杉山すぴ豊
アメコミ系映画ライター。雑誌や劇場パンフレットなどにコラムを執筆。アメコミ映画のイベントなどではトークショーも。大手広告会社のシニア・エグゼクティブ・ディレクターとしてアメコミ映画のキャンペーンも手がける。
みんな待ちに待ってた!『ジャスティス・リーグ:ザック・スナイダーカット』!
ファンの妄想がやがて現実に!
『ジャスティス・リーグ:ザック・スナイダーカット』(以下スナイダーカット)が日本でもリリースされました。アメコミ・ヒーロー映画ファンにとって、特にDC映画好きにとって至福の4時間であることをまずお約束します。
さてこのスナイダーカットはある意味ファンの妄想であり“都市伝説”でもありました。もともと17年の劇場公開版に満足出来なかったファンがザック・スナイダーによる完成版を観たい、と言い出しました。劇場版は完成直前にスナイダーが降板し『アベンジャーズ』のジョス・ウェドン監督が急遽仕上げたものです。
この時点ではまだファンの気持ちの中での話でしたが、やがて“スナイダーが編集まで終わらせたバージョンが存在するらしい”との噂が広がりこれを公開して欲しいとの声があがります。一方“そもそもそんなものはない”と伝えるメディアもありました。こうした最中、なんとスナイダー自身がこのバージョンの存在を認めます。
こうしてファンの想いがまた再燃し一気にスナイダーカットの実現に向けて動き出すのです。配信サービスのHBO-MAXが目玉コンテンツとして本作に注目、仕上げのための巨額の追加予算(特殊効果や音楽等の処理および新撮)を捻出、リリースとなります。
劇場版が王道ヒーロー映画なら、スナイダーカットは裏ヒーロー物!
劇場版とスナイダーカットはストーリー自体は大きく変わりません。「宇宙からやってくる脅威ステッペンウルフに対抗すべく、バットマンが地球にいるヒーローたちをスカウトしチームを組みます。しかし相手は強大。そこで死んだスーパーマンを蘇らせる」というものです。しかし大きくトーンが異なる。
劇場版は王道のヒーロー映画を目指し、かつジョス・ウェドンが監督だったこともあり、ヒーロー待望論の『アベンジャーズ』的なジャスティス・リーグを狙っています。しかしスナイダー版は彼自身が手掛けた、裏ヒーロー物とも言うべき『ウォッチメン』的なジャスティス・リーグを目指しています。
劇場版はヒーロー・エンタテインメントですがスナイダーカットはヒーロー・エピック。そして劇場版は一応ハッピーエンドですがスナイダーカットは新たな不安の幕開けを示唆して終わる。それは劇場版にはなかった2つの要素でハッキリします。
スナイダーカットで示唆された、新たな2つの不安とは?
まずスナイダーカットではステッペンウルフの裏に黒幕であるスーパーヴィラン、ダークサイドがいてこの先さらに激しい戦いが起こることがわかる。そしてもう1つはスーパーマンの復活が人類にとって本当に良かったか?です。これは劇場版と違い終始スーパーマンが黒いコスチュームということも意味深です。
そう、劇場版では赤と青のいつものスーパーマン姿で駆け付けますが、スナイダーカットではブラック・スーツのままなのです。映画『マン・オブ・スティール』の中でこのブラック・スーツ姿のスーパーマンは登場します。敵であるゾッドに仲間になれと説得されるシーンの幻覚の中でクラークはブラック・スーツ姿のスーパーマンになります。足元には無数の骸骨。そう、ゾッドの仲間になるということは地球人を皆殺しにすることを意味します。
当然、クラークはこれを断り幻覚から目が覚める。つまり、この『マン・オブ・スティール』では赤と青のコスチュームのスーパーマンは人類の救世主、ブラック・スーツ姿は人類にとって脅威と示唆されていました。もちろん『マン・オブ・スティール』の監督もザック・スナイダーですから、彼はこのお約束を重々わかった上で、スナイダーカットに黒い姿のスーパーマンを登場させたわけです。
ということは、スーパーマンこそがこの先人類の本当の脅威になるのではないか?蘇ったばかりのスーパーマンをサイボーグの防御システムが敵と感知し攻撃してしまうシーンがありますよね。劇場版だとこれはサイボーグ側のフライング的ですが、このスナイダーカットではサイボーグの判断は“正しかった”とも言える伏線がちゃんとあるのです。
そしてジャレッド・レトのジョーカーが登場する新撮シーンで描かれる荒廃した未来。これは映画『バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生』でバットマンが見た悪夢の続きでしょう。あの悪夢世界では人々を虐殺するスーパーマンが登場しました。ダークサイドが攻めてくるのに加え、人類はスーパーマンに滅ぼされるかもしれないのです。
一体、スーパーマンに何が起こったのか?実はスナイダーカットにロイスの妊娠を思わせるシーンがあります。もしかするとそれが将来のスーパーマンの行動に関わっているのかもしれません。ヒーロー同士の微笑ましいエピローグで終わった劇場版に対し、スナイダーカットは波乱の幕切れであり、色々な憶測・解釈が成り立つ問題作です。
フラッシュとサイボーグが大活躍!
だからといってスナイダーカットは“暗い”ままの映画ではありません。本作で一番活躍するのはサイボーグとフラッシュです。まず2人の出番が圧倒的に多い。フラッシュことバリー・アレンは劇場版では丸々カットされた、将来の恋人アイリスとの出会いのシーンがあります(このアイリス、本当にかわいい)。
サイボーグことビクターについては、本作の事実上の主役はビクターだったのではないかと思うぐらい重要な役割を果たします。そしてこの若い2人が世界を救うのです。ワンダーウーマンやスーパーマンら先輩ヒーローは身に付けた戦闘スキルで“敵を倒す”ことに身を投じますが、若手ヒーローは情報とテクノロジーで“事態の収拾”を図るのです。これから訪れる新たな危機は力だけでは解決できないと言っているかのようです。
このクライマックスの戦いは、劇場版とは全く違う展開となります。劇場版はここにこの地で生きている家族の物語を入れ、その一家を救うというシーンがあります。つまりヒーローは世界を救うが、目の前にいる人たちの命もちゃんと助けるということを言いたかったのでしょう。しかしスナイダーカットはそうした要素を排除し、バットマンたちが世界を救うため敵と戦うことに絞り込んでいます。
このラスト・バトルに参加するワンダーウーマンは、今まで描かれたどのワンダーウーマンよりも過激です。前半、銀行を襲ったテロリストを退治するシーンは、人々を救うためにワンダーウーマンは敵に向かっていきます。つまり、ヒーローとしてのワンダーウーマンの活躍です。しかしステッペンウルフに向かっていくワンダーウーマンは明らかに相手を殺すためであり、戦士としての顔を見せるのです。
劇場版との違いを長々書きましたが、とにかくかっこいいヒーロー・サーガ。さすがザック・スナイダーといえるクールなシーンが多い。そして改めて思ったのはベン・アフレック版ブルース・ウェイン=バットマンのかっこよさ!次のエズラ・ミラーのフラッシュ映画にも登場するようですが、本格的に復活して欲しいですね。
『ジャスティス・リーグ:ザック・スナイダーカット』
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発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
販売元:NBC ユニバーサル・エンターテイメント
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