デビューから14年
カンヌで主演男優賞を受賞
ケイレブ・ランドリー・ジョーンズは特異な個性を持つ男優だ。色が白くて、線が細く、気弱な青年に見える。やわらかい優しさや無邪気さも見えるが、内側には狂気を秘めていて、とにかく、その行動が予測できない。最新作『ニトラム/NITRAM』(21)では、彼のそんな個性が見事に開花し、カンヌ国際映画祭主演男優賞を受賞。デビュー作は『ノーカントリー』(07)だったので、登場から14年後、その実力が遂に大きな映画祭で認められた。
ケイレブ演じるニトラム(“シラミ野郎”の意味)は、27歳の青年で、定職はなく、両親と同居中。精神障害があり、薬も常用している。母親は彼が何かするたびに小言を言うが、父親はいつも彼をかばう。そんな彼に意外な出会いが訪れる。芝刈りのアルバイトを通じて、裕福な年上の女性と知り合い、やがては彼女の家で暮らすようになる。どこか性を超えた不思議な関係だが、一緒にいるとふたりは幸せそうだ。そして、彼女がニトラムの人生から消えた後、銃を手にとることに喜びを見出し、衝撃の事件に向かって突き進むことになる。
孤独な人物の内面を
自然体の演技で表現
映画のもとになっているのは、1996年にオーストラリアの観光地、タスマニアで起きたポート・アーサー事件である。無差別の銃乱射事件が起きて、35人の死者と15人の負傷者が出て、オーストラリアの歴史上、最悪の事件のひとつとなった。この映画は実行犯の青年の事件までの行動を描いているが、劇中には暴力描写はなく、主人公と両親との葛藤、女友達との関係などが淡々と描かれていくだけだ。しかし、それでいて、終始、ヒリヒリするような緊張感が漂い、画面から目を離すことができない。
ケイレブ自身はアメリカのテキサス州生まれなので、この映画のため、オーストラリア訛りの英語を習得しなくてはいけなかったが、本番ではオーストラリア出身の共演者(父親役)、アンソニー・ラパリアも「完璧」と絶賛するアクセントを身につけていた。ケイレブ自身はプロモーションのインタビュー(特典映像に収録)で「内面からこの役に近づこうとした。主人公には優しさも凶暴さもある。そんな役に監督と一緒に命を吹きこもうとした」と答える。初主演作『アンチヴァイラル』(12)では不可解なウィルスのせいで悪夢の世界をさまよう青年を演じて絶賛されたが、この頃から周囲に違和感の持っている役が得意だった。今回は普通の人間になることを望みつつも、けっしてそうなれない孤独な人物のいらだちや痛みを自然体の演技で表現して、役者としてさらに大きくなった。
多くの伸びしろに
今後も期待大
元女優だった年上の女性との不思議な関係もリアリティを出すのがむずかしいと思うが、彼女と一緒にいる時の主人公は穏やかで優しい顔を見せるので、その関係をこちらも受け入れることができる。特に英国の作曲家ギルバート&サリヴァンのオペラ「ミカド」の曲を一緒に歌う場面は印象的だ。ケイレブは狂気と無邪気さを交互に見せることで、人物の複雑な内面に近づこうとする。
東京国際映画祭で都市のジャンキー役の『神様なんかくそくらえ』(14)が上映された時、来日したケイレブを目撃したことがあるが、素顔はモデルのようにスタイリッシュで、きれいな顔をした青年だった。また、『スリー・ビルボード』(17)や『デッド・ドント・ダイ』(19)ではユーモラスで軽妙な演技も見せていた。現在、32歳の彼には、まだまだ、多くの伸びしろがありそうだ。
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ケイレブ・ランドリー・ジョーンズをはじめ各俳優の演技にじっくりと向き合いたい本作。Blu-ray版の映像特典として収録されたインタビューでは、監督やキャスト陣が作品のテーマやそれぞれの役についての想いを明かしている。作品視聴後にぜひチェックしてみてほしい。
映像特典(Blu-ray/計約34分):
劇場予告編、特報映像、メイキング映像、インタビュー映像(アンソニー・ラパリア、ジュディ・デイヴィス、エッシー・デイヴィス、ショーン・グラント、ニック・バッツィアス、ジャスティン・カーゼル、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)
映像特典(DVD/計約3分):劇場予告編、特報映像
発売元:セテラ・インターナショナル
販売元:ハピネット・メディアマーケティング
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