『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(2022)『ザ・ホエール』(2022)以降も注目作を続々と送り出すA24。この夏も最新作が続々と上陸! まずは、A24でも人気の高いホラーラインの話題作からご紹介します!(文・SYO/デジタル編集・スクリーン編集部)

エッジーな作品選びで知られるA24。その人気ラインの一つが、ホラー。『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』(2017)『ミッドサマー』(2019)『ライトハウス』(2019)『LAMB ラム』(2021)といったホラーテイストの話題作を安定して配給してきたA24が、初となるシリーズ映画化に乗り出した。それがタイ・ウェスト監督×ミア・ゴス主演によるホラー「X エックス」シリーズだ。

全3部作構成となっており、1970年代を舞台にした第1作『X エックス』(2022)に登場した最狂シリアルキラー、パールの過去(1910年代)を第2作『Pearl パール』で描き、主人公マキシーンの未来(1980年代)を現在制作中の第3作『MaXXXine(原題)』で描くというプロジェクト。

パールとマキシーンの2役をゴスが演じており、スターに憧れる若きパールがある出来事を通してシリアルキラーに変貌していく『Pearl パール』では各方面から「米アカデミー賞主演女優賞にノミネートされるべき」という絶賛評が相次いだ。

なおゴスは本作で脚本と製作総指揮も務める大車輪の活躍をみせ、パールとマキシーンが鏡映しの存在にみえるような深みのある人物造形にも大きく貢献。コテコテのエロ×ゴアなホラーに見せかけて、時代(戦争・疫病)や環境(親・家)に縛られた女性たちの抑圧と解放というテーマに切り込んだウェスト監督の手腕も評判を呼び、作品を観賞したマーティン・スコセッシ監督が激賞を寄せたことが記憶に新しい。

フィルム、デジタル、VHSといった映画の形態の進化が物語に連動し、『悪魔のいけにえ』ほか名作へのオマージュをふんだんに盛り込んでいるのも本シリーズの特徴。

『Pearl パール』では『オズの魔法使』『メリー・ポピンズ』などを引用しつつダークなテイストを加え、重層的な物語へと昇華。華やかさ・狂気・憐憫が交じり合ったミュージカルシーンには、心を強くかき乱されることだろう。

また、『Pearl パール』を踏まえて『X エックス』を再観賞すると、年老いたパールが凶行に走る姿や極限の夫婦愛に受ける印象が大きく変わるはず。仕掛けに満ちた“沼構造”を楽しんでいただきたい。

\プレイバック/
『X エックス』

画像: この老婆の若かりし時代を描くのが『Pearl パール』!

この老婆の若かりし時代を描くのが『Pearl パール』!

『X エックス』3部作の第1作となるスプラッターホラー。舞台は1970年代の米・テキサス。ポルノ映画で一獲千金を狙い、とある農場に撮影にやってきた女優マキシーン(ミア・ゴス)ら3組のカップル。しかしその農場のオーナーは史上最高齢の殺人夫婦だった……。異様な雰囲気を放つ老婆パールは、闇夜に紛れて若者たちを次々と血祭りにあげていく。

画像: 夏を彩るA24最新作『Pearl パール』夢見る少女が最狂シリアルキラーへ!

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発売元:ハピネットファントム・スタジオ
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『Pearl パール』あらすじ

1918年のアメリカ・テキサス。ショービジネスの世界を夢見るパール(ミア・ゴス)は、厳格な母親に監視され、病気で動けない父親や動物たちの世話をする農場生活に飽き飽きしていた。いつか抜け出したいと思うものの、戦争で出征中の夫も待たねばならない。そんなある日、パールは地方巡業のオーディション開催の知らせを聞き、狂喜するが……。

登場人物

パール (ミア・ゴス)

画像: パール (ミア・ゴス)

農家の一人娘。若くして結婚した夫がいるが、戦争で離ればなれに。スターになり、外の世界に出ていく日を待ち望んでいる。

COMMENT
ミア・ゴス

「私と監督が考えていた重要な要素の1つは、マキシーンとパールは同⼀の⼥性ではなく、同⼀のキャラクターだということ。2⼈は⼈⽣経験から⾒れば正反対で、それぞれの選択と勇気、もしくは勇気の⽋如が彼⼥たちを形成している。

パールは、マキシーンの恐怖の化⾝だと思う。彼⼥には⼦供のような無邪気さがあり、ダンスはパールにとって空想への架け橋なの。それが⾃分を取り巻く困難な状況への対処法だから」

パールの母・ルース (タンディ・ライト)

画像: パールの母・ルース (タンディ・ライト)

ドイツからの移民。戦時中ということもあり、肩身の狭い思いをしている。反面、自尊心から他者に頼りたがらず、娘につらく当たる。

パールの父 (マシュー・サンダーランド)

画像: パールの父 (マシュー・サンダーランド)

重い病気にかかり四肢はおろか表情筋も動かすことがかなわず、車いす生活を送る。娘のパールに時々危険な目に遭わされるが……。

映写技師(デヴィッド・コレンスウェット)

画像: 映写技師(デヴィッド・コレンスウェット)

町の映画館で働く男性。映画に魅せられたパールに声をかけ、仲良くなる。彼女の才能を見出し、応援してくれる存在。

パールの義妹・ミッツィー(エマ・ジェンキンス=プーロ)

画像: パールの義妹・ミッツィー(エマ・ジェンキンス=プーロ)

パールの夫ハワードの妹。社交的なブロンド美女で、夫の帰りを待つ義姉のことを気にかけている。パールと共にオーディションに参加する。

注目ポイント

1:更に満開なミア・ゴスの魅力

画像: 1:更に満開なミア・ゴスの魅力

『ハイ・ライフ』(2018)や『サスペリア』(2018)等の怪作で異彩を放ってきた彼女が、人生を変えたいと願う田舎娘の純粋さと紙一重の痛々しさを、見事に表現。突発的に一線を越えてしまう危うさ、引きつった笑顔を浮かべ続けるシーンなど、鮮烈な印象を残す。

2:抑圧される女性… 社会的なテーマも

画像: 2:抑圧される女性… 社会的なテーマも

己の意見を主張することが許されず、母親に「女性/子どもはこうあるべき」という“役割”を押し付けられるパール。思うままに生きられない抑圧される女性…社会的なテーマも窮屈さが彼女の狂気を育む苗床となり、やがて爆発してしまう展開が闇深い。

3:『X エックス』とのリンクも注目

画像: 3:『X エックス』とのリンクも注目

親に支配されて生きる状況や、「映画で人生を変える」期待など、パールとマキシーンには共通点が多数。舞台となる農場も同じで、前作で若者たちを血祭りにあげたスキやクワといった農具、大活躍したワニも再登場!

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『Pearl パール』
2023年7月7日(金)公開
2022/アメリカ/1時間42分/配給:ハピネットファントム・スタジオ
監督:タイ・ウェスト
出演:ミア・ゴス、デヴィッド・コレンスウェット、タンディ・ライト、マシュー・サンダーランド、エマ・ジェンキンス=プーロ

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