先週3日に公開され、大きな話題となっている映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』。本作の日本版ポスターデザインやパンフレットなどを手掛けたグラフィックデザイナーの大島依提亜さんに、『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』の魅力を語っていただきました。(取材・文/奥村百恵)

「マルチバースのエヴリン全88種類の写真のコマ抜きをパンフレットに入れました」(大島依提亜)

画像1: 「マルチバースのエヴリン全88種類の写真のコマ抜きをパンフレットに入れました」(大島依提亜)

ーー大島さんと言えば『ミッドサマー』や『カモン カモン』などA24作品のビジュアルデザインを多く手掛けてらっしゃる印象がありますが、『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(以下、エブエブ)のポスターデザインなどのオファーがきたときはどう思いましたか?

「昨年、設立10周年のA24にまつわるトークイベントに登壇させていただいたのですが、せっかくなのでイベント前に日本で観られるA24作品を全部鑑賞したんです。配給作品含めて100本ぐらいだったかな。それをギャガさんが知っていて、エブエブのビジュアルデザインを僕にオファーしてくれたと聞きました。視聴マラソン大変だったけど報われてよかった(笑)」

ーーエブエブの監督を務めたのはダニエルズ(ダニエル・クワンとダニエル・シャイナートによるコンビ)ですが、二人とも個性の強い作品を撮っていますよね。

「主人公が死体を使って無人島からの脱出を試みる様を描いたダニエルズ監督作『スイス・アーミー・マン』と、ダニエル・シャイナートが撮った小さな田舎町で起きた殺人事件の顛末を描いた『ディック・ロングはなぜ死んだのか?』ですね。この2作をご覧になった方はおそらく同じ気持ちだと思いますが、ダニエルズの最新作がアカデミー賞最多ノミネートと聞いたときは“本気?”と思いました(笑)。ダニエルズは過去にDJ Snake & Lil Jonの『Turn Down For What』という、とんでもなくお下劣かつヘンテコなミュージックビデオを撮っているのですが、コメント欄に外国人の方が『この人(MVで踊りまくっているダニエル・クワンのこと)がアカデミー賞に最多ノミネートされる美しい世界…』と書いていて笑っちゃいました(笑)。当時から表現したい世界観がはっきりしていて、それは『スイス・アーミー・マン』からエブエブいたるまで、ブレてないのがすごいなと思います」

ーーエブエブをご覧になってみていかがでしたか?

「一見奇抜な作風ながら、どこか懐かしさもあって、それは何だろうと思ったのですが、たとえば、ステーヴン・スピルバーグが製作総指揮を務めた『ニューヨーク東8番街の奇跡』やジョー・ダンテ監督の『グレムリン』あたりの80年代のブロックバスター映画の雰囲気をどことなく感じたせいなのかなと。ダニエルズがそれを意識して作ったのかどうかはわからないですけど、特に『ニューヨーク東8番街の奇跡』は、ニューヨークの安アパートを追い出されそうな様々な人種の住人たちがいきなり宇宙的展開に巻き込まれ、しかし立ち退き問題も同時に抱えながら宇宙的存在と対峙するというお話で、そういう意味でもエブエブの設定とも重なりますよね」

ーー確かに、エブエブは主人公エヴリンと一緒に国税庁を訪れた旦那ウェイモンドが、別の宇宙のウェイモンドに突然乗り移られた瞬間から驚きの展開がスタートしますしね。

画像2: 「マルチバースのエヴリン全88種類の写真のコマ抜きをパンフレットに入れました」(大島依提亜)

「そうなんですよね。色々な映画の影響が取り沙汰されている本作ですが、ダニエルズが『ニューヨーク東8番街の奇跡』を観ていてもおかしくないのかなと思いました。あと、本作のプロデューサーを務めたのが『アベンジャーズ』シリーズの『インフィニティ・ウォー』や『エンドゲーム』を監督したルッソ兄弟なのもおもしろいですよね。ルッソ兄弟と言えばアクション映画の印象がありますが、エブエブのアクションシーンは作品のトーンを保ったまま撮っているところがいいなと思って。やろうと思えば、アクションシーンを今時のアクション演出のプロダクションに委ねることだってきたかもしれないのにそれをやらずに、巧みなアクションシーンよりも映画全体の統一感を大切にしている気がする。だからこそMCUやハリウッド映画に対するアンチテーゼにもなっていると感じましたね」

ーー監督の個性を大事にしているということですよね。

「そう思います。マルチバースの描き方も今日的な視覚効果におもねることなくコマ撮りという極めてアナログな手法を使っていて、結果的にそれが多くの人たちに新鮮に受け取られているのも興味深いです。もちろん、撮り方や見せ方だけではなく役者陣の芝居も本当に素晴らしいので、アカデミー賞でノミネート最多なのは納得いきます。一方で、その手法からか、視覚効果賞からは外れているのが逆に好感度大です(笑)」

ーー(笑)。アカデミー賞が楽しみですね。ところで、エブエブのパンフレットではそのコマ抜きが載っているとか。 

画像3: 「マルチバースのエヴリン全88種類の写真のコマ抜きをパンフレットに入れました」(大島依提亜)

「マルチバースのエヴリン全88種類の写真のコマ抜きを入れてます。一瞬しか映らなかったりするので、パンフレットでじっくり確認していただけるかなと思って。ちなみに初回限定の表紙は目が動く仕様になっているので、気になる方は早めに買いに行かれたほうがいいかもしれません」

ーーちなみに、いま大島さんの目の前に置かれているのはA24のオフィシャルショップで販売されているHotDogFingerGlovesですね。劇中で別の宇宙のエヴリンの指がふにゃふにゃになっていたシーンが印象的でした(笑)。

「試写の帰りに速攻でポチりました(笑)。他にも目玉がついた石やぎょろ目のセット、エヴリンのピンバッチも売ってましたね。A24が北米配給権を獲得した短編ストップモーションアニメ『Marcel The Shell With Shoes On(原題)』の主人公マルセル(体長1インチの貝殻)のフィギュアも可愛かったので購入しました。余談ですが、この短編はエブエブで犬を連れてコインランドリーに来る女性ビッグ・ノーズを演じたジェニー・スレイトがディーン・フライシャー・キャンプ監督と共同で脚本を書いていて、マルセルの声もジェニーが担当しているんです。日本でも公開してほしいですね。それにしても本当にA24は幅広い作品が揃っていますよね。この後も日本版で自分がかかわる作品も何本かありますが、いずれも傑作揃いで。エブエブがきっかけでA24が気になった方は他の作品もぜひ追っていただけたらと思います」

今回、エブエブ愛をタップリと語ってくれた大島さん。近代映画社から発売される「A24」ムック本では、大島さんが関わった作品のデザインの制作秘話を語ってくださっているので、そちらもぜひチェックしてみてください!!

Profile

大島依提亜(おおしま いであ)
栃木県生まれ。映画のグラフィックを中心に、展覧会や書籍のデザインを手がける。映画『パターソン』『万引き家族』『ミッドサマー』『ちょっと思い出しただけ』『カモン カモン』など、展覧会「谷川俊太郎展」「ムーミン展」「ヨシタケシンスケ展かもしれない」、書籍「鳥たち/よしもとばなな」「小箱/小川洋子」、KIRINJIのアートワークなど多方面で活躍中。

画像: A24作品のデザインを多く手掛ける
グラフィックデザイナーの大島依提亜が『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』の魅力を語る。

『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』全国公開中
監督:ダニエルズ 
出演:ミシェル・ヨー、キー・ホイ・クァン
配給:ギャガ
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