成田陽子
ロサンジェルス在住。ハリウッドのスターたちをインタビューし続けて40年。これまで数知れないセレブと直に会ってきたベテラン映画ジャーナリスト。本誌特別通信員としてハリウッド外国人映画記者協会に在籍。
14年前に共演したB・グリーソンとの再共演を心待ちにしていた
アイルランドの島で繰り広げられる友情悲喜劇『イニシェリン島の精霊』(2022)の人は良いもののちょっと頭の鈍い男を熱演して現在ゴールデングローブ賞を始めあらゆる映画賞をかっさらっているコリン・ファレル。
「アイルランドの西海岸は実に綺麗で、おとぎ話のように精霊やら妖精などがいつでも出て来そうなマジカルな場所なんだよ。14年前に『ヒットマンズ・レクイエム』(2008、日本はDVD発売)で共演してクレイジーに気が合ったブレンダン・グリーソンと又一緒に仕事をしたいと願っていて、やっと素晴らしい物語が仕上がって僕たちはジャンプして喜んだものだった。」
「絞首台的ユーモア(絶体絶命的状況の時に出てくるユーモア=ふたりともアイルランド生まれだからそういうグロテスクなユーモアを好む、という意味)満載の場面が続くが二人の極端な感情の交感がよく描かれているだろう。同郷だから以心伝心での一緒の仕事は本当に楽しかった。思う存分に故郷の訛りで喋りあったね。友情が壊れてゆく悲しさを描いているだけに、僕ら自身の連帯意識は更に強まったと思うね。ロケで僕は恋人のような存在のジェニーというロバに蹴飛ばされるわ、ブレンダンの愛犬役の犬に噛まれるわ、馬車に乗ったら馬が暴れるわ、で動物にさんざん暴力を振るまわれたのも今となっては懐かしい思い出だ」
話しながら、よく顔に手を当てておでこに触ったり、鼻のあたりを掻いたりする落ち着きの無さは相変わらず。
コリンの左手の小指にはいつも嵌めているアイルランドのフレンドシップ・リングが見える。7年前に脚本がスタートし、コリンとブレンダンは最初の1、2ページを読んだだけでコンセプトを理解して、オーケーサインを送ったと言う。
18歳の時、なんと殺人事件の容疑者に間違われたことも?
初めてコリンに会ったのは『マイノリティ・リポート』(2002)だった。今から21年前の彼はワイルドで、自由奔放、アイリッシュのバッドボーイとして注目されていた。インタビューの時はかたわらのマネージャーが引きつりそうな顔をしても平気で、ダブリンでのならず者振りを喜んで話し、タバコをぷかぷか吸い、時間が過ぎてもパブ風会話を続けてはイタズラっ子の表情を浮かべていたのを思い出す。
ハリウッドに新鮮な風を吹き込んだコリンは大モテで、エリザベス・テイラー(!)からアンジェリーナ・ジョリー、ブリトニー・スピアーズ、デミ・ムーアなどと交際して、選り好みのない女性観を見せつけてはマスコミに追いかけられていた。
「『E.T.』(1982)を6歳のときに見てものすごく興奮して画面の中に飛び込んで一緒に自転車に乗ってE.T.のそばにずっと居たいと真面目に思ったんだよ。エリオットを演じたヘンリー・トーマスみたいになりたいと思って、それが俳優を目指した第一歩なんだ」
とある時白状していたが、演劇学校ではすぐに忍耐心が切れて中退、ダブリンを駆けずり回る不良少年の生活を送ったりして、22歳の時にTVシリーズのレギュラーの役を得てそれからはずんずんと役が舞い込んでハリウッドのスターに。
気楽で、楽しいことが大好き。パーティーなどに来ると誰とでも飲み交わし、かなりリスキーなジョークを連発してげたげた笑ったりするコリンの周囲にはいつも人が群がっていた。
18歳の時にオーストラリアのシドニーに旅行中、何と殺人容疑で捕まってしまったのである。容疑者の顔にそっくりだったために不運にも逮捕されたのだが、いかにも彼らしいエピソードで、彼が話すと事実以上にエキサイティングに脚色されていたのも懐かしい思い出だ。
2003年にジェームズ・パドレッグ(『イニシェリン島…』での役の名前とほとんど同じ)という息子が生まれたがアンジェルマン症候群という難病にかかっていると発表、あまりに女性とのスキャンダルが多かったために、今はプライバシーについてはノーコメントを通している。
まもなく「ペンギン」というTVシリーズで、『THE BATMAN-ザ・バットマン-』(2022)で有名になった悪漢ペンギンの役を続けて演じるのだが、顔も体もヘビーメークで別人のよう。楽しみでもあり、ちょっと怖くもあるコリンになりそうだ。