登壇したのは音楽ライターで本作の字幕監修を務めた大鷹俊一、そして同じく音楽ライターとして活躍する粉川しの。場内にはデヴィッド・ボウイのファンたちが集い、彼らの熱気が作り出す特別な高揚感に包まれた中、トークイベントが始まった。
観客とともに鑑賞した大鷹は「IMAX で観るのは初めてですが、この作品が真価を発揮するのはこのシチュエーションなんだなとつくづく分かった」と力説。続けて「とにかく音響が素晴らしいのと、あとブレット・モーゲン監督が力を振り絞って集めた情報量と内容が素晴らしい」と、本作に対する率直な感想を語った。
対する粉川は「こんなにもドキュメンタリー的“じゃない”のかと驚いたと同時に、すごく納得がいった」と切り出す。「『デヴィッド・ボウイ・イズ』という展覧会がありましたが、それとコンセプトが似ていて、彼の人生を完結した物語として提示するのではなく、デヴィッド・ボウイ自体の音楽やビジョンの中にとりあえず招き入れる。各々に解釈させるというのが、すごくボウイ的で感動した」と話した。
本作はデヴィッド・ボウイの死後、デヴィッド・ボウイ財団が保有する膨大な映像にアクセスすることを許可されたブレット・モーゲン監督が、2 年の歳月をかけて厳選したフッテージを元に構成されている。そして「財団公認」というお墨付きも得た初のドキュメンタリー作品となっているが、そもそもボウイの中にヒストリカルなものを作ろうというアイデアはあったと大鷹は解説する。しかし、いわゆるドキュメンタリー的なものにはしたくなかったそうで「そういう意味で本作はボウイの構想に限りなく近いんじゃないか」と太鼓判を押す。貴重な映像もふんだんに使用されているが、大鷹は特に注目した映像として、ジギー・スターダストの最終公演にジェフ・ベックが登場するところを挙げ、粉川はハンザ・スタジオの内部映像とデヴィッド・ボウイのアジア放浪を挙げた。
イベントの終盤には MC から「デヴィッド・ボウイをどのような存在だと捉えているか」という大きな質問が飛び出す。これに対し大鷹は「この作品もテーマにしているようにチェンジズ、“変化”ですよね。それを最も分かりやすい形で、しかも完成された形で作り上げたアーティストは他にいない気がする」と回答。粉川は「今まさに大鷹さんが仰ったように変化の人なんですが、と同時に私の中では常に、ボウイだったらどうするのかと考えさせるアーティスト。変化し続けているんだけど、どこか自分の中で基準になっている、北極星みたいな人」と語った。
最後に大鷹から「ここ数年のアーカイブ作品、そしてもちろんこのフィルムもそうなんですけど、僕にはどう考えてもデヴィッド・ボウイが天空からプロデュースしているとしか思えない(笑)。今日も皆既月食だそうで、そういった神がかった世界、本作でも神というテーマが出てきますけど、神がかった感じがいまだに降り注いできている。稀有なアーティストと僕らは同時代を生きているんだなと非常に面白いですね」という言葉がありイベントは締めくくられた。
『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』
来年春、TOHO シネマズ シャンテ、渋谷シネクイントほかで全国公開
監督・脚本・編集・製作:ブレット・モーゲン
音楽:トニー・ヴィスコンティ
出演:デヴィッド・ボウイ
配給:パルコ ユニバーサル映画
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