土屋 敏男
(日本テレビ放送網株式会社 社長室R&Dラボ シニアクリエイター)
静岡県静岡市生まれ。一橋大学社会学部卒。「元気が出るテレビ」「ウッチャンナンチャンのウリナリ!」「とんねるずの生ダラ!」などバラエティ番組を演出。「電波少年」シリーズではTプロデューサー・T部長として出演。現「電波少年W」企画・演出・出演。
松本隆さんが勧めるドラマ「マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~」を見てみた!
前回のこのコラムで「全プラットフォームを横断してリコメンドしてくれるAIエンジンが欲しい!」と書いた。しかしそんなものが作られている気配はない。
ズッポリと嵌ってしまった「THIS IS US/ディス・イズ・アス」の後、何を見ればいい? そうしたらBRUTUSの〝夏のカルチャー計画〞特集で作詞家の松本隆さんが「マイ・ディア・ミスター〜私のおじさん〜」を強く勧めていた。あのヒット曲を長年作り続けている松本隆さんが実は韓国ドラマの20年来のファンでその松本さんが強烈に『他のドラマとは次元が違う!』とまで言い切っているドラマが「マイ・ディア・ミスター〜私のおじさん〜」! ならば見るしかない!
「マイ・ディア・ミスター〜私のおじさん〜」
韓国/2018年/配信:Netflix ほか
この最高の結末を、あなたもきっと大切な人に伝えたくなる。
孤独な人生を歩んできた、イ・ジアン(IU)が建築会社で働く寡黙な男性パク・ドンフン(イ・ソンギュン)と出会い、人々の温かい繋がりにふれて心が癒されていく様を描いたヒューマンストーリー。韓国ドラマ アワード2018 APAN STAR AWARDSで演出賞を受賞するなどした話題作。
全16話。現在11話まで見た! 確かに面白い! 最初〝こんなキャラクターなんだろうな〞と思った人がその裏で意外な物語を抱えていて、みたいなことが全体で起きていてそれが見事に全体で絡み合ってドラマが思ってもいない展開になっていく。なんと素晴らしい脚本なのか!
しかし怒られるかもしれないが正直に言おう。『自分と肌が合わない』と言うのもドラマの話数が進めば進むほど感じてしまう。
面白いドラマだ! と本当に思う! けれど肌に合わない! と言うアンビバレントな感情を「マイ・ディア・ミスター〜私のおじさん〜」に感じてしまっている。最後まで間違いなく面白く見るだろうがこの「面白いけど好きじゃない」感情は最後まで捨てきれないだろうと思う。
これは一体何なのか? 多分韓国の人が持つ微妙な感情とそれに伴う行動、細かくいえば感情による表情の変化みたいなものが自分にフィットしないと言うことなのだろうと感じている。
「面白いけど好きじゃない」名作だと思うけれど「好きになれない」感覚
単純化すると『脚本』は好きだが『演出』が合わない。それもこのドラマの演出家の問題じゃなく韓国の人が自然に発する【感情→行動】が自分は合わないと感じるのだ。
うちの妻は「冬ソナ」前からの韓流ドラマファンでこの「マイ・ディア・ミスター〜私のおじさん〜」も絶賛していて僕が「面白いけど好きじゃない」と言ったら烈火の如く怒られた。多くの韓国ドラマファンには珠玉の名作であることは間違いない! でも名作だとは思うけれど「好きになれない」感情は正直に告白したい。
では韓国ドラマは全部ダメかというと「イカゲーム」「地獄が呼んでいる」などのアクションとかパニックものは純粋に好きで「イカゲーム2」は心から楽しみにしている。
つまりは韓国の人特有の〝微妙な感情の揺れ動き〞が僕には肌に合わないと言うことになる。韓国ドラマファンには最大の魅力と言っていいその部分が僕には合わない! 食で言えば「納豆はほぼ日本中の人が好きだが関西人だけはダメ!」くらいな純粋な好みの問題だと思う。
考えてみるとこんな感覚はテレビしかなかった時代には考えられないことだ。テレビ局全部合わせたって1シーズンでドラマは10本くらい。その中で何が好きかを選ぶ時代から世界中の古今東西、時代も空間も超えた中から『今見る一本のドラマ』を選べる時代になったからこそこんな〝面白いけど好きじゃない〞なんてことが言える。
リメイクされた「ドラマ」が世界中に広がる時代に必要なコーディネート力とマッチング能力の重要性
さらにこんなことが起きている。Netflix韓国で作られた「梨泰院クラス」がテレ朝で「六本木クラス」としてリメイクされた。Netflix内で最近こう言う事例がたくさんあってスペイン発で世界中で大ヒットした「ペーパー・ハウス」が韓国でリメイクされて「ペーパー・ハウス・コリア」。これはかなり面白いと言われ次に見たいと思っている。
フォーマット販売自体は昔からあって例えば「マネーの虎」は世界45ヵ国でリメイクされているのだが、NetflixやDisney+などのグローバルプラットフォームが出てきてその情報の流通は数十倍にもなっていくことは間違いない。
つまりクリエーターにとっては素晴らしい環境が生まれつつあると言うことで、今「ゼロから1」を産むことがそれ作品自体が世界にいくことだけじゃなくて、リメイクされて世界中に広がる時代が既に始まっていると言うことだ。
さらに言えばこのリメイクの技術と目利きがとても重要になる。最初に言った『脚本』と『演出』のマッチング。実はこの脚本は韓国じゃなくてイギリス的演出をした方が世界に届くかもしれない!と目利きをする能力。今までのコンテンツ界では考えられなかったコーディネート力、マッチング能力が重要になってくる!
果たして「六本木クラス」は「梨泰院クラス」を超えているのか? いや超えなくては意味がない時代なのだ! 作り手、送り手そして受け手にとっても今までにはない面白い時代に突入している!
電波少年のリメイク! 世界のどこかで誰か目をつけてはくれないか?