3月11日(金)より公開のクリストス・ニク監督のデビュー作『林檎とポラロイド』の魅力を映画ライターが語るイベントが2月22日都内劇場にて行われた。

第77回ヴェネチア国際映画祭オリゾンティ部門オープニング作品として選出されたクリストス・ニク監督のデビュー作『林檎とポラロイド』が、3月11日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿 武蔵野館ほか全国順次公開となる。

本作は、記憶喪失を引き起こす奇病が蔓延する世界を舞台に、主人公の男が病院から薦められた「新しい自分」プログラムに参加しミッションをこなす姿が描かれる。

本作の監督を務めたのは、リチャード・リンクレイター(『6才のボクが、大人になるまで。』)や、ヨルゴス・ランティモス(『女王陛下のお気に入り』)の助監督を務めていたクリストス・ニクで、監督デビュー作となる。2020年ヴェネチア国際映画祭で上映されるや、「見事なまでに胸を打つ<ガーディアン紙>」「魂のこもった今日性のある映画<ヴァラエティ誌>」と、その独創的で普遍的な物語に、絶賛の嵐が巻き起こった。
さらにその評判を耳にしたケイト・ブランシェットは、監督に才能に惚れ込み、エグゼクティブ・プロデューサーに名乗りを上げ参加。
すでに次回作はケイト・ブランシェットプロデュース&キャリー・マリガン主演で製作が決定している注目の監督だ。

今回のイベントで作品の魅力、解説を行ったのは、映画ライターのSYO。

ヴェネチア国際映画祭で脚光を浴びた本作の魅力

「(実際に鑑賞して)すごく良かった。全部が素敵。とても余白がある映画です。質感や世界観がとても素敵ですし、上映時間が90分という見やすさもある。設定が面白いというのはもちろんありますが、上品さや洗練された感じというか、ひとつひとつの小道具・調度品の細部に至るまで美意識が行き届いていました。(記憶にまつわる物語を描くなかで)スマホやPCという記録・記憶媒体をいかに排除するかという問題は現代のつくり手にとってすごく大事」

説明もなく自然にこの世界を受け入れさせるつくり

「冒頭からの世界観の構築というところが大きいです。私たちが映画やドラマを見るときってすごくノイズにさらされている時代。大量のコンテンツを日々消費しているからこそ感じる、‟これがない、こういう設定か”などということを、本作では意識させられることがない。それだけでもすごい映画だなと思います」

ヨルゴス・ランティモス、リチャード・リンクレイター...名監督たちから受け継いだものと独自性

今作が長編デビュー作となるニク監督は1984年生まれ。

「この年齢でこんな作品を作れるなんてすごい。(過去に助監督を務めているヨルゴス・ランティモス監督からは)日常を描いているんだけどどこか奇妙な世界の構築の仕方を、(リチャード・リンクレイター監督からは)淡々とした日常の積み重ねを観察する視点のようなものに影響を受けているように感じます。ただ、例えばランティモス監督の作品にはある種の過激さというのがあって、ニク監督はよりマイルド、よりポエティックな感じがします。他にもスパイク・ジョーンズ監督 (『her/世界でひとつの彼女』〔13〕)や、チャーリー・カウフマン監督(『脳内ニューヨーク』〔08〕『エターナル・サンシャイン』〔04/脚本〕)がお好きだというのもすごく伝わりました。独自性というものもすごく感じましたが、前出の監督たちがお好きなのであれば僕のすごく好きなマイク・ミルズ監督、そしてさらにはソフィア・コッポラ監督もお好きだろうなとか、そういった流れは感じますね。めちゃくちゃ趣味が合うなと思います (笑)」

モノローグがない

「(本作の特徴である“モノローグがない”という点については)観る側が能動的に作品に参加することが可能になる。解釈・考察を能動的にすることで、自分の作品になる。“自分はこう思う”とすることによって、よりパーソナライズされていく良さがある。(観る人によって感想を好きに持っていいというのが)ある種の多様性ですし、現代だったら作品の楽しみ方として、SNS で考察が 捗る作品でもあると思いますしね。SNS やスマホの存在が排除されたアナログな世界観の本作でそういったことがなされるのは、逆説的でもありますが」

後半に行けば行くほどエモが増していく作品

「 (監督が本作へ散りばめた哀しみの要素についても)後半に行けば行くほどエモが増していく作品ですよね。『ユージ ュアル・サスペクツ』〔96/ブライアン・シンガー監督〕のように主人公が何かしらの嘘を抱えているんだろうなという目線もカバーしている。伏線というか、ヒントのようなもののまぶし方が絶妙です。アイテムの使い方も上手。林檎に限らず果実というものはすごく意味を持ってきます。ほかにも机・ 椅子・キッチン...ここに住みたいと思いませんか?(笑)照明も基本的に間接照明ですごく良いです。 (ポラロイドを意識した画角や、はっきりとしない淡さを持った色彩感も相まって)ディストピアではあるのだけれど、この世界に行ってみたい」

テーマは「記憶」

「最近の作品では『ファーザー』〔20/フロリアン・ゼレール監督〕 や、『選ばなかったみち』〔20/サリー・ポッター監督・公開予定〕が思い浮かびますが、本作のようにも、『メメント』〔00/クリストファー・ノーラン監督〕のようにも扱うことができる(ジャンルの幅の広さがある)作品です」

好きなシーン、面白いと感じた部分

「(好きなシーンは)全部です。(面白いと感じたのは)世界的なパンデミックのような世界でも圧倒的にパーソナルな生活に集約されている点。出て来る医師やその治療法もとてもアナログ感にあふれていて、そこに可愛らしさがありますよね。監督が、 InstagramやTikTokなどのSNSに関わりのないような世代ではないのにも関わらず、敢えてやっているというところもまた良いと思いました」

最後に

「いまのような状況下で、こういった作品が映画館で見られるということへの感謝をすごく持っています。映画をご覧になった方おひとりおひとりの声というのが、まだ観ぬ誰かの鑑賞欲を誘発する力になっていくと思います。力を貸してください!」

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クリストス・ニク監督オリジナル脚本による哀愁とユーモアが絶妙なバランスで調合され、近未来的な設定ながらも、人肌のような温もりに満ちている『林檎とポラロイド』は、3月11日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿 武蔵野館ほか全国順次公開。明かされていく過去に目頭が熱くなる。

胸打たれる予告篇

口数の少ない主人公が治療を通して心に宿した本当の思いとはーー

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STORY

記憶喪失を引き起こす奇病が蔓延する世界――。それでも男は毎日リンゴを食べる。
「お名前は?」「覚えていません」――。 バスの中で目覚めた男は、記憶を失っていた。覚えてい るのはリンゴが好きなことだけ。世界は、記憶喪失を引き起こす奇病が蔓延し、治療として「新しい自分」と呼ばれる回復プログラムが行われている。毎日送られてくるカセットテープに吹き込まれた様々なミッションをこなしていく。自転車に乗る、仮装パーティーで友達をつくる、ホラー映画を見る。そして、その新たな経験をポラロイドに記録する。様々なミッションをこなして行く中で、ある日、男は、同じくプログラムに参加する女と出会い、仲良くなっていく。しかし、「新しい日常」に慣れてきた頃、男は忘れたはずの以前住んでいた番地をふと口にする・・・。「哀しい記憶だけ失うことはできませんか?」口数の少ない主人公が治療を通して心に宿した本当の思いとはーー?

『林檎とポラロイド』

3月11日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、 新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー

監督:クリストス・ニク
脚本:クリストス・ニク、スタヴロス・ラプティス
撮影:バルトシュ・シュフィニャルスキ
編集:ヨルゴス・ザフィリス
出演:アリス・セルヴェタリス、ソフィア・ゲオルゴヴァシリ

2020年/ギリシャ=ポーランド=スロベニア/カラー/スタンダード/5.1ch/90分/原題Mila

配給:ビターズ・エンド
©︎2020 Boo Productions and Lava Films

www.bitters.co.jp/ringo/

Twitter https://twitter.com/RingoEiga

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