度々繰り返した⾃⼰破壊的な⾏動、そして42歳での拳銃⾃殺
1938年にフランスに⽣まれ、60年代前後にジャン=リュック・ゴダールやジャック・リヴェット、エリック・ロメールらカイエ・デュ・シネマの作家たちと知り合い映画界へ、<ポスト・ヌーヴェル・ヴァーグ>の最重要⼈物の⼀⼈と⾔われる映画監督、ジャン・ユスターシュ。度々繰り返した⾃⼰破壊的な⾏動、そして42歳での拳銃⾃殺と、死の影が常につきまとうその⼈⽣から「呪われた作家」とも呼ばれ、まだまだ多くの謎に包まれている彼の全貌。しかし、2022年に4Kデジタルリマスター版で甦った伝説的な『ママと娼婦』は昨年からパリをはじめ世界各地で上映され、現在はニューヨークで⼤ヒット中。そのスキャンダラスで痛切なまでの魅⼒は、今なお多くの観客に衝撃を与え続けている。
8月18日(⾦)よりヒューマントラストシネマ渋⾕ほかにて開催される【ジャン・ユスターシュ映画祭】(配給:マーメイドフィルム/コピアポア・フィルム)では、今や映画史上の傑作の⼀本として不動の地位を築いた『ママと娼婦』はじめ、彼のもう⼀つの⻑編作『ぼくの⼩さな恋⼈たち』、ロメールやゴダールに称賛された初期の代表作『わるい仲間』(中編)、『ママと娼婦』と同じくジャン=ピエール・レオーが主演を務めた『サンタクロースの眼は⻘い』(中編)を上映。彗星のように現れ、疾⾵のごとく去った作家の愛や死、現実や虚構、そして⼈⽣そのものへ注ぐ眼差しはいかなるものだったのか。ジャン・ユスターシュという男、その作品の魅⼒を解き明かす機会を楽しみにしたい。
◆上映作品◆
『わるい仲間』Les Mauvaises fréquentations
1963年/フランス/⽩⿊/39分
出演:アリスティド・ドメニコ、ダニエル・バール、ドミニク・ジェール
ユスターシュの妻ジャネット・ドゥロにふりかかった災難に基づいて構想された作品。主⼈公はタフガイ気取りで品位を⽋く、どこか不快感を催させる若者⼆⼈組。彼らは街をぶらぶらするうちに知り合った⼥性を⼝説こうとするが、なびいてこないので腹いせに彼⼥の財布を盗む。ヌーヴェル・ヴァーグ映画的な街なかでのゲリラ撮影を活⽤しながらも、ここでのパリは⽣きづらい寒々しく退屈な街へと変貌しており、登場⼈物の「リアルな」描出ともども新世代作家の台頭を印象づける。
『サンタクロースの眼は⻘い』 Le Père Noël a les yeux bleus
1966年/フランス/⽩⿊/47分
出演:ジャン゠ピエール・レオー、ジェラール・ジメルマン、ルネ・ジルソン
『ママと娼婦』『ぼくの⼩さな恋⼈たち』と併せて、ユスターシュの⾃伝的三部作を形成する⼀本。ゴダール提供による『男性・⼥性』(66)の未使⽤フィルムを使って撮られた。貧しい⻘年ダニエルは、モテるためのダッフルコート欲しさにサンタクロースの扮装をして街⾓に⽴ち、写真撮影のモデルを務める仕事を引き受ける。やがて彼は、変装した⽅がナンパに好都合であることに気づくが…定職のない若者の冴えない⽇々を描きつつ、やがて彼の滑稽な⽇常が悲哀へと、期待が幻滅へと転調する語り⼝が絶妙。
『ママと娼婦』 La Maman et la putain
1973年/フランス/⽩⿊/219分
出演:ベルナデット・ラフォン、ジャン゠ピエール・レオー、フランソワーズ・ルブラン
ユスターシュにとって最初の⻑編映画である本作は、四時間近い破格の上映時間を通じて、やはり作家の私的経験に基づいた物語を綴っていく。その物語とは、72年のパリを舞台に、五⽉⾰命の記憶を引きずる無職の若者アレクサンドルと彼の年上の恋⼈マリー、前者がカフェで知り合った性に奔放な20 代の看護師ヴェロニカの奇妙な三⾓関係を描いたもの。完成作はカンヌ国際映画祭でグランプリを獲得。男⼥の性的関係が台詞も含めて⾚裸々に描かれた本作はスキャンダルをも巻き起こしたが、今や映画史上の傑作の⼀本として不動の地位を築いている。
『ぼくの⼩さな恋⼈たち』 Mes petites amoureuses
1974年/フランス/カラー/123分
出演:マルタン・ローブ、イングリット・カーフェン、ジャクリーヌ・デュフレンヌ
⼆本⽬にして最後の⻑編監督作。題名はランボーの同名の詩から採られている。ペサックで⼼優しい祖⺟と⼆⼈暮らしをしていた13歳の少年ダニエルが、やがて⺟が継⽗と住むナルボンヌに移住し、経済事情から学業を諦めて原付⾃転⾞修理店で⾒習いとなる物語には、ユスターシュの少年時代の記憶が多分に投影された。作家によれば、「⾃分の映画はどれも最初から社会ののけ者の中に⾝を置く」⼀⽅、本作だけは「ある⼦どもの、普通の⽣活から脱落者の境遇への移⾏」を描いている。
© Les Films du Losange