『ベイビー・ドライバー』『ラストナイト・イン・ソーホー』のエドガー・ライト監督初のドキュメンタリー映画『スパークス・ブラザーズ』が4月8日(金)より公開。50年以上のキャリアを持ちながらも謎に包まれた兄弟バンド・スパークスの魅力に迫った同作についてライト監督に話をうかがいました。(取材・文:SCREEN編集部)

スパークスを“読み解きたかった”

――どういうきっかけで、この映画を作ることになったんでしょうか。

2015年のことです。彼らの音楽を聴きながら作業をしている時にふと「スパークスってSNSやってるのかな」と思ってTwitterを開いたらスパークスのアカウントにフォローされていたんです。僕はフォローしていなかったのに(笑)。だから慌ててフォロー返ししてDMを送ってみたら、48時間後には「会おう」という話になってご飯を一緒に食べました。

それから映画製作が始まるまでは2年半ほどの期間があるのですが、その間に彼らの仕事に対する真面目さやチャーミングさを知って、「絶対に誰かが彼らのドキュメンタリーをつくらないとダメだ!」と思って色んなところで言いまくっていました。自分で作るつもりはなかったんですが、一緒にスパークスのライブを観に行ったフィル・ロード監督に「誰かが彼らの映画を作るべきだよね」と話したら「そこまで言うんだったら、自分で撮ったら」と言われて(笑)。それがきっかけですね。

――最初にスパークスの音楽を知ったのはいつ頃ですか?

最初にスパークスを知ったのは5歳の時です。木曜日の夜7時半に放送されていた音楽番組「Top of the Pops」に彼らが出演していたんです。当時の私にはまだ彼らの魅力を理解できなかったのですが(笑)、忘れられない何かが脳裏に焼き付きました。その後で、両親が買ってくれたコンピ系のアルバムに彼らの音楽が入っていたので、繰り返し何度も何度も聴き返しました。それからの人生でも、気付けば「あ、スパークスだ」だということが何度もあり、自分の中でのスパークス熱が徐々に高まっていったんです。

――彼らのどういった部分に惹かれていったんでしょうか。

テレビで最初に観たときは音楽よりもビジュアルに惹かれました。当時はニコニコしているポップミュージシャンばかりだったんですが、スパークスはニコリともしないし、ずっと睨みつけているような、観ている方が不安になるような印象だったんです。

画像1: スパークスを“読み解きたかった”

でもレコードを聴いてみると、中毒性があってキャッチ―で。歌詞の意味は分からなかったのですが(笑)、「何か面白いことを言っているに違いない」とも感じたんです。モンティ・パイソンを知ったときも「読み解こう」と思ったのですが、スパークスも正にそれでした。読み解きたかったんです。

――実際に会ってみてどうでしたか?そうした印象とギャップはありましたか。

実際に会ってみると、すごくいい人で、すごく普通で、それにチャーミングで話しやすかったです。そうしたほっとした部分が半分で、もう半分は「これがあのスパークスだ!」という憧れのスターに出会えたドキドキ感でいっぱいでした。

――映画の中でも彼らのチャーミングな人柄が伝わってきました。

彼らのエキセントリックさはレコードの中にあるんです。本当の彼らはそうではないので「ドキュメンタリーにするほど、自分たちの素顔はロックンロールじゃないよ」と今まで思っていたのかもしれません。でも、真剣に音楽に情熱を込めて作っている姿勢、それこそがロックンロールなんだと私は思います。人としての彼ら、そしてレコードの中の大胆さ。このコントラストが非常に素敵なんです。

画像2: スパークスを“読み解きたかった”

“彼らのアルバムのジャケットのような映画にしたかった”

――今回、初のドキュメンタリー作品ですね。劇映画と比べて大変だったことはありますか。

初めての体験ばかりだったので何かと比べるのは難しいのですが、自分の周囲にはドキュメンタリー制作に携わったことのあるスタッフがいたので、彼らには色々と助けてもらいましたね。インタビューの人選には時間をかけました。ロンとラッセルにも当然インタビューしていますが、彼らは謙虚なので必要以上には語らないんですよ。なので、それを補うために他の人たちにも話を聞きたくて。インタビュー関係の作業は辛くなくて楽しかったですね。自分もそうですし、話してくれる人もスパークスが好きなので、時間の余裕があればもっとインタビューしたかったくらいです(笑)。

――インタビューで特に印象に残っている方はいますか?

誰か一人とかを選ぶことはできないんですが、自分が憧れてきた人に会えたのは嬉しかったですね。デュラン・デュラン、ニック・ヘイワード、イレイジャーの2人、それにコメディ俳優たちはみんな話が面白かったし、歌詞をまるで詩の朗読のように読んでくれたニール・ゲイマン…。ちなみにサントラの最後は「アマチュア・アワー」の歌詞をニールが朗読するものなんですよ。

――ちなみに劇映画として作ろうと考えたことはありましたか?

いい質問です。考えたことはなかったんですが(笑)。スパークスには、彼らを知り尽くした熱狂的なファン、ある程度知っているファンがいて、そして全く知らない人もいますよね。こうした人たち全員が楽しめるものにしたくて今回のようなスタイルにしました。

――ライト監督の作品には、過去の映画のオマージュが散りばめられています。この映画にも何かオマージュはありますか?

今回はいうなれば「スパークス」のオマージュに徹底しています。彼らのアルバムのジャケットのような映画にしたいという思いがあったんです。彼らのユーモアのセンス、ウィットに富んだビジュアルは、彼らのアルバムのジャケットに凝縮されていますから。

画像: “彼らのアルバムのジャケットのような映画にしたかった”

この映画、インタビュー部分はモノクロですよね。これはカメラマンのリチャード・アヴェドンが撮影した「ビッグ・ビート」のジャケットをイメージしたものです。それと、アニメーションを取れ入れたりするミックスメディア的な手法も彼らのアルバムに通ずるところだと思います。

――この映画は、そうしたスパークスらしさが詰め込まれた映画であると同時に、ここ何十年かのポップミュージック史のドキュメンタリーでもあると思いました。

そうですね。60年間のポップカルチャーを同時にドキュメンタリーにできたことは嬉しかったです。それができたのは、スパークスのキャリアがあったからこそ。長いキャリアがありながらも、今も新しい音楽を作り続けているバンドって他にいないと思うんです。スパークスは2年ごとに今も新作を出していて、常に新しさがある。スパークスをポップカルチャーというプリズムを通して見ることができたのは非常に面白かったです。

――最後に日本のファンへメッセージをお願いします。

『ラストナイト・イン・ソーホー』に続いて『スパークス・ブラザーズ』でも日本へプロモーションに行けないのは凄く寂しいです。最後に日本へ行ったのは、この映画の撮影でサマーソニックや渋谷クアトロに行ったとき。また日本に行く口実をつくりたいので、新しい作品を作りますね(笑)。そのときにまたお会いしましょう。

画像: “彼らのアルバムのジャケットのような映画にしたかった”/『スパークス・ブラザーズ』エドガー・ライト監督インタビュー

PROFILE
『スパークス・ブラザーズ』監督
エドガー・ライト Edgar Wright

1974年4月18日生まれ、イングランド・ドーセット出身。20歳のときに『A Fistful of Fingers』(95)を制作。限定公開ながら劇場公開もされた同作をきっかけにTVの世界に入り、「Spaced(原題)」(99~01)を演出。その後、盟友サイモン・ペッグ&ニック・フロストと組んだ『ショーン・オブ・ザ・デッド』(04)、『ホット・ファズ ー俺たちスーパーポリスメン!ー』(07)、『ワールズ・エンド/酔っ払いが世界を救う!』(13)の“スリー・フレイヴァーズ・コルネット”3部作のほか、『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』(10)、アカデミー賞3部門にノミネートされた『ベイビー・ドライバー』(17)、『ラストナイト・イン・ソーホー』(21)といった話題作を次々と世に送り出している。

本作『スパークス・ブラザーズ』はキャリア初のドキュメンタリー。

『スパークス・ブラザーズ』は4月8日(金)公開!

画像: 『スパークス・ブラザーズ』予告編 www.youtube.com

『スパークス・ブラザーズ』予告編

www.youtube.com

『スパークス・ブラザーズ』
4月8日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ、渋谷シネクイント他全国公開

監督:エドガー・ライト『ラストナイト・イン・ソーホー』『ベイビー・ドライバー』
出演:スパークス(ロン・メイル、ラッセル・メイル)、ベック、アレックス・カプラノス、トッド・ラングレン、フリー、ビョーク(声)、エドガー・ライトほか

配給:パルコ ユニバーサル映画
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