カバー画像:Photo by Jon Reynoso/WireImage
自分も観客も楽しめる好きな映画を自分で作りたいという思い
『トップガン』(1986年)の続編『トップガン マーヴェリック』(2022年)を36年ぶりに完成させて、世界を席巻したトム・クルーズ。その勢いは衰えることなく、今年は人気シリーズ7作目『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』でさらなる旋風を巻き起こす! 度肝を抜く超ハード・アクションの数々は、過去作同様にスタントなしでトム本人がチャレンジしているのは当然。いやはや、60歳(今年7月3日に61歳に)にしてこの超人的身体能力と変わらぬルックスには驚くばかりだ。
トム・クルーズと初めて会ったのは、『トップガン』の大ヒットから6年後。2番目の妻ニコール・キッドマン同伴で、『遙かなる大地へ』(1992年)を携えての初来日時だった。いまでも印象に残っているのは、眩しいほどのスターオーラと人懐っこい笑顔、そして映画についての熱心な語り口。『遙かなる大地へ』は、『デイズ・オブ・サンダー』(1990年)で初共演したニコールの演技に惚れ込んだトムが、「彼女の素晴らしい才能を存分に発揮できる物語を探した結果」ということで、完成までのプロセスや自身で出した撮影アイディアなどを細部にわたって説明。出演者というよりまるで“監督orプロデューサー?”と思うほどに詳しく語っていた。翌年には自身の製作会社クルーズ/ワグナー・プロダクションズを設立していたから、単にキャスティングされた俳優として出演するだけではなく、“自分も観客も楽しめる好きな映画を、自分で作りたい”という思いがあったのだろう。
そして、それを実現させたのが初めて製作を担当した『ミッション:インポッシブル』(1996年)だった。スリラー&アクションに定評のあった巨匠ブライアン・デ・パルマ監督とタッグを組み、1966年からの人気テレビドラマシリーズ「スパイ大作戦」を最新映像と監督お得意の“緊張感あふれる長回し”を駆使して、スピード感あふれるスタイリッシュなスパイアクションにリメイク。
なにしろ「ボクは緊張を伴うスポーツはなんでも好き。クリアした時の快感がたまらない。アドレナリンジャンキーかもね(笑)」と言うトムが“自分が一番興奮する”アクションをスタントなしで演じてくれるのだから観客も興奮MAX! しかもシリーズごとにジョン・ウーやJ・J・エイブラムスなど、その時代で活躍する活きのいい監督を起用し、斬新なアイディアと超絶アクションを披露し続けてきた。となれば「ミッション〜」シリーズが27年にもわたってアクション映画の頂上に君臨しているのも、納得でしょ。
平均睡眠時間は4〜5時間でスタジオに居るか外で撮影しているか
ちなみに、1992年の初対面から「ミッション:インポッシブル」シリーズ公開ごとに数回会っている。ある時は「映画に関することをやっていないと落ち着かないんだ。平均睡眠時間は4〜5時間。あとは自宅にある編集&録音スタジオに居るか、外で撮影しているかだね」。また『ミッション:インポッシブル3』(2006年)の時は、ロサンゼルスにある製作会社の一室で、インタビュー中に「いまサントラ曲が出来上がってきたけど、聴いてみる?」と言うなり、CDをセット。流れるメロディを口ずさみつつ、イントロやサビを詳しく解説してくれた。
とにかく、会うたびに新作のすべてを把握していることに驚かされてきた。そんなストイックな完璧主義者=トムのプロデュース能力はハンパじゃない。なによりスゴイのは、作品のクオリティの高さや面白さは言わずもがなだが、「ミッション:インポッシブル」シリーズも『トップガン マーヴェリック』も、興行収入の記録を大きく塗り替えるほどの結果を残していること。映画業界への貢献は、計り知れません!
若き日は輝く美貌ばかりが評価されてしまったけれど、じつは演技派でもある。『ハスラー2』(1986年)ではポール・ニューマン、『レインマン』(1988年)ではダスティン・ホフマンを相手に見事な“受けの演技”を披露して、二人の名優にアカデミー賞主演男優賞をもたらしている。最近の『トップガン マーヴェリック』でも、後進を鍛え上げる教官でありながらも“恋するイケおじ”をロマンチックに演じて、硬軟取り混ぜた名演を披露したばかりだ。
かつて『トップガン』に起用された頃から「演技はもちろん、映画のすべてを学びたい」と願い、多彩な現場に積極的に参加してきたと言う。マーティン・スコセッシ、オリヴァー・ストーン、ニール・ジョーダン、スタンリー・キューブリックなど、多くの巨匠たちとタッグを組んで吸収した知識と技に磨きをかけて、さらに進化。観客が本当に楽しめるエンターテイメント大作を作り続けるトムの“成功要因は?”と問われれば、やはり“変わらぬ映画への愛と情熱”でしかないのだ。
個人的イチオシ! トム・クルーズの見逃せない名作3
『レインマン』(1988)
絶縁状態だった父の訃報により、莫大な遺産を存在さえ知らなかった兄が相続することを知ったチャーリー。なんとか遺産を手に入れようとするが……。弟役のトムは、サヴァン症候群の兄の思いを代弁するために膨大なセリフを喋り続ける圧倒的な演技で物語をリード。兄役のダスティン・ホフマンにアカデミー賞主演男優賞をもたらした。
『ア・フュー・グッドメン』(1992)
キューバにある米軍基地で海兵隊員が殺された殺人事件。軍事法廷で、その被疑者の弁護人に任命された海軍法務部所属の法務官キャフィ中尉は驚くべき真相にたどり着く……。トムは、基地に君臨する司令官をど迫力で演じたジャック・ニコルソンと堂々と渡り合うキャフィ中尉を熱演。その軍服姿の凛々しいこと!
『M:I-2』(2000年)
凄腕諜報部員イーサン・ハントの任務は、元諜報部員であったテロリストに強奪された殺人ウイルスとその解毒剤の奪還だが…。二丁拳銃や鳩が登場するなど、「男たちの挽歌」シリーズで名を馳せたジョン・ウー監督らしさが随所に散りばめられてアクション映画の醍醐味満載。冒頭のロッククライミングのシーンは、いまや伝説に。