あまり知られていない助産所という場所。そこでは⼀⼈の助産師が、医療機関と連携し、妊娠、出産、産後と⼦育ての始まりまで、⼀貫して⺟⼦をサポートしている。健診のたびに顔を会わせ、お腹にふれ、何気ない会話を交わす。妊婦と助産師はささやかな時間を積み重ね、信頼関係を築き、命が⽣まれようとする“その時”をともに待つ。
初めてのお産に挑む⼈、予定⽇を過ぎても⽣まれる気配のない⼈、⾃宅での出産を希望する⼈、コロナ禍に病院での⽴ち合い出産が叶わず転院してきた⼈。都内にある⼆つの助産所を舞台に4⼈の⼥性のお産を撮影したのは、本作が初監督作品となる吉⽥⼣⽇。第⼀⼦を病院で、第⼆⼦を助産所で出産した経験から、助産師の仕事とその世界をもっと知りたいと本作の制作を決意した。
この映画で描かれるのは助産所や⾃宅での⾃然分娩。しかし、⼤切なのは分娩場所や⽅法を問わず、命を産み、育てようとする⼥性のそばに信頼できる誰かがいる、ということ。近年、さまざまな理由によりお産の取り扱いをやめる助産所が増えている。本作は社会が多様化し、選択肢がひろがる⼀⽅で、失われつつある“命の⾵景”をみつめた4年間の記録。
この度、『1%の⾵景』に寄せられたコメントは次のとおり。
⾓⽥光代 作家
いのちを⾝ごもり、この世界に迎えることは、なんという⼤仕事なのだろう。
妊娠出産はあたりまえのことではない、だからそれぞれが、どうかそれぞれに⾒合った⽅法で、しあわせにその⼤仕事に向き合ってほしい̶̶監督と、助産婦さんたちの、そんな声が聞こえてきた。
⽣⽅美久 脚本家
学⽣時代に助産所で実習をしたとき、そこでお産をされたお⺟さんが⾔っていた。
「陣痛が始まって不安な気持ちで助産所へ⾏ったけど、助産師さんの姿を⽬にして ”もう⼤丈夫” って思えたんです」。そうして⽣まれた⾚ちゃんを⼤事に抱えながら朗らかに笑っていた。
何か助⾔をしたわけでも、⼿を差し伸べたわけでもない。ただ姿が⾒えただけでも安⼼感を与える存在。
「お産を助ける」とは、そういうことなのかもしれません。
⻘柳⽂⼦ モデル・俳優
⾃分が選んだお産が、たった 1%だということに驚きました。
お灸を楽しみにしながら助産院に通った⽇々と、夫と娘と⼿を取りながらの出産、まだ⾃分と繋がっている⾚ちゃんに触れた感覚。障⼦の向こうから聞こえるまな板の⾳、畳の部屋で⾚ちゃんと過ごした時間、あの⽇のぽかぽかとした光まで鮮明に覚えています。
ここに映し出される親⼦と同じように "⾃分の⼒で⾚ちゃんを産んで この⼿で取り上げた" その体験が、"⾃分の⽣き⽅は選び取れる" という⾃信に、"地に⾜をつけて⽣きる" という実感に⾒事なまでに繋がりました。
お産という、⽣きるうちそう何度とあることのない奇跡を、より主体的で、動物的で⽣命⼒溢れるものであれたことが、今の⾃分を強くしています。
こんな選択肢を誰もが持ち続けられますように。
⼩野美由紀 作家
孤⽴出産や、産後うつといった問題が社会を取り巻き、お産がどんどん「個」ではなく「孤」になりつつある時代において、「個」である妊婦に寄り添い、受け⽌め、⽣命の揺蕩(たゆた)うさまをただそばで⾒つめていてくれる、その存在がどれだけ必要なことか。そのことを訴える⼈が、社会にどれだけいるだろうか。吉⽥⼣⽇監督は間違いなく良い仕事をした。
瀧波ユカリ 漫画家
「私ね待つことが好きなの。待って待って待って…待った結果が “命" だからね、いい仕事でしょ?」
――⼈を待たせてはいけないと思って⽣きてきた私は、助産師さんのこの⾔葉に泣きそうになった。分娩は⼗⼈⼗⾊ではあるけれど、どうかすべての妊婦さんと⾚ちゃんが、あたたかくその時を待ってもらえますように。この映画を観終わった今、祈るような気持ちでそう思う。
東直⼦ 歌⼈・作家
待つ、という⾔葉の意味の深さと重さとおだやかさが沁みた。
出産は特別なことだけれど、普通の⽣活の延⻑線上にあることなんだと初めて気付くことができた気がする。おみそ汁を啜って、おにぎりを⾷べて、空を⾒上げて、そのときを待つ。
⼦どもに寄り添うように産婦さんに寄り添う助産師さんは、お⺟さんを育ててくれる。
⽣まれて、⽣きて、そばにいる。なんて当たり前で、なんて希有なことだろう。
和⽥明⽇⾹ 料理家・⾷育インストラクター
命をかけて産む⺟と、命をもらって⽣まれてくる⾚ちゃん、その全てを抱きとめる助産院のみなさん。あったかいけど、やっぱり壮絶。あんなこと 3 回もやったのわたし?!って、よくやったなぁ、って、時を超えて⾃分を褒め称えたくなりました。誇らしい気持ちにさせてくれて、嬉しかった。わたしまでケアされてしまいました。
『1%の風景』
11⽉11⽇(⼟)よりポレポレ東中野ほか全国順次ロードショー
配給:リガード
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