――世界的に新型コロナウィルスの影響で舞台の上演中止や延期が続く中、ようやく2021年の夏に舞台が再開できた時の率直な思いをお聞かせください。
アダム「説明ができないような言葉にできないような気持ちでした。舞台に戻ってこられて、舞台で自分たちが好きなことをできるホッとした感情が、本当に一番大きかったです。お客様からも劇場に戻ってこられてすごくうれしいという気持ちがよく伝わってきました。本作はこういった時期に上演するのに相応しい作品だと思います。喜びや、ユーモア、愛に溢れていて、お客様は希望や喜びをもって劇場をあとにできる作品だと思います。なので、初日は特に劇場全体に電気が走ったようなすごい盛り上がりを見せていましたし、全公演通しても、とても盛り上がっていました」
――舞台人として舞台に立てない期間は、アダムさんにとってどのような期間でしたか?『SINGIN’ IN THE RAIN ~雨に唄えば~』の上演決定は希望となりましたか?
アダム「コロナで舞台に立てない期間はとても大変な時間でした。最初の数カ月はそれほど辛くなく、むしろ今までできなかった休むことや、各国を公演で周ることが多いので、家族とゆっくり過ごせる時間ができたという意味で最初の数カ月はよかったなと思っていたのですが、ドンドンドンドン辛くなっていきました。舞台人として、舞台に立つことは人生でもあります。だからそれができないのは自分の存在価値が半分なくなったような感じでもあったのですが、家族と一緒にその状況を乗り越えてきました。やはりこの先に『SINGIN' IN THE RAIN ~雨に唄えば~』がロンドンと日本という僕が好きな場所で上演できるということが僕に希望を与えてくれました。トンネルの先に光があるというのがわかっていましたので、すべてが落ち着いて戻ったら公演ができるというのはモチベーションとなりました」
――イギリス公演にあたって、稽古の進め方なども普段と違っていたと思いますが、大変だったことはありますか?
アダム「稽古はこれまでとはかなり違いました。例えば稽古場でもほかの人に近づきすぎないようディスタンスを保たなければならなかったですし、毎日検査もしていました。稽古場を出たあとも人との距離は近づき過ぎないように気をつけていましたし、マスクはもちろんいつもしていました。本番中はステージを降りて楽屋に戻る時もすぐにマスクをしなくてはならなかったのですが、ハードなダンスナンバーの後にすぐマスクをつけなければならず、とても息苦しくて、大変でした。ただ、本当に舞台に戻れたのがうれしかったので、そういうことは些細なことで、気にはなりませんでした。稽古場と家の往復のみで、自分が感染リスクを高めるようなことや、周りの人・カンパニーに感染させてしまうようなことを避けるためにも、稽古以外の活動は最小限しかしませんでした。イギリス公演を大きな事故、出来事がなく最終公演まで終えられたのはラッキーだったと思います」
――イギリス公演でたくさんのハードルを乗り越えてきましたが、日本での公演を行うにはさらに大きな決心と覚悟が必要だったと思います。心境をお聞かせください。
アダム「本当に楽しみにしていますの一言です。待ちきれません。この日本公演の話を4年前からしていたので、やっと日本に行けるということでうれしいです。難しさはまったく感じていませんし、むしろホッとしています。今この作品はこれまでの中でも一番いい状態にあると思っています。お稽古期間もとても長くとれたんです。2012年の初演以来これほど長くお稽古をして本番に臨めたことは今回が初めてなので、その点でいい状態にあると思います。キャストもいいキャストが揃っていますし、みんな日本に行くのを楽しみにしています。我々が日本の土地に足を踏み入れた時には、すごく大きな瞬間になるのではないかと思っています」
――前回の2014年、2017年の日本公演と今回の公演では、どんな違いがありますか。
アダム「まず僕のシーンで言うと、再演する度に新しいドン・ロックウッド像をつくろうとしています。今回は稽古期間がとても長く5週間とれました。通常再演作品ですと、1週間〜10日で本番を迎えてしまうことがあるのですが、今回は稽古期間が長くとれたということで、全部のシーンを細かく見れたり、キャラクターについてもより細かくもう1度見直すことができたのは大きかったです。ドンはみんなに好かれるキャラクターで、今回もそこを目指しています。キャシーと最初に会うシーンがあるのですが、世界的にMe Too運動が行われている状況でもあるので、あまり対決感を出さずに心あるやりとりになるようにしています。僕の解釈というのは、周りの役者さんによって変わってきます。キャシー役にシャーロット・グーチがキャスティングされていますが、彼女のキャシー像を見て僕の解釈も変わってきたと思います。今回1つ言えるのは、ドンの脆さというのが今までよりも大きくなっていると思っています。作品自体は素晴らしいものなので過去2回と変える必要もないと思っています」
――本作では14トンの大量の雨の中を歌って踊ってというのが、見どころかと思います。その反面、アダムさんにとってはハードなシーンにも思えますが、実際のところはいかがですか?
アダム「パフォーマーとしてあの舞台で演じる、踊るということは、今までいろいろなステージを上演してきましたが、一番の喜びです。あのナンバーを演じることで、飽きることもなくいつまでもできますし、喜びが溢れているナンバーです。第1幕の終わりにくるナンバーでもあり、有名な曲でもありますし、この作品は、特に振付の仕方、水にも振りがついているような見え方もすると思うので、とても素敵だなと思っています。観客のみなさんの反応も、毎公演毎公演まったく違って、それもおもしろいですし、素晴らしいことだと思います」