6月に公開されたばかりの最新映画『ザ・フラッシュ』を本誌おなじみ杉山すぴ豊さんにレビューを交えて解説してもらいました。あれって何!? ・・・そんな疑問が解決するかもしれません!(文・杉山すぴ豊/デジタル編集・スクリーン編集部)

本記事では作品の内容に大きく触れています。ネタバレを避けたい方はご注意を!

ポイント1:単なるヒーロー映画で終わっていない!

画像: 壮大な物語かつ青年の成長譚に

壮大な物語かつ青年の成長譚に

ヒーロー映画として最高でタイムトラベル映画として面白い、それが『ザ・フラッシュ』です。冒頭はフラッシュそしてベン・アフレック版バットマンがタッグを組み、そこにワンダーウーマンが駆けつけるという胸アツの展開。スーパーアクションの連続で、ベン版バットマンは過去一のかっこよさ! フラッシュならではの高速を活かした赤ちゃん救出シーンはヒーロー映画史に残る名場面。正直ここだけで料金分の元をとれます(笑)。

物語の中盤はフラッシュが時間を遡り、過去を変えてしまう。その結果、別の時間軸にいる“自分”と出会うはめとなる。ここはフラッシュ/バリー役のエズラ・ミラーが一人二役を演じる『バック・トゥ・ザ・フューチャー』的なSFコメディ。

後半は地球侵略を企てるゾッドをフラッシュ、もう一人のフラッシュ、スーパーガール、そしてマイケル・キートン版バットマンが迎え撃つ大バトルになりますが、ここで本作は多くの観客の予想を裏切る展開となる。さらに厳しい試練がバリーを襲う。その時バリーが下す決断に、涙します。

そう、本作が単なるヒーロー映画に終わっていないのがポイント。監督のアンディ・ムスキエティは『IT/イット“それ”が見えたら、終わり。』二部作で、尋常ではない経験を通じて成長していく若者たちを描きましたが、本作『ザ・フラッシュ』も特異な状況の中で人として成長していくバリーの物語なのです。

ポイント2:元ネタのコミックとは物語のここが違う!

画像: 本作から新たなDC映画世界へ!

本作から新たなDC映画世界へ!

この映画の原作となっているのは「フラッシュ・ポイント」と呼ばれるDCコミックの名作。子どもの頃、母親を何者かに殺されたフラッシュことバリーは超光速で過去に遡り、母親を救う。その結果、“新たな現実(歴史)”が生まれてしまう。大まかな流れは映画と一緒ですが、この後コミックの方で起こる事件は映画版とは異なります。

まず、バットマンがブルース・ウェインではない。息子ブルースを強盗に殺された父トーマス・ウェインがバットマンなのです。さらにワンダーウーマン率いるアマゾン族とアクアマンが統治するアトランティス軍が全面戦争に突入しようとしており、まさに地球滅亡の危機。

この世界を元に戻すためバリーは “母親を助けに行こうと過去を遡るするバリー(つまり自分自身)”を止めるため再び時空を駆け抜けます。こうしてバリーはなんとか元の世界に戻すのですが、それでも完全には修復できず、結局新たな世界が生まれてしまうのです。

それまでDCは「NEW52」という世界観でヒーローたちの冒険を語っていましたが、この「フラッシュ・ポイント」事件をきっかけに「DCリバース」という新たな世界観が誕生します。そう「フラッシュ・ポイント」はそれまでのDCの世界観をリセットしたのです。

映画『ザ・フラッシュ』も『マン・オブ・スティール』(2013)から始まるDC映画路線を一旦終わらせるための作品と言われており、本作を境に新たなDC映画世界=DCユニバースが構築される予定です。

現実では叶わなかった! 夢が実現したカメオ

本作のクライマックスはマルチバースの崩壊と融合。マルチバース毎にその世界なりのバットマンやスーパーマンがいるわけであり、歴代のDC映画、DCドラマで描かれてきた世界は、この『ザ・フラッシュ』の世界とマルチバースの関係という解釈です。それ故、1950年代のスーパーマンのTVドラマ、1960年代のバットマンのTVドラマがこのマルチバース・シーンで触れられます。

そうした中、ファンを狂喜乱舞させるのは次の2つのシーン(世界)でしょう。まずクリストファー・リーヴ版スーパーマンとヘレン・スレイター演じるスーパーガールの2ショット。両者は設定的には同じ世界観ですが、2人が共演する映画は結局作られなかったのです。従ってこの2人が並んでいるシーンは感涙。

さらに巨大な蜘蛛のような怪物と戦うロン毛のスーパーマン。なんとニコラス・ケイジですよね! これはティム・バートン監督×ニコラス・ケイジ出演で製作されるはずだった『スーパーマン・リブズ』を元にしたネタです。スクリーン・テストやコスチュームまで作られながら製作中止となってしまいました。

ティム・バートン監督は本作のクライマックスに、ブレイニアックというヴィランが作ったスパイダー・ロボットとスーパーマンとのバトルを考えていたようです。それがなんと、こういう形で再現されたのです。この『スーパーマン・リブズ』企画について知っているファンが観たら、絶対「おおお!」と声をあげるでしょう。

小ネタ満載! キーワード解説

ファルコーネ

冒頭のアクション・シーンでバットマンが追っているのはファルコーネの息子。ファルコーネはバットマン世界に登場する暗黒街のボスでロバート・パティンソンの『THE BATMAN-ザ・バットマン-』(2022)にも登場、ジョン・タトゥーロが演じていた。

アーサー・カリー

アクアマンの本名。アクアマンは灯台守のトムとアトランティスの女王アトランナの間の子。バリーはトムに電話をしてアーサーの行方を聞くが、新世界のトムはアトランナと結婚せずアーサーもペット犬の名前だった。

マーサ

マイケル・キートン版ブルースと2人のバリーとの乱闘の中でバリーが口にする言葉。マーサはブルースの母の名でスーパーマンの地球人の母の名も同じ。『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』(2016)においてスーパーマンがマーサの名を出したことで2人の戦いは止まった。バリーはマーサの名を出すことでブルースを落ち着かせようとした。

エリック・ストルツ

1980年代に活躍した若手俳優。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985)の主役はもともと彼が演じるはずだったが急遽マイケル・J・フォックスに交代。従ってこの世界での『BTTF』の主演がエリックというのは、映画ファンにとってニヤリとするネタ。

画像: 1980年代当時のエリック・ストルツ photo by Getty Images

1980年代当時のエリック・ストルツ

photo by Getty Images

スピードフォース

フラッシュことバリーは肉体的に高速で走れるような筋肉をもっているわけではなく、スピードフォースと呼ばれる異次元のエネルギー体とアクセスすることでスーパースピードで動くことが出来る。

薬品と落雷

バリーはラボにいた時の落雷事故で、大量の薬品と電撃を同時に浴びそこ結果スピードフォースとアクセス出来る体になった。なおフラッシュ誕生の秘密が映画で描かれるのは今回が初。

「I’m Batman.」

『バットマン』(1989)において、マイケル・キートン演じるバットマンが犯罪者にむかって放ったセリフ。これは犯罪者の間に自身の存在を知らしめるための行為だった。アメコミ映画史に残る名セリフの1つ。

画像: 本作でも名ゼリフを再び披露

本作でも名ゼリフを再び披露

ポザーノフ

バリーとベン・アフレック版ブルースとの会話の中に出てくる地名。映画『ジャスティス・リーグ』(2017)でチームの面々がステッペンウルフと最後に戦った場所である。 

カル=エル

スーパーマンのクリプトン星での本名。バリーの元の世界ではカルが地球人名クラーク・ケントを名乗りスーパーマンとなるが、この新世界ではカルが地球に到着せず。従ってクラークもスーパーマンも存在しない。

胸の「S」は希望

スーパーマン、スーパーガールのクリプトン星での家紋はS字に似ているがこれは希望を意味する。バリーは元の世界でスーパーマンからこのことを聞いており、カーラがスーツを纏った際その意味を知っていることを示唆。

画像: カーラのスーツにも「S」が刻まれている

カーラのスーツにも「S」が刻まれている

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『ザ・フラッシュ』
公開中
2023/アメリカ/2時間24分/配給:ワーナー・ブラザース映画
監督:アンディ・ムスキエティ
出演:エズラ・ミラー、ベン・アフレック、マイケル・キートン、サッシャ・カジェ、マイケル・シャノン

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