作家・夢枕獏のベストセラー小説を 、圧倒的な画力で世界中にファンを持つ谷口ジローが漫画化した「神々の山嶺(いただき)」が、故・谷口も製作に参加し7年の歳月をかけ、ついにフランスでアニメ化が実現!「登山家マロリーはエベレスト初登頂に成功したのか?」登山史上最大の謎の鍵を握る一台のカメラと孤高のクライマー・羽生。そして、彼を追うカメラマン・深町が初登頂の謎に迫りながら前人未到の冬季エベレスト南西壁無酸素単独登頂に挑む姿を描く。フランスでは同国のアカデミー賞に当たるセザール賞で見事アニメーション映画賞を受賞し300を超えるスクリーンで公開され大ヒットを記録した。そして、ついに、今回、堂々日本凱旋上映が決定。公開にあたり、堀内賢雄、大塚明夫、逢坂良太、今井麻美といった日本を代表する豪華声優陣が吹き替えを務め世界初のアニメ版に息吹を吹き込んだ。
寺田「アニメ版『神々の山嶺』を観たオレの第一印象は、山が主役の究極の山アニメだ、ということでした。オレは、山とは縁遠い人間なんです。登山歴と言っても、高尾山くらい(笑)。そんなオレにも、高いところまで登るとこんな感じなのか、という空気感がひしひしと伝わってきました。」
夢枕「原作者として僕が驚いたのは、そもそもアニメの原作に「神々の山嶺」をチョイスしたということです。日本ではありえないことですよ。フランスだから成立したんだろうなあ。一番大きいのは「神々の山嶺」をマンガ化した谷口ジローさんが、フランスでものすごく有名なマンガ家だからですよね。もうひとつは、フランスにはヨーロッパ・アルプスで一番標高が高いモンブランがあって、登山文化が国民の中に根付いていることだと思います」
寺田「マンガと登山の愛好者がいるということですね」
夢枕「 そうです。もうひとつ驚いたのは、このアニメの中にフランス人がひとりも出てこないのです。普通なら自国人をひとりくらいは入れたくなるものなんですけどね。しかも、日本の風景描写が完璧でした。よくあそこまで取材したなあ。谷口さんの原作へのリスペクトが強かったんだろうなあ」
寺田「実は、岡山から東京に出てきてオレが最初に知り合ったマンガ家が谷口さんでした。描いたものを持っていったら真剣に見てくれて、なんの実績もない若造をひとりの同業者として扱ってくださった。なんと懐の深い人なんだろう、と感激しました。それ以来、勝手に弟子と称してずっとお付き合いさせてもらっていました」
夢枕「僕はマンガ化に関しては非常に恵まれた作家だと思うんです。「神々の山嶺」を谷口さんにお願いしてよかったのは、(漫画版の)ラストシーンでマロリーがエベレストの山頂で見せるいい笑顔を描いてくれたことです。僕は、登頂に成功したのかどうかを最後までぼかして書いたのだけど、谷口さんは『ラストを変えて、マロリーが登頂に成功した場面を描きたい』と言ってくれた。心の中のモヤモヤが晴れたような気分でした 。僕の中にも登頂を成功させてあげたかった、という思いがありましたから」
寺田「そこが谷口さんの人間性ですよね。優しい。そして、作品に向き合う時は芯が強い。妥協がないのですね。原画を見ると、一見繊細な絵だけど線は強い。作品と真摯に向き合って描き抜くというか......。だからこそ、海外でも受け入れられたと思います。とてもオレには真似できないですね」
夢枕「小説でも力を抜くところはあるんです。だけど、谷口さんはどのシーンでも力を抜かない。力を抜く場合でも全力で力を抜く」
寺田「ご本人はずいぶん前から、私は描きすぎるから、とおっしゃって、ひとりで描ける作品世界をつくろうとされていました。晩年には薄墨を使った絵も描いていた。ずっと自分の絵を模索してきていた人ですよね。一人のファンとして、もう少し長生きしてもらって完成形を見たかったです」
夢枕「あと10年は描いてほしかったなあ」
寺田「同感です。アニメを観た方が、まだ原作を読んでいないのなら、獏さんの小説と谷口さんのマンガの両方を読んで、おふたりの世界に触れてほしいと思います」
夢枕「僕は、このアニメが成功して、日本のアニメ関係者の考えが変わるといいなと考えています。小説でもマンガでも、ほかにもいっぱい原作になるいいものがあるじゃないですか。そこに気づいてもらえたら、日本のアニメの裾野も広がると思うんですよ」
2022年5月26日収録 取材・構成:中野晴行(漫画評論家)
この対談のロングバージョンは、劇場版パンフレットに収録されている。
映画『神々の山嶺』公開の前日7月7日には、日本最速上映の前夜祭の開催が決定。原作漫画を読み終えた直後にアニメーション化を希望し実現にこぎつけたというプロデューサーのジャン=シャルル・オストレロ。フランスでの大ヒットに続き、アニメ大国日本での公開の実現に感極まりぜひ会場で見届けたいと、フランスから緊急来日! 原作者である夢枕獏と初対面し、谷口ジローとの思い出やアニメーション化への想いを語り合う。日仏の神々の山嶺の生みの親が公開前夜に集結! チケット絶賛発売中。
新宿ピカデリー:https://www.smt-cinema.com/site/shinjuku/index.html
7月7日(木)18:45〜(舞台挨拶あり)
寺田克也 Katsuya Terada
1963年、岡山県出身。漫画家、イラストレーター。マンガ、小説挿絵、 ゲーム、アニメのキャラクターデザインなど幅広い分野で活動する。代表作に漫画「西遊奇伝大猿王」、「ラクダが笑う」、画集「寺田克也全部」などがあるほか、「バーチャファイター」シリーズ、「BUSIN」のゲームキャラクターデザイン、「ヤッターマン」のメカニックデザイン、「仮面ライダーW」のクリーチャーデザインなどを担当。
夢枕獏 Baku Yumemakura
1951年、神奈川県出身 1977年に作家デビュー。以後、「キマイラ」「サイコダイバー」「闇狩り 師」「餓狼伝」「大帝の剣」「陰陽師」などのシリーズ作品を発表。1989 年「上弦の月を喰べる獅子」で日本SF大賞、1998年「神々の山嶺」で 柴田錬三郎賞を受賞。2011年「大江戸釣客伝」で泉鏡花文学賞と舟橋聖一文学賞を受賞。同作で2012年に吉川英治文学賞を受賞。2017年菊池寛賞受賞、2018年紫綬褒章受章。
神々の山嶺
7月8日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開
配給:ロングライド、東京テアトル
© Le Sommet des Dieux - 2021 / Julianne Films / Folivari / Mélusine Productions / France 3 Cinéma / Aura Cinéma