“この時代にこそキュレーション・サービスが重要”
―以前、TV シリーズ版「ストーリー・オブ・フィルム」を制作されてますね。いま、このタイミングで改めて映画として、映画史を⾒直そうと考えた理由はありますか︖
カズンズ監督「この10年間、映画界では本当に⾊々なことが起きた。映画の⾒⽅から、作り⼿、制作される場所まで、ありとあらゆることが変化し、注⽬すべきことがたくさんあっただね」
ーTV シリーズ版が⽣まれた時代と、2022年現在の違いについてどう思われますか︖
カズンズ監督「10年前よりもたくさんの作品が、まるで流星群のようにぼくたちの⽬の前を流れていく。だから、何を観るべきか、どの作品を観れば楽しめるのか判断するのが難しくなっている。それから、映画を観る⽅法の選択肢がかなり増えた。なにもかもワンクリックで⼿にすることのできる距離にある。そうなると、新しいメディアを試したいという気持ちも⾼まってくる。10年前にはまだ知らなかった満腹感によく似たこの感覚を、いまはだれもが抱いているだろう。
だからこそ、この時代にキュレーション・サービスが重要になってくる。だからこそ、映画祭を開催することが、これまでよりずっと⼤切になってくる。そして、いまでも映画というメディアは素晴らしい。観客を変化させたり、排除したり、新たな世界に引き込む⼒はいまも変わらない。多様な作品が⽣み出されるなかで、時代を超えた普遍の性質は⾒逃されがちなんだ。映画というメディアは、⼀晩で観客の⼈⽣を変えることができるという事実は、忘れられている。映画の世界に圧倒されて飲み込まれるという体験を多くの⼈が忘れてしまっているんだよ」
―作品づくりの過程について教えて下さい。テレビシリーズ版では、映画史全体を取り上げていましたが、今回は2010年から2021年までの間の11年間と期間が限られています。この間にたくさんの作品が世に送り出されています。そんな11年間の映画界をどうやって作品に描いていったのでしょうか。
カズンズ「できる限りたくさん作品を観て、ありとあらゆる資料を読んだ。『⾃分が知らないことは︖』と、常に⾃分に問いかけていた。⾃分に問い続けることで新たな発⾒がたくさんあった。知らなかった作品をすぐに観ることができなくても、今後観る予定の映画のリストに加えておく。特に、知らない名前の監督を聞けば、その監督のことを調べたくなる。聞いたことのない作品や、新しい考えを持った監督を⾒つけること。
それは、ぼくにとって冒険の旅のようなものなんだ。それから、Twitterは本当に素晴らしいと思ったよ。なぜって、ぼくには世界各国に住むフォロワーがいる。インドやアラブ諸国、アフリカ、エチオピア、南アメリカ、⽇本、中国。ぼくは、いつも彼らに『みんなの知識を分けてほしい』とお願いしているんだ」
―「⾃分が知らないことは︖」という質問をご⾃⾝に問いかけたとき、最初に浮かんだ答えは何ですか︖
カズンズ「ぼくは、ここ10年のアラブ諸国の映画についてあまり知らなかった。例えば『Abou Leila(原題)』について⽿にしたことはあっても、作品を観ていなかった。実際に作品を観て『すごい︕』と驚いた。それから、ぼくはインド映画についてよく知っていると思っていたんだけど、本当のところはそうでもなかった。観た作品の量が⾜りないという事実を⾃覚する必要があった。さらに、謙虚な姿勢で向き合わなければならない。たとえ、⾃分はほとんどの欧⽶⼈よりもずっとインド映画に詳しいとわかっていてもね。知らないことはまだまだたくさんあった。インド映画、アラブ映画、アフリカ映画には、学ぶべきことがたくさんあった」
― 本作は TV シリーズ版とは違い、テレビ局のバックアップや資⾦⾯での援助などなく、製作したと聞きました。本当の意味で⾃主制作映画ですよね。資⾦援助を受けることなく、⾃⼒で作品をつくるにはどういったことが必要になるのでしょうか。
カズンズ「必要なのは映画作りを楽しむことかな。パヴェウ・パヴリコフスキ監督の『COLD WAR あの歌、2つの⼼』と『スパイダーマン︓スパイダーバース』をつなぐのは喜びだった。なんていうか、映画作りに対する喜び、いま⾃分は映画を作っているという幸せな気持ちが冷めることはないんだ。それから TV シリーズ版を⼿掛けていなければ、こんなことをする⾃信を持つことはできなかっただろうね。当時、ぼくは『The Story of Film』のプロジェクトが⼤きな反響が得られるとは思っていなかった。ぼくの作った作品が映画界に影響を与え、映画の専⾨学校での教え⽅を変えることになるとは思いもしなかった。その結果、かなりの数の名作がレストアされ、再び上映された。そういった反応は、ぼくたちの⾃信になった」
―2010年からの11年間を映画史という⻑い歴史の中で⾒て、気づいたことはありますか︖
カズンズ「逸脱することに対する強い欲求があると思う。つまり、⼈にはだれしも⼼のどこかに⾃分ではない何かになりたい、どうにかして変わりたいという思いがある。⽣きているという実感が欲しいんだ。そして、素晴らしい映画はその欲求を⾒事に叶えてくれる。映画というメディアは、逸脱することがとても得意なんだ。『光りの墓』をはじめとするアピチャッポン監督の作品は、特にそうだと思う。どれも、⼤きな経験の中で⾃分を⾒失うことをテーマにしている。そしてそれは、ぼくがおもしろいと思った作品に共通しているテーマでもあるね」
『ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅⾏』は6⽉10⽇(⾦)より全国順次公開
111本の映画は、受賞歴や興⾏成績といったありきたりな選択基準にはまったくそっていない。『ジョーカー』『アナと雪の⼥王』という⼀⾒何の関係もない2作品が、実は“解放”という意外なキーワードで共通していることを指摘するオープニングからしてサプライズの連続。そして〈映画⾔語の拡張〉〈我々は何を探ってきたのか〉という2部構成で、既成概念に囚われず⾰新的な映像表現を実践した映画を検証していく。
カズンズ監督の独⾃の愛にあふれる批評的視点が積極的に盛り込まれた『ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅⾏』は6⽉10⽇(⾦)新宿シネマカリテ他、全国順次ロードショー。
『ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅⾏』
6⽉10⽇(⾦)新宿シネマカリテ他、全国順次ロードショー
監督&ナレーション:マイク・カズンズ
2021 年/イギリス/英語/167 分/ビスタ/5.1ch/カラー/原題:The Story of Film : A New Generation(原題)/配給:JAIHO
公式サイト:storyoffilm-japan.com Twitter:@JaihoTheatre