成田陽子
ロサンジェルス在住。ハリウッドのスターたちをインタビューし続けて40年。これまで数知れないセレブと直に会ってきたベテラン映画ジャーナリスト。本誌特別通信員としてハリウッド外国人映画記者協会に在籍。
苦手な映画はホラーとスーパーヒーローものだが、バットマンは例外?
新作『探偵マーロウ』(2022)ではハードボイルドのアメリカの探偵を演じているリーアム・ニーソンは何よりも仕事が大好きなのだと言う。
「朝起きて、今日もベッドから出なくては、という理由があるのが嬉しいね。大好きな俳優業を維持しているというラッキーな気持ちが僕のエンジンなんだ」
ハードワークを好むのは2009年に最愛の奥方、ナターシャ・リチャードソンをスキー事故で亡くしてからだろう。これ以後13年間で50本近くもの映画やテレビに出演している上に、その多くがリベンジものだというのもワーカホリック状態にして、演技で怒りを発散しては寂しさを忘れようとしているに違いない。
「今回は同じアイルランドの同胞、ニール・ジョーダンが監督だったからということと、その昔、ハンフリー・ボガートとロバート・ミッチャムが演じたマーロウを自分なりに仕上げたかった。共演のジェシカ・ラングとは『ロブ・ロイ/ロマンに生きた男』(1995)以来、27年目の再会とは、お互いによく頑張って来たと祝福し合ったよ」
とおなじみの苦笑を浮かべる。
苦手な映画は「ホラー」と「スーパーヒーロー」ものだそうだ。例外は「バットマン」だが『バットマン ビギンズ』(2005)はクリストファー・ノーラン監督と仕事をしたくて参加したと言う。
アイルランドの詩的な寂しさとそれに耐える一匹狼の頑固さを何も言わずに体中から放出してしまう。元ボクシングのチャンピオンだった為の曲がった鼻も逞しさを強調、その上に押し殺した低い声が、大人の風雪を響かせて、独特のセックスアピールを持ち、巨木を思わせる大男のために「セコイア・オブ・セックス」などと呼ばれたこともあった。
北アイルランド時代、11歳で少年ボクシングのチャンピオンに
初めて会ったのは『スピリット/傷だらけの栄光』(1990、日本はビデオ公開)というボクシング映画の時で当時の彼は38歳、ヘレン・ミレン(1981~1985)、ブルック・シールズ、ジェニファー・グレイ、バーブラ・ストライサンド、ジュリア・ロバーツ(1988~1990)といった女優たちとのロマンス話で知られ、アイルランドのプレイボーイといわれた存在の時。
「9歳の時からボクシングを始め、11歳で北アイルランドのチャンピオンになったのだよ。15歳の時、英国人の少年にめった打ちされ、ほとんど気を失いながらも最後まで試合を続け、自分が勝ったと勘違いした程だった。リングから降りる時に失神して、それ以来ボクシングは止めた。」
「体育の教師になろうと大学に入ったがコースが面白くなく、憂鬱になって1年で止めた。ギネスビール工場のフォークリフト操作のアルバイトなどしている時にひょんな事でオーディションに行き、体が大きいという理由で採用されてね。たった3分の舞台だったが次の役も決まり、演技熱がついて、ダブリンのアビー劇場の劇団員となった。6フィート4インチの身長と曲がった鼻が僕の俳優としての材料になったというわけだ」
と懐かしそうに話してくれた。生まれたのは北アイルランドのバリーメナで両親共にブルーカラーのカソリック信者の家庭に育っている。
次に会ったのは『シンドラーのリスト』(1993)で千人以上のユダヤ人を助けたオスカー・シンドラーを熱演してオスカー賞の候補となった時。スティーヴン・スピルバーグ監督が舞台のリーアムを見て、絶対にこの俳優でなければならない!と決めたという歴史的な役でもあった。
リーアムは大きな体をかがめて、「ボクシング小僧が“ミスター映画”のスピルバーグ監督の作品に出るなど、夢以上にあり得ない話だと思ったね!」とソフトな声で、未だに信じられないという表情を浮かべていたのが思い出される。