エドワード・ヤンの最大の野心作にして早すぎた傑作が4Kで鮮やかに蘇る――。
ハリウッド・リポーターが『ヤンヤン 夏の想い出』を21世紀の映画ベストワンに選出し、現在第一線で活躍する映画作家たちが口々にその影響力の大きさを語るなど、没後15年以上経っても、その存在感が増し続けるエドワード・ヤン。映画史上に屹立する『牯嶺街少年殺人事件』(1991)の直後1994年に発表された『エドワード・ヤンの恋愛時代』(配給:ビターズ・エンド)は、前作と全く異なるアプローチで現代の台北で生きている男女を描いた、エドワード・ヤン最大の野心作と呼ぶべき青春群像劇の傑作。
舞台は、急速な西洋化と経済発展を遂げる1990年代前半の台北。モーリーが経営する会社の状況は良くなく、彼女と婚約者アキンとの仲もうまくいっていない。親友チチは、モーリーの会社で働いているが、モーリーの仕事ぶりに振り回され、恋人ミンとの関係も雲行きが怪しい。モーリーとチチの二人を主軸としつつ、同級生・恋人・姉妹・同僚など10人の男女の人間関係を二日半という凝縮された時間のなかで描いた本作は、急速な成長を遂げている大都市で生きることで、目的を見失っていた登場人物たちが、自らの求めるものを探してもがき、そして見つけ出していく様が描かれる。彼らの姿は、情報の海の中で自らの求めるものを見失いがちな、現代に生きる人々の姿と見事に重なり、初公開当時に正当な評価を受けたとは言い難い『エドワード・ヤンの恋愛時代』が、いかに時代を先取りしていたか、2023年8月、明らかになる――。
今回解禁となったポスタービジュアルは、モーリーの家のプールサイドで語りあうモーリーとチチ、互いに無いものを補い合う親友同士の二人の姿に、「私たちの求めるものはどこにあるの?」というキャッチコピーが重なる。また、同じく解禁となる予告編では、昨年の東京国際映画祭で本作が上映された際にエドワード・ヤンを「最も敬愛する映画作家の一人」と語った濱口竜介監督が本作に寄せた絶賛コメントも紹介されている。「エドワード・ヤンは『どうしたら私たちはこの社会で、他者とともに生きていけるのか』という問いを決して投げ出さなかった」と、本作を愛してやまないその理由とともに、「彼の映画にいつまでも敬意と愛を抱かずにおれない」と惜しみない賛辞をおくっている。
■濱口竜介監督コメント
必然的に人間性を失わせるこの社会で、人はいったいどう生きていくのか。
『恋愛時代』は希望を描き出す。深い絶望の後にしか訪れない希望を。
エドワード・ヤンは「どうしたら私たちはこの社会で、他者とともに生きていけるのか」という問いを決して投げ出さなかった。
彼の映画にいつまでも敬意と愛を抱かずにおれないのは、そのためだ。
――濱口竜介(映画監督)
© Kailidoscope Pictures