「悪夢のような映画だが、目が離せない」
映画史上初の試みともいえる異次元レベルの構想と高い芸術性が評価され、第70回ベルリン映画祭で銀熊賞(芸術貢献賞)を受賞した映画『DAU. ナターシャ』は、本年2月27日にシアター・イメージフォーラムほかで世界初となる劇場公開を果たし、ミニシアター・ランキングの上位に長期にわたってランクイン。全国46館で拡大公開された。
『DAU. ナターシャ』を観た観客の多くは、余りにも途方もないこのプロジェクトの断片となる同作を前にし、「悪夢のような映画だが、目が離せない。すべてのシリーズを追いかけずにはいられない」などSNSを中心に「DAU」プロジェクトの別作品の日本公開を熱望。
その熱い声に応え、同作を配給した株式会社トランスフォーマーは、「DAU」プロジェクトの劇場映画第二弾、『DAU. ナターシャ』で描かれた、ソ連全体主義社会のその後の世界を描く、『DAU. Degeneration(原題)』を限定公開することを緊急決定した。
スターリン体制下の1952年から10年以上が経過した1966年~1968年が舞台
ロシアの奇才イリヤ・フルジャノフスキーは処女作『4』が各国の映画祭で絶賛を浴びると、「史上最も狂った映画撮影」と呼ばれた「DAU」プロジェクトに着手。
それは、いまや忘れられつつある「ソヴィエト連邦」の記憶を呼び起こすために、「ソ連全体主義」の社会を完全に再現するという前代未聞の試みだった。
ウクライナの大都市で、かつてはソ連の重要な知性・創造性の中心地でもあったハリコフに欧州史上最大の1万2千平米もの秘密研究所のセットを作り、実にオーディション人数約40万人、衣装4万着、主要キャスト400人、エキストラ1万人、撮影期間40ヶ月、撮影ピリオドごとに異なる時間軸、35mmフィルム撮影のフッテージ700時間という莫大な費用と15年以上もの歳月をかけて「DAU」の世界が作り上げられた。
撮影に参加した多くのキャスト達は、長く続いた撮影の有無に関わらず、その研究所の中で与えられた役割を担い続けた。そこから生まれた表現の形は劇場映画や配信作品、インスタレーションなどといった芸術分野のみならず、学術的研究成果などにも及び、「DAU」は、もはや単なる映画や芸術の枠を越えた超現実世界の様相を呈している。
この途方もないプロジェクトの劇場映画第一弾として完成した『DAU. ナターシャ』がコンペティション部門で上映された第70回ベルリン映画祭の別部門で上映されたのが、本作『DAU. Degeneration(原題)』だ。
なんと6時間にも及ぶ大長編であり、『DAU. ナターシャ』が描き出したスターリン体制下の1952年から10年以上が経過した1966年~1968年が舞台となる。
タイトルの“Degeneration(荒廃)”が示すように、キューバ危機の後、フルシチョフ時代を経て、この時期はスターリンが築き上げた強固な全体主義社会の理想は崩れはじめ、人々は西欧文化にも親しむようになっている。
前作ではカフェのウェイトレスであるナターシャの視点で閉鎖的かつ断片的に描かれた秘密研究所だが、本作では一転、カメラは研究所内部に入り込み、人間たちの生活をつぶさに映し出していく。
そこでは、年老いた天才科学者レン・ダウの下、科学者たちが「超人」を作る奇妙な実験を繰り返していた……。
前作の主人公ナターシャに壮絶な拷問を行ったKGB捜査官のウラジーミル・アジッポが、本作では少将へと出世を果たし、メインキャストに。
研究所所長のアレクセイ・ブリノフやナターシャのカフェの同僚だったオーリャも登場するが、彼女は逮捕され収容所に入ったナターシャの代わりに店を取りしきる立場となっている。
また国内外の著名なアーティストや研究者たちが参加していることでも知られる本プロジェクトだが、本作にはユーゴスラビア出身のパフォーマンス・アーティストであるマリーナ・アブラモヴィッチも参加している。
ソ連全体主義社会の退廃、そして、時代の変化が描かれる『DAU. Degeneration(原題)』によって、さらに「DAU」の世界は深まり、複雑化していく。まさに体感するソ連。ぜひ、この出口のない迷宮に足を踏み入れてはいかがだろうか。
DAU. Degeneration(原題)
今夏、シアター・イメージフォーラム 他にて限定公開決定
配給:トランスフォーマー
© PHENOMEN FILMS