2022年カンヌ国際映画祭 国際映画批評家連盟賞受賞『青いカフタンの仕立て屋』が6月16日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかにて全国公開。大ヒットを記録した『モロッコ、彼女たちの朝』に続けて本作を手掛けたマリヤム・トゥザニ監督にインタビュー!
画像: 『青いカフタンの仕立て屋』

『青いカフタンの仕立て屋』

『モロッコ、彼女たちの朝』(19)のマリヤム・トゥザニ監督が最新作で描いたのは伝統衣装カフタンの仕立屋を営むある夫婦。母から娘へと受け継がれる大切なドレスをミシンを使わず、すべてを手仕事で仕上げる職人の夫ハリムは、伝統を守る仕事を愛しながら、自分自身は伝統からはじかれた存在と苦悩する。夫を誰よりも理解し支えてきた妻ミナは、病に侵され余命わずか。そこに若い職人のユーセフが現れ、3人は青いカフタン作りを通じて絆を深めていく。そして刻一刻とミナの最期の時が迫るなか、夫婦は“ある決断”をするー。 愛したい人を愛し自分らしく生きるーこの美しい愛の物語は、世界中を涙で包み込み、2022年カンヌ国際映画祭国際映画批評家連盟賞を受賞。さらに、米アカデミー賞®モロッコ代表として国際長編映画賞のショートリストにも選出され、高い評価を受けた。 主演は『灼熱の魂』『モロッコ、彼女たちの朝』のルブナ・アザバル。

伝統衣装カフタンは、娘が母から着物を譲り受けたり、成人や晴れやかな日に着る日本でいう着物のような存在。マリヤム・トゥザニ監督も母親から受け継いだそうで、その時の気持ちに加え、伝統の美しさやそれを引き継いでいくこと、そこに込めたキャラクター作りなどを聞いた。

——カフタンの仕立屋を物語の舞台にした理由を教えてください。

カフタンは大人の女性の象徴で、少女時代の私にとって憧れでした。成人して初めて母から受け継いだカフタンをまとった時、これは次の世代へと物語を繋ぐ、貴重な品だと気づきました。1枚のカフタンが完成するまでに職人は数ヶ月を費やします。そうして完成したカフタンからは、着る人の心に職人の魂と完成までの物語が届くのです。この物語には手間暇かけて作られるカフタンがふさわしいと思いました。

残念ながらモロッコではカフタン作りは衰退の一途を辿っています。技術の取得に長い時間がかかるのも原因のひとつでしょう。私が思うに、伝統工芸とは自分が何者かを教えてくれるDNAの一部であり、次世代に伝えるべき宝物です。速さが優先される現代社会ですが、私は伝統の手仕事を守る人々を見つめ、尊敬の念を作品で表現したかった。

——カフタンをお母様から受け継がれた時の気持ちはどうでしたか?

カフタンは必ずしも母親から受け継がれるというわけではなく、その家族の関係性にもよります。私は、母が結婚式やお祝い事で、とても美しい手縫いのカフタンを身につけているのを見ていました。幼い頃は母がカフタンを着てドレスアップし、美しく着こなすのを見るたびに心から感動し、早く大人になってこのカフタンをいつか着る日を夢見てたくらいでした。

母は他にもカフタンをたくさん持っていましたが、特にそのカフタンは特別で、一枚に施された装飾に完全に魅了されました。母も、職人がどれくらい時間をかけてどのくらいの思い入れを持って作ったかを説明してくれました。だから本当にこのカフタンに魅了されていて、大きくなる中で、何度も試着をして、大きすぎたり長すぎたりしていましたが、ある日、ぴったりフィットする日がやってきて、そんな日に母がプレゼントしてくれました。

その瞬間は私の人生の中でも最も美しい瞬間の一つでした。カフタンだけではなく母の人生や思い出の一部を身につけているような気がしたのをよく覚えています。伝統を継承していくことの重要性を感じました。ただ買って他のものと交換できるような「物」ではない、エモーショナルな価値を持っています。そこには特別なものがあって、そのものと関係するたくさんの私たちの感情がそこには宿っているからだと思います。そしてそれを身につけたとき、カフタンを作った方、その方がそのカフタンに費やした時間を感じ、その職人さんの魂が生地に宿っているようだと思いました。

——モロッコ国内にこのお店のような手仕事で作る仕立て屋はもう少ないのでしょうか。

その数年後、私は手縫いのカフタン作りという技術が衰退しつつあり、多くの仕立て屋さんが機械にとって代わって、職を変えてしまっているということを知りました。例えば機械で作ったものに対して5倍くらいの値段になっていて、しかも並べて比べると全く同じように見えるし裏返さないと縫い目は見えない。だから多くの人は気にしない。私はそれらの価値は同じではないと思います。私たちは消費社会の中に生きています。ものに対してのエモーショナルな価値がなくなってしまっている、そのことが私の心を動かしました。だからカフタンに限らず色々なものの伝統の美しさや引き継いでいけるものを引き継いでいきたいと思いました。

また手仕事というものには、私はとても感動するものを感じていて、前作『モロッコ、彼女たちの朝』でもそうですが、作る人と作られるものの間には特に個人的なものが生まれると思っています。でも私たちは逆の方向に向かっています。だから私にとって、カフタンを描くことで美しい技や伝統について触れることがとても重要でしたし、またカフタンが制作されるにつれて、ハリムのキャラクターや彼と彼が作るカフタンとの絆、その複雑さについて触れることが重要でした。カフタン作りは1枚の生地から始まって、少しずつ複雑に精巧になっていく。考えてみればキャラクターたちもそうですよね。自分たちの感情に導かれて、関係性の複雑さをどんどん発見していくわけですから。

『青いカフタンの仕立て屋』
6月16日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国公開
© Les Films du Nouveau Monde - Ali n’ Productions - Velvet Films – Snowglobe
配給:ロングライド

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