30周年記念に実施したプロデューサー座談会には、シンエイ動画・山﨑智史、西川由香里、テレビ朝日・佐野敬信、ADKエモーションズ・鶴崎りか、秋山倫子、双葉社・鈴木健介、増尾徹が参加し、『映画クレヨンしんちゃん』制作裏話を語り尽くしてくれた。SCREEN6月号(発売中)では、担当作品の思い出や印象深い作品、制作現場の様子を紹介。本記事では、最新作『もののけ忍者珍風伝』の制作経緯や注目ポイント、プロデューサーが教えるクレヨンしんちゃんの“正しい”豆知識、さらに原作者・臼井儀人との思い出話に触れる!(取材・文/タナカシノブ)
30周年だからこその表現!重さと軽さの絶妙バランス
鈴木「30作目ではしんのすけの出生の話を描きたいとなったとき、“取り違え”をテーマにすると重くなるよね、というところから始まりました。映画の脚本は原作のエピソードを抽出して書いているので、いろいろな意味でうまくやっていかなきゃいけないテーマだと思いました。出来上がった映画は、橋本(昌和)監督さすがだなというもので。重くならず軽くならず、いい形で落とし込んであると感じました。親御さんには、しんのすけが生まれたときのことを想像しながら、自分の子供が生まれた時のことを思い出して観てもらえるはずです」
増尾「『もののけニンジャ珍風伝』では、忍者の里から電話しようとするけれど、何度やってもかからないシーンが登場します。しんちゃんっていろいろなことができるけれど、決してスーパーヒーローではない。しんちゃんも5歳児だと再認識しました。臼井先生もずっと、飛躍するのはいいけれど5歳児の本質は変えてはいけないと、とても気をつけていらっしゃいました。最新作で“しんちゃんも5歳児だ”と感じたシーンは、そんな意味でもとても印象に残っています」
鶴崎「しんちゃんが一人になったときに、過去を振り返る静止画のフラッシュバックがあります。1枚1枚の絵柄がすごくグッときます。1枚の表現力がとても素晴らしいと思いました。『クレヨンしんちゃん』を支えてくださった方たちの気持ちがすごく伝わるシーンで、心から感謝したくなりました」
秋山「最初から最後まで見どころだらけですが、『映画クレヨンしんちゃん』全部に通じる子供が持つ無限の可能性、自由な発想力が終盤に描かれていて、『映画クレヨンしんちゃん』ならではのパワーを感じました。橋本監督もおっしゃっていたのですが、映画を観た子供たちが“自分たちもやってみよう!”という気持ちになってくれると思います。。私自身、クレヨンしんちゃんの映画を観ていつまでもワクワクできるような大人であり続けたいですし、改めてそう思わせてくれる映画になりました」
佐野「出来上がったときからずっと思っているのは“今観るべき映画”だということです。『クレヨンしんちゃん』は常に時代を反映している作品なのですが、今年は特に“今、観るべき”と感じています。扱っているテーマも笑いの要素もすべてが見どころになっています」
山﨑「近藤(慶一)プロデューサーの“30作目の節目はしんのすけにフィーチャーした作品をやりたい”というアイデアからスタートして、忍者の里の人たちとの関わりを通じて“家族の絆”をしっかり描けたんじゃないかなと。子供目線でも親目線でも楽しめる作品になっていると思いますね。脚本のうえの(きみこ)さんによる笑いの要素も“さすが”という感じで。父親がゴリラだったなんて…(笑)」
鈴木「キャスティングも最高におもしろいですよね」
西川「キャラクターもすごくよかったです」
山﨑「イケメンのキャスティングなんて、本当に笑っちゃう」
鶴崎「贅沢でしたね(笑)」
山﨑「映画を観終わって、クレジットで“あーーーっ!!”となってくれたら!」
西川「絶対野原家の子供なのに、そうじゃない可能性があるということころから始まるのもおもしろかったです。私が冒頭でグッときたのは、“しんちゃん”って何度も名前を呼ばれるシーンです。自分が子供の頃を思い出すと、あんなに名前を呼ばれることって人生の中でないなって。ただ名前を呼ぶシーンですが、すごく意味があることに感じました。あとは、やっぱりしんちゃんが一人でいるシーンはとても印象に残っています。家族やカスカベ防衛隊など、いつも誰かと一緒にいて、巻き込まれておもしろくなるのがしんちゃんですが、今回は一人でいることがすごく多い。お布団の中で泣いているときは“やっぱり寂しいよね”と感じられました。これは30周年だからこそ表現できた話だと思っています」
「子供に見せたい」作品へ。長く愛される理由とは?
山﨑「やっぱり子供が心から笑って楽しめるというのが一番大きな理由だと思います。“泣ける”という声も多く聞きますが、制作側としてはまずは“笑い”を軸に物語を作っています。PTAで取り上げられるようなこともありましたが、それ以上に、子供たちには作品の魅力がちゃんと伝わっていると感じています」
西川「そういう話、確か昨年もした気がします」
佐野「例えば、試写会後の感想を聞くと、感想が一種類じゃないんですよね。感動した、すごく泣いたという人もいれば、めちゃくちゃ笑いましたという人もいる。笑いもあるし、時事ネタも入っているし、感動もできます。いろいろな人に刺さっているのかなと思っています」
山﨑「これまで一度もリメイクせずに、30年間新しいテーマに挑戦し続けているところも理由の一つかもしれません。毎年、ネタ探しは大変ですが…(笑)」
鈴木「そういえば、臼井先生もよくおっしゃっていました。“毎年、新しいネタをよく出してきますね”って(笑)。そんな会話をみんなで繰り返しながら、気づけば30本!」
西川「『映画クレヨンしんちゃん 新婚旅行ハリケーン 〜失われたひろし〜』(19)のときも、ひろしとみさえが新婚旅行行ってないことに気づいたりして(笑)。『映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』(20)のときは、そういえば『クレヨンしんちゃん』なのに、クレヨンも落書きもあまり出てこないねって話になって…。やってきてなかったことに改めて気づくこと、いまだにあります」
鈴木「感動させたい気持ちはあるけれど、やっぱり笑いを一番の軸にしないとダメという話をしたことがあります。今、振り返るとその話をしたときにコンセンサス(意見の一致)が取れたのかなと感じています。その後の作品では、興行的にもうまく行っている気がするので。まずは“しんちゃんって笑えるよね”があって“泣けるよね”は後からついてくる。そういう作品を作っていくべきだと思っています。愛される理由は、みんながその方向を向いているからだと感じています」
山﨑「たしかにそうですね」
鈴木「もちろんテーマとしては入れていますが、やっぱりまずは笑いです!」
時代背景にあわせて表現に変化を。議論はおしり問題だけじゃない!
山﨑「5歳を30年やっているから…、そりゃ、笑いのポイントも変わりますよね(笑)。それとおしり問題は毎年出てくる議論のテーマです」
西川「チャイルドシートの見せ方とか、真面目なテーマもあります(笑)」
鶴崎「『激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』のときは、うんち問題がありました…」
西川「うんちの色変えましたね(笑)」
一同「アハハハハ」
鈴木「大量のうんちが出てくるシーンで、茶色にしてしまうのはどうか、って話になって。じゃあ、可愛くすればいいか、みたいな(笑)」
佐野「しんちゃんは世界展開しているので、日本でOKでも海外ではNGという描き方もあります」
鶴崎「海外に関しては、佐野さんと一緒にやっていますが、国によって受け止め方が違うので…。出来るだけオリジナル版を変えないで済むように制作の際に意識しています」
西川「うんちの白虎隊。掛け声とかで調整しましたね(笑)。今年はタイトルも久しぶりに攻めた印象があります!『映画クレヨンしんちゃん ちょー嵐を呼ぶ 金矛の勇者』(08)以来に攻めてる気がしました」
佐野「確かに。企画書を作るときに変換できなかったので、改めてしんちゃんならではの造語なのだと感じました(笑)」
鈴木「タイトルはストレートにテーマを伝えるだけでなく、しんちゃんらしさを出すことはいつも考えていることですよね」
プロデューサーが語る『クレしん』トリビア
鈴木「今回の映画にはシーンがありますが、基本的にしんちゃんは正面を向いて泣かないということ。臼井先生のポリシーとして、しんのすけはハードボイルドなキャラクターだから、迷子になっても泣かないというのがありました。だけど、『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』(01)で初めてそれを表現しました。『もののけニンジャ珍風伝』にもその表現があって、私自身もグッときたポイントです」
西川「しんちゃんも5歳児だったんだ…って」
山﨑「あと私たちだから知っているトリビア、豆知識でいうと、ひまわり役のこおろぎ(さとみ)さんが、アフレコでたまにしゃべっちゃうとか(笑)」
西川「“たや!”じゃないんだ(笑)。思わずしゃべっちゃうことあるでしょうね」
山﨑「録り直しすることもありますね(笑)」
一同「アハハハハ」
西川「テレビシリーズで、ひまわりがひたすら喋るけれどずっと字幕という回もありました(笑)」
鶴崎「やってみたらおもしろいんじゃない?ってノリで作った気がします」
西川「伝説シリーズやホラーシリーズもありますね」
鈴木「怖い繋がりで…。『映画クレヨンしんちゃん 伝説を呼ぶ踊れ!アミーゴ!』(06)のときの風間くんのママの顔がすごく怖いとかも、豆知識かな。試写のとき、怖がって悲鳴をあげたり、大号泣する子供もいましたよね。試写会後に、臼井先生が“狙い通りですね”と、してやったりという感じだった記憶があります」
一同「アハハハハ」
鈴木「確か、ホラー要素を入れたいとおっしゃっていたはず。子供たちの反応を見て“成功したね”みたいなことをおっしゃっていました」
増尾「『クレヨンしんちゃん』は大人向けなところも大きかったので、子供がそういう反応をすることが、そのときの臼井先生の狙いだったのかと思います」
西川「そういえば、臼井先生が登場している作品もありますよね。臼井先生が出たい!とおっしゃったのでしょうか?」
増尾「自分から出たいというタイプではないです。“乗せられてやっちゃった”とかってよく笑ってました(笑)」
作品情報
『映画クレヨンしんちゃん もののけニンジャ珍風伝』
大ヒット上映中
©臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 2022