『秘密の森の、その向こう』
2022年9月23日(祝・金)ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー
© 2021 Lilies Films / France 3 Cinéma
配給:ギャガ
祖母が他界し、その悲しみに耐えかねた母が突然姿を消した日。8歳のネリーは、かつて母が遊んだ森を探索するうちに、自分と同じ年の少女と出会う。その少女は母の名前と同じマリオンと名乗り、ネリーは彼女の家に招かれる。そこはネリーの亡くなった祖母の家だった──
『燃ゆる女の肖像』で世界的な名声を得たセリーヌ・シアマ監督・脚本による最新作。ネリーとマリオンには、これが映画初出演となるジョセフィーヌ&ガブリエルのサンス姉妹が扮している。
セリーヌ・シアマ監督
1978年、フランス、ヴァル=ドワーズ生まれ。フランス国立映像音響芸術学院の脚本コースで学び、04年脚本家デビュー。07年に卒業制作を発展させた『水の中のつぼみ』がカンヌ国際映画祭「ある視点部門」に出品された。脚本で参加した『ぼくの名前はズッキーニ』(16)でセザール賞脚色賞受賞。そして19年の『燃ゆる女の肖像』がカンヌ国際映画祭脚本賞とクィア・パルム賞に輝き、アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた。
この映画は今こそ意味のあるものなので今すぐ作らなければと感じた
脚本はすぐに完成したのでしょうか?それともなかなか完成しませんでしたか?
「シンプルで分かりやすい物語だからこそ悩みました。とても優しい、そして鮮明な未来となって時々夢にも出てきたのです。そんなふうに慎重に作り上げた物語です。脚本を書き始めたのは、『燃ゆる女の肖像』の国際ツアーの終わり頃でした。フランスのロックダウンが終わる頃、執筆を再開しようとファイルをふたたび開いて、物語の最初のシーン(介護施設の入居者との別れのシーン)を見直したの。その時、この映画は今こそ意味があるものだと、早急に作らなければいけないと感じました。子供たちを描いているから、なおさらね。
近年、子供たちはたくさんの大きな危機と苦難に直面しています。政治家たちが子供たちに向けて演説することは絶対にないけれど、子供たちは世間の不満を聞き続けているの。私は、子供たちも輪に入れること、子供たちに物語を聞かせること、目を向けること、そして、子供たちと協力することが重要だと思います。」
一人の少女が子供の頃の自分の母親と出会うというアイデアについて教えてください。
「まるでこのアイデア自体に魔法の力があるかのように、掘り下げて熟考しました。新しいマトリックスについて考えているような感じで。あらゆる人の身に起き得るような状況にしたかったし、私自身の個人的でプライベートな解釈も入れ込みたかった。子供時代の親との出会いを想像するということは、多くの人が楽しめるし、自分自身に置き換えることができる。そして、親子の関係を見直すことにもなる。あり得ない存在との友情は、制限がないの。このアイデアを練っていくのは、本当に楽しかった。とても感動的で面白い物語になった。作品からこの熱意が伝わることを願っています。」
タイムトラベル的な要素もありますね。
「本作で重要な課題をめぐる旅をする場所は、未来でも過去でもない。共有する時間なの。本作では機械や乗り物も使わない。作品そのものがタイムマシンなの。正確に言うと、本作の編集ね。カットが登場人物たちをテレポートさせ、出会わせるの。不思議な映画を作るには、それが想像上の物語だったとしても精密でなければならない。経験はなかったのだけど、本作に遊び心を取り入れるにはスタジオでの撮影が理想的だと思っていた。スタジオ撮影という考えで、昔ながらの遊び心に満ちた映画製作、その不変的な手法への自信がより強まったの。映画は、ドアを通り抜けて入った箱の中で撮るべきっておかしな考えよね。でも、そう考えることで、遊び心を持つことができました。」
撮影現場でのセットなどへのこだわりもありましたか?
「可能であれば全てに手を加えることができるという機会に没頭しました。照明のスイッチにいたるまで、全部考えたのよ。この場合は、『私たちは』と言うべきね。だって、このセットを作るというすばらしい仕事は全てのスタッフによるものだから。私たちの会話の範囲は干渉といえるところまで及んで、撮影監督のクレア・マトンとは、カーペットや、窓のサイズ、映画の配色を考慮した壁紙まで議論しました。セットを作る仕事は魅力的よ。すべての方向性を決めることも含んでいるんだもの。例えば、廊下の距離は、トラッキングショットや登場人物のリズム感に関わってくる。床材を何にするかで足音も決まる。
部分的に、私の祖母の家をセットに取り入れました。例えば、この家はアパートと同じように転々と引っ越す人が住む家なの。それから私は、20世紀後半のフランスでよく見るようなインテリアにして、馴染みのある空間を作りたかったのです。
外観は、私が育った町で撮影しました。ここでも、私たちはたくさん手を加えました。真っ赤に染まった秋の森を撮影したかったから、押し葉を使ったの。子供の頃を過ごした森に大人たちが小屋を建てるのを見られるなんて、とても素晴らしい一週間でした。」
この映画の時代設定はいつ頃と限定できないように感じますね。
「2021年の子供だけではなくて、50年代や70年代、80年代に子供だった人にもこの映画に自己投影してほしいと思っているのよ。だから、数十年にわたる世代の人々に共通の時間感覚を持ってもらえるよう目指しました。この点において、衣装の方向性は明確でした。衣装については脚本を書いてる段階から、早々に考えていたの。1950年代から現代までのクラス写真を吟味して、各世代から2020年現在までの子供たちが着ている服の共通点を探しました。こうやって衣装を考えていくことによって、それまで亡霊のように付きまとわれていた、家の現在と過去の違いについても取り除くことができたの。映画の中では、時代を感じないのよ。」
子供の観客にも見てほしいと考えていましたか?
「方向性を見失った時はいつも、自分自身にこう問いかけました。『宮崎駿監督ならどうする?』と。私たちはいつでも、編集室でさえも子供の観客の好みに合わせて決めたの。でも、それは簡単なことではなかった。それは、最も過激で、詩的な近道を選んだということだったの。子供たちはまさに現代の風習をとおして芸術作品を見るから、私たちが認識しているような文化的背景やそれに伴うプレッシャーは持っていない。つまり、子供たちは新しいアイデアや物語に敏感なの。スタジオアニメ映画は完全にこのことを理解しているわ。『バイス・バーサ/ボクとパパの大逆転』の洗練された脚本や、『LEGO(R)ムービー』のサイケデリックでテンポのいい脚本を見れば、とても敏感で、新しいことを取り入れるのが早い子供たちの好みに合わせているのが分かると思います。」
子供だけでなく大人が見ても考えることが多い作品と思いますが。
「あらゆる世代に関係がある物語で共通の感動を与えことによって、人々を結びつける作品になるように作りました。2人のヒロインにとっての共通の遊び場のようにね。あらゆる世代を想定しているから、大人たちも自分の両親について考えるきっかけになるはず。本作は、世代や組織間の新しい流れをもたらそうとしているの。だからこそ、映画館の大画面でこの緻密な物語を流したかった。集団的で、肉体的な経験ができるはずですし、劇場を出る時、人々の互いを見る目が変わればと思います。」
主人公の2人の少女を演じた子役たちはどうやって決まったのですか。
「脚本を書いている時、不思議に思っていたの。『子供時代の母に出会っていたとしても、母は私の母のまま?母ではなく姉になる?母ではなく友達?それとも、その全てに当てはまる?』と。映画の核を語る上で、こういった疑問はめまいを引き起こすくらいの不安の種でした。それで、母と娘を姉妹が演じるといういうキャスティングを思いついたの。それから、キャスティングのクリステル・バラが出演する姉妹を募集して、ジョセフィーヌとガブリエル・サンス姉妹から申し込みがきて、私たちはすぐにコミュニケーションをとったの。姉妹は本作に感銘を受けて、この作品を一緒に作り上げたいと思ってくれていたし、姉妹の両親も撮影に同行することをいとわなかったの。
私は子供たちと撮影をする時はいつも、全てをセットの中で行った。リハーサルはせず、場当たり的に演出するというチャレンジをしたの。2人の才能と真剣さを信じてたからこその極端な行動でした。私は全く間違っていなかったわ。こういった演出には事前に大変な準備が不可欠よ。でも、子供たちの撮影時間はますます短くできるし、その分集中力も上がる。本番以外に使える時間はほとんどないのよ。」