首藤凜×綿矢りさ　監督と原作者が語る新しい青春映画『ひらいて』の魅力

2021-10-20

MY @ SCREEN

劇場公開注目情報インタビューひらいて青春映画首藤凜綿矢りさ山田杏奈作間龍斗芋生悠

芥川賞作家・綿矢りさが、高校生による禁断の三角関係を描いた同名小説を、注目の若手女優・山田杏奈主演で映画化。この原作を映画化したいと10代の頃から切望したという首藤凜監督と綿矢りささんに、完成した映画についてお話を伺いました！
（Photo／mika　Interview／満知缶子）

――映画『ひらいて』の主人公、山田杏奈さん演じる木村愛は、可愛くて成績もいい、いわゆるスクールカーストの上位にいる人気者。本作はそんな愛が同じクラスの、作間龍斗さん（HiHi Jets／ジャニーズ Jr.）が演じる西村たとえという、物静かで謎めいた男子に恋心を募らせるストーリーです。愛は小説でも映画でも、自分の気持ちのまま突っ走るかなりエネルギッシュで強烈なキャラクターですが、映像化する際苦労したのでは？

首藤　山田杏奈さんは、愛という女の子が自分と違うタイプの人間で、「愛（の気持ち）がわからない」って悩んでらっしゃったと思います。だけど、そこに対して説明をあんまりしませんでした。わからないまま演じてもらったほうが面白くなるかな、という部分がたくさんあったので。

――綿矢さんは、実際に動いている愛を見てどうでしたか？

綿矢　試写を観たときに、愛が本当に好きなようにむちゃくちゃするから、驚きと共感で笑いが止まらなくなってしまって（笑）。映画の中の愛は教室から走って飛び出したり、せっかく作った卒業制作を蹴り倒したりと鉄砲玉みたいな感じで、だけど、１人でいるときは弱っていて。とても魅力的でした。考える前に行動する恐れを知らない女性が主人公の映画って新しいなと思ったし、原作者冥利につきるドライブ感で本当に嬉しかったです。

画像: 主人公・愛を演じるのは山田杏奈さん — 主人公・愛を演じるのは山田杏奈さん

――ちなみにお２人は学生時代、主人公の愛のように、人を好きになったら暴走してしまった、という経験は？

綿矢　愛って結局、たとえのことをよくわからないまま好きになってますよね。そういう、本人の内面をあまりよく知らないまま、わけのわからない感じで人を好きになるというのは、高校や中学の時ってあった気がします。

首藤　私もありました。塾の先生のこととか……。塾の先生の内面なんてなんにも知らないんですけど、すごい好きでしたね（笑）。

綿矢　いいですね〜（笑）。外見がタイプで？

首藤　なんか偉そうに言われるのが好きで（笑）。

綿矢　学生のときにそういうタイプの人を好きになる気持ちわかります。年は結構近い!?

首藤　離れてました（笑）。

綿矢　青春て感じがする（笑）。

――作間龍斗さんが演じる、たとえ役はいかがでしたか？

首藤　最初CMで拝見して、すごく雰囲気のある方だなって思って。その後グループの動画を観ると、なんとなく異質な感じを受けて。作間さんなら、愛が「私だけが見つけた」と思い込める役を演じられるんじゃないかと思ってオファーしました。お会いしたらすごく綺麗な方でびっくりしたんですけど、お話してみると雰囲気は異質な感じのままで、すごくすんなり役に入ってくれました。（たとえに猛アプローチする）愛に対する、拒絶の感じとかも……。

綿矢　映画の中のたとえは、骨格とか手の感じとか、全体的に防御強めの男性って感じがしてリアルでした。目線とか少しおどおどしてるところとか。愛ちゃんって見た目は小柄で可愛いのに、そんな彼女の中に秘めてる何かを読み取って警戒してる感じとか、自然でしたね。

画像: 愛が想いを寄せる相手・たとえを演じる作間龍斗さん — 愛が想いを寄せる相手・たとえを演じる作間龍斗さん

――物語は、愛がたとえへの恋心を募らせるうちに、たとえが密かに交際する美雪という存在を突き止めます。しかも、巧妙に接近して美雪を“寝取る”というとんでもない展開に……。そんな美雪を自然体で演じた女優・芋生悠さんについても聞かせてください。

首藤　芋生さんは本当に思慮深い方。最初の打ち合わせで台本を読み込んで来てくださって、そのとき、「愛ちゃん男子に人気だし絶対（彼氏）いると思った」という美雪のセリフに対して「美雪は“男子”って言わない気がします」と意見を言ってくれて。あぁ、確かに言わないかもしれないと「愛ちゃん人気あるし」というセリフに変えたり。最初から美雪という女性を一緒に作ってくれました。

綿矢　芋生さん演じる美雪の笑顔は、その笑顔を見て愛のブレーキきかなくなっていく感じが伝わってきました。包容力ともまた違う魅力ですね。美雪がまっすぐ愛を見て「神様みたいに可愛いね」って言うシーンの、邪気が全然ない感じとか。自分の母親との関係も、絶対に傷つけない良い娘でいようとしていて。嫉妬心や警戒心が全然ないところがすごく“美雪”って感じでした。

画像: たとえと愛との三角関係に巻き込まれる美雪を芋生悠さんが演じる — たとえと愛との三角関係に巻き込まれる美雪を芋生悠さんが演じる

――首藤監督は、17歳の頃に綿矢りささんの小説『ひらいて』に出会って「この映画を撮るために監督になった」と公言されています。『ひらいて』以外で、綿矢さんの作品で好きな小説はありますか？

首藤　いくつも好きな作品はあるんですけど、『かわいそうだね？』に収録されている『亜美ちゃんは美人』が特に大好きです。亜美ちゃんと、さかきちゃんという登場人物がいて、亜美ちゃんの方がさかきちゃんよりも、より美人ということで進んでいく物語ですが、さかきちゃんの感情の描かれ方がめちゃくちゃ好きですね。

綿矢　そんな風に言っていただけて感激です。

――映画『ひらいて』の完成で、またひとつ邦画で青春恋愛映画の名作が誕生しました。首藤監督は、好きな青春映画はありますか？

首藤　青春映画はすごく好きです。ジョン・ヒューズ監督とかベタなのも好きですし、『月光の囁き』とか『渚のシンドバッド』とか、観た後に、感じたことが無い感情が浮かび上がってくる少し複雑な映画も好きですね。

――最後に、映画『ひらいて』をどんな人に観てほしいですか？

首藤　映画を撮っているときは、私が17歳で原作を読んで感銘を受けたように、同世代に観てほしいと思って作っていました。だけど、完成してからは中年の男性の方からの感想などもすごく新しくて面白かったりしたので、同世代だけでなく、主人公の愛たちとかけ離れた方たちにも面白がってもらえたらすごく嬉しいです。

綿矢　視聴者として観た感想で言うと、高校生や同世代の方はもちろん、私今37 歳なんですけど、同じ世代の人が観てもがすごく楽しめる映画だと思います。舞台になっている町並みがちょっと懐かしい感じで、それがまたリアルで郷愁というか。深い感情を感じるところがたくさんあります。親御さんを演じてらっしゃる方も馴染みのある俳優さんなので、親世代の目線でご覧になっても面白いと思います。