ドイツ文学の巨匠アルフレート・デーブリーンの伝説的名作『ベルリン・アレクサンダー広場』を大胆な解釈で最映像化した『ベルリン・アレクサンダープラッツ』。ドイツ映画賞に最多ノミネートされた、世界中から注目される話題作が5月20日より配信開始。監督を務めたブルハン・クルバニから、日本の映画ファンに向けてメッセージをお届けします。

STORY

画像: ©️ Sabine Hackenberg, Sommerhaus Filmproduktion

©️ Sabine Hackenberg, Sommerhaus Filmproduktion

アフリカからの不法入国に成功したフランシスは南欧の海岸で目を覚ます。ひとり生き残った彼は、気持ちを新たにまっとうな人間として生きることを神に誓った――。ベルリンに流れ着いたフランシスだったが、ビザ、国籍、労働許可もない難民がドイツでまっとうに暮らすことの難しさを思い知る。そんな折り、カリスマ性のあるドイツ人のラインホルトから「麻薬の売人にならないか?」と誘われるもののフランシスは海岸での誓いを胸に関わらないことを選ぶ。しかしとある事件により、居場所すら失い、逃げるようにベルリンの街を彷徨うフランシスの⾜はいつの間にかラインホルトを探し求めていた。

人間の尊厳を取り戻すためにもがく物語

――約100年前の『ベルリン・アレクサンダー広場』という題材を選んだ理由を教えてください。

「この原作は、小さい頃から一緒に育った作品でした。高校の卒論の課題だったので、2年間、向き合いました。だから、当時は嫌いだったんです(笑)。でも、大人になってからこの作品の素晴らしさに気づきました。ご存じの通り、(R・W)ファスビンダーが過去に素晴らしい映像を作っていたので、自分が撮るべき作品なのか? とは考えましたが、自分が住んでいる地域に近かったので、興味を持ちました。ベルリンに移ってきた時に、この公園に近い所に住んでいたんです。この場所はブルジョアでもあるんだけど、同時にドラッグが売り買いされている場所でもあるんです。たいがい黒人の男性がドラッグのディーラーでした。公園なので、家族連れもいるけど、ディーラーたちのコミュニティも共存。ブルジョアな家族連れたちから見ると、黒人=ドラッグ、犯罪が結びついていて、そのイメージを抱くことに嫌悪を感じてました。文学の柱ともいえる『アレクサンダー広場』のこの男の物語を現代版として題材にしたいと思いました。自分には無視できない物語であり、また描こうとしてるものと、パラレルが広がる小説だと感じました。原作の主人公のフランツ、映画のフランシスも社会のはみだしもので軽犯罪者である。でも、彼らは社会の中心に行こうと思っています。だから、この広場のように、ベルリンの中心であることが大切でした」

――映画のなかでフランシスは、良い人間になろうともがきます。監督が思ういい人間、まっとうな人生とは何でしょう?

「僕が上手くこたえられるか分からないけど(笑)。フランシスの思う良き人というのは誠実で正直であり、まっとうであり、愛に値するような人。いわゆるキリスト教的な考え方に近いと思います。ただ、彼は上手く‟良い人“を追い続けることができなくて、ラインホルトに‟よくない場所でよい人間であろうとするな”と言われるのですが、そこがフランシスは葛藤となるのです」

画像: ©️ Frédéric Batier, Sommerhaus Filmproduktion

©️ Frédéric Batier, Sommerhaus Filmproduktion

――監督がこの映画に込めたメッセージとは何でしょうか?

「原作のフランツも映画のフランシスも、共通して言える大きな特徴はPTSDに苦しんだところでしょうか。原作のフランツは第一次大戦を経験しました。映画の方のフランシスも自国を逃れなければいけなくて、言葉も不自由な海外で過ごしていること。そして、恋人を失っていること。すべてトラウマになっている。主人公たちは、失ってしまった人間の尊厳を取り戻すためにもがく物語だと思うんですよね。僕自身も移民の子供として育ちました。映画のなかで、フランシスが‟難民と呼ぶな“と言うのですが、僕にとってはすごくエンパワーメントな瞬間でした。彼がそれを言うことによって、社会に参加することについて声を上げているシーンだと思っています」

――ご自身のバックボーンが作品に反映していたのですね。共感できるキャラクターがいたら教えてください。

「例えば難民の方がする体験は、ひとくくりに語れません。それぞれに自分なりの旅や道のりがありトラウマがある。自分と作品が繋げているものは、異邦人の物語ということ。主人公のフランシスは、自分と見た目が違っていたり、言葉が違ったり、立場が違ったりする環境で、生きていくということを選びました。それは、当然、自分を変えなければいけないんです。しかし、その瞬間は脆いものですが、僕はそこの瞬間に共感できるし興味があります。ただ、一方で、ラインホルトにも共感できます。彼はドイツ人だけどアウトサイダーという点で、彼もまた社会からはずれています。僕はすべての登場するキャラクターの痛みや苦しみに寄り添いたい。そうすることで作品が普遍的になり、観てくれる方にも響いてくれたらいいなと思ってます」

画像1: ©️ Wolfgang Ennenbach, Sommerhaus Filmproduktion

©️ Wolfgang Ennenbach, Sommerhaus Filmproduktion

――映画の製作についても伺わせてください。作品の構想に7年かかったと聞きました。労働者たちの境遇やナイトライフがリアルでした。事前のリサーチはどのようにやられましたか?

「何よりも人の話を聞くことからはじめました。難民の方やドラッグディーラー、そして犯罪のシステム自体も詳しく把握したくて警察にも取材しました。ナイトライフについては、僕だってそれなりにクラブに行ったりパーティーに参加していたんだよ(笑)。他の映像作家が描くベルリンに飽きていたので、撮影監督と自分たちなりのユニークなビジュアルを持ったベルリンを描きたかったんです」

画像2: ©️ Wolfgang Ennenbach, Sommerhaus Filmproduktion

©️ Wolfgang Ennenbach, Sommerhaus Filmproduktion

――フランシス役のウェルケット・ブンゲと、ラインホルト役のアルブレヒト・シュッヘの演技が高く評価されていました。お二人の起用理由を教えてください。

「ラインホルト役は、違う作品でネオナチのテロリストを演じるアルブレヒトを見て、早い段階から決めてました。とにかく、暴力的で悪魔的な存在感が凄かったんです。でも実は説得に1年くらいかかりました。撮影の2週間前にやっとイエスと頂けました。彼は、また本作で、悪魔を演じることが怖かったんだと思います。一方、フランシス役は、2年ほどキャスティングに難航しました。僕は、ドイツやフランス、英国、南アフリカまで足をのばしまして探していました。そんな中、ウェルケットとの出会いは2017年。『JOAQUIM(原題)』という作品で、ベルリン国際映画祭に彼が来ていたのです。当時、僕のキャスティングエージェントから、「彼(ウェルケット)に会った方がいいよ」と勧められましたが、僕は最初はノーと。彼は若くて美しすぎるしと言いました。原作は40代の中年で、ウォルケットとは真逆。でも、来てくれたときに、アレブレストとのケミストリーが素晴らしかったので、彼以外の他の選択肢はなくなりました! ラインホルトは誇張されていて、やりすぎになりかねないキャラクターなんですが、この作品では成立している。対するウェルケットは、地に足がついた自然な演技をするのでちょうど二人のバランスがよかった。ラインホルトは、昔風の誇張したすごく自然ではない演技といえばそうですよね? また、ラインホルトは形式的な奇妙なジェスチャーを使っているので、昔ながらのドイツの演劇的な演技でもあるんです。対してフランシスは非常に現代的な自然な演技なんじゃないかなと思います。僕ら3人は作品を作る上で、とても仲良くなって、その友情は今日も続いてます。ところで、僕は6年前に来日したことがあり、その時、日本の歌舞伎を観たのですが、ラインホルトの演技は歌舞伎チックかなと思ってますが、どうでしょうか(笑)? 日本のファンにもこの作品を早く観て欲しいです、そして、また、日本に行きたいです!」

画像: 『ベルリン・アレクサンダープラッツ』に秘めたクルバニ監督のメッセージ

ブルハン・クルバニ

1980年、アフガニスタン人難民の息子としてドイツで生まれる。2002年、映画監督を目指し、バーデン・ヴュルテンベルク映画大学へ入学。卒業制作として監督した『SHAHADA(原題)』(10)が第60回ベルリン国際映画祭で上映される。2014年の『ロストックの長い夜』が注目を集めローマ国際映画祭でコンペティションのオープニング作品として上映される。本作が第70回ベルリン国際映画祭でプレミア上映。

『ベルリン・アレクサンダープラッツ』
5月月20日(木) MIRAIL/Amazon Prime Video/U-NEXTにてオンライン上映

監督:ブルハン・クルバニ
脚本:マーティン・ベーンケ、ブルハン・クルバニ
出演:ウェルケット・ブンゲ、イェラ・ハーゼ、アルブレヒト・シュッヘ、アナベル・マンデン、ヨアヒム・クロル
配給:東北新社/STAR CHANNEL MOVIES

This article is a sponsored article by
''.