨て脇役を演じる楽しみに目覚める。性格俳優の誕生だ。
1980年代
悪役、敵役など助演級ながら出演作が相次ぐ通好み俳優に
TVムービー『The Scarlet and the Black』(1983)でグレゴリー・ペックの敵役を演じ、聖職者の葛藤を描いたミニシリーズ『The ThornBirds』(1983)ではバーバラ・スタンウィックと共演。
片や、『ある日どこかで』(1980)では時を超えて愛し合う恋人たちの仲を割こうとする人物を、A・クリスティの『ドーバー海峡殺人事件』(1984)では容疑者の1人を、『ドラグネット 正義一直線』(1987)では物語の鍵を握る悪役を、各々好演。役柄をさらに広げる。
1990年代
『スター・トレック』からホラーまで役の幅を広げ大活躍
ブロードウェーの『Barrymore』(1997)で伝説の大スター、ジョン・バリモアを演じて再びトニーとドラマディスク賞をW受賞。かねてから大ファンだったという『スター・トレックⅥ 未知の世界』(1991)でチャン将軍を演じて遂に夢を叶える。
さらにスパイク・リーの『マルコムX』(1992)、ジャック・ニコルソン主演のホラー『ウルフ』(1994)と続き、マイケル・マンの『インサイダー』(1999)のジャーナリスト役で助演男優賞を多数受賞する。
2000年代
ベテランにして話題作に引っ張りだこの売れっ子に
ロン・ハワード監督作『ビューティフル・マインド』(2001)のローゼン博士役、コリン・ファレル主演の『アレキサンダー』(2004)でアリストテレス役、『シリアナ』(2005)では米政財界のドンを演じる一方で、ピクサーの『カールじいさんの空飛ぶ家』(2009)では主人公と敵対関係にあるチャールズ・マンツの声を担当して、声だけで画面をさらってしまう。
そして、『終着駅 トルストイ最後の旅』(2009)では初のアカデミー助演男優賞候補に。
2010年代
史上最高齢でアカデミー演技賞受賞の快挙!
『人生はビギナーズ』(2010)でゲイをカミングアウトする老父を演じて悲願のアカデミー助演男優賞を受賞。史上最高齢82歳での受賞に、「あなた(オスカーはその年84回目)は僕より2歳しか年上じゃないのに、今までどこにいたんだ?」と自らの遅咲きぶりを笑いのネタにしたプラマー。
その後も『ゲティ家の身代金』(2017)、『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』(2019)と話題作に出演。死の直前まで新作が控える売れっ子ぶりだった。
最後の出演作品『ラスト・フル・メジャー 知られざる英雄の真実』公開中
プラマーの逝去に合わせるかのように日本公開が始まった彼の最新作が『ラスト・フル・メジャー 知られざる英雄の真実』。ここで彼が演じるのは、ベトナム戦争で自らを犠牲にして多くの仲間の命を救った空軍兵の老父フランク。
国の英雄として讃えられるはずの息子がなぜ名誉勲章を与えられなかったのか、その真実を調査する国防総省のハフマン(セバスチャン・スタン)を信頼するフランクを円熟の演技で魅せるプラマーのクライマックス・シーンに誰もが胸を熱くするはずだ。
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