世界映画史が誇る孤高の映画作家ドライヤーの《特集第2弾》
常に独創的で革新的な作品を生み出し、ジャン=リュック・ゴダールやフランソワ・トリュフォーなど世界の巨匠たちから、ギレルモ・デル・トロ、ロバート・エガース(『ライトハウス』)ら現代の先鋭たちまで多大なる影響を与え、国や世代を超えて今なお敬愛されているデンマーク生まれの映画作家カール・テオドア・ドライヤー。79年の生涯で長編14作品を発表したドライヤーは、人間、とくに女性の心の本質をフィルムで見つめ続け、モノクロームの世界を巧みに操り、新たな映画芸術の可能性を示し続けた。
今回の特集上映は、2021年に開催され好評を博した特集「奇跡の映画 カール・テオドア・ドライヤー セレクション」の第二弾。前回は、デジタルレストア素材での劇場上映が初めてということもあり、往年のファンから、初めてドライヤー作品を観るような若い世代まで、幅広い層の観客がこぞって劇場に駆けつけた。
好評を受け開催が決まった今回の第二弾では、芸術家の愛と孤独、そして死を耽美的に描いたサイレント時代の名作『ミカエル』、ユーモアとリアリズムが融合したホームドラマで、フランスをはじめ世界で大ヒットした『あるじ』、そしてドライヤー初のサウンド映画であり、美しき幻惑の傑作ホラー『吸血鬼』の3作が新たに加わり、前回上映された『裁かるゝジャンヌ』、『怒りの日』、『奇跡』、『ゲアトルーズ』の4作とあわせて全7作品のラインナップとなった。新たに加わる3作は、デジタルレストア素材からDCPを制作しており、一般劇場での公開は初めてとなる。
解禁となった予告編は、今回新たに加わった『ミカエル』、『あるじ』、『吸血鬼』の3作品を中心に、映像表現のアプローチに多様な顔を持つドライヤー作品の魅力を紹介。「私の唯一の願望は、平板で退屈な現実の向こうに、もう一つの想像力による世界があることを提示することだ」という、ドライヤー自身の言葉で締めくくられている。ポスタービジュアルは、『あるじ』より、フランセン夫妻とマッス婆さんの3人を捉えたカットを使用。モノクロの美しさが際立つビジュアルが完成した。
カール・テオドア・ドライヤー Carl Theodor Dreyer
1889年2月3日、コペンハーゲンでスウェーデン人の母のもとに私生児として生まれる。経済的理由から養子に出され学校卒業後は通信電話会社勤務を経てジャーナリストとして活動、手掛けた映画評が大手映画会社の目に留まったことから脚本執筆を開始。1919年に『裁判長』で監督デビュー、デンマーク・スウェーデン・ドイツ・ノルウェーと様々な国で制作を続け『あるじ』(25)のフランスでの大ヒットが『裁かるゝジャンヌ』制作へと繋がる。しばしば困難に見舞われながらも、『奇跡』がヴェネチア国際映画祭の金獅子賞を受賞。切望していた「ナザレのキリスト」映画化実現を目前に控えた1968年3月20日に息を引き取る。享年79。
上映作品(製作年順)
『ミカエル』 Mikaël
監督・脚本:カール・テオドア・ドライヤー 原作:ヘアマン・バング 撮影:カール・フロイント、ルドルフ・マテ 舞台美術:フーゴー・ヘーリング
出演:ベンヤミン・クリステンセン、ヴァルター・シュレザーク
1924年/ドイツ/モノクロ/スタンダード/ステレオ/95分
(c) 2016 Friedrich-Wilhelm-Murnau-Stiftung
著名な画家のクロード・ゾレは、画家志望の青年ミカエルを養子に迎え、二人で豪邸に住んでいた。パーティーで出会ったザミコフ侯爵夫人の肖像画を引き受けるゾレだったが、彼女はミカエルを誘惑し、ミカエルもその美貌に魅せられてしまい…。芸術家の孤独とミカエルへの愛、そして死を、耽美的に描いたサイレント時代の傑作。劇場での正式公開は今回が初となる。
『あるじ』 Du skal ære din hustru
監督・美術:カール・テオドア・ドライヤー 脚本:カール・テオドア・ドライヤー、スヴェン・リンドム 原作:スヴェン・リンドム「暴君の失墜」
撮影:ゲオー・スネーフォート 出演:ヨハンネス・マイヤー、アストリズ・ホルム
1925年/デンマーク/モノクロ/スタンダード/ステレオ/107分
(c) Danish Film Institute
フランセン家の主人ヴィクトルは、家の中で暴君のように振る舞い、家事や育児で働きづめの妻イダに対して不平不満ばかり。そんなヴィクトルの態度を見かねた手伝いのマッス婆さんは、イダを実家に帰らせることに。妻のいない家に戻ったヴィクトルは…。母国デンマークで撮ったユーモアとリアリズムが融合したホームドラマ。フランスなど世界で大ヒットとなった。
『裁かるゝジャンヌ』 La Passion de Jeanne d'Arc
監督・脚本・編集:カール・テオドア・ドライヤー 歴史考証:ピエール・シャンピオン 撮影:ルドルフ・マテ
出演:ルネ・ファルコネッティ、アントナン・アルトー
1928年/フランス/モノクロ/スタンダード/ステレオ/97分
(c) 1928 Gaumont
ジャンヌ・ダルクは百年戦争で祖国の地を解放に導くが、敵国で異端審問を受け司教からひどい尋問を受ける。自ら火刑に処される道を選び処刑台へと向かっていくジャンヌの姿を捉えた、無声映画の金字塔的作品。[本特集では2015年にゴーモン社によってデジタル修復された本編素材を使用。伴奏音楽はオルガン奏者のカロル・モサコフスキの作曲で、リヨン国立管弦楽団のコンサートホールのオルガンを用いて演奏・録音された。]
『吸血鬼』 Vampyr
監督:カール・テオドア・ドライヤー 脚本:カール・テオドア・ドライヤー、クリステン・ユル 撮影:ルドルフ・マテ 音楽:ヴォルフガング・ツェラー
出演:ジュリアン・ウェスト(ニコラ・ドゥ・グンツブルグ)、モーリス・シュッツ
1931年/フランス=ドイツ/モノクロ/スタンダード/ドイツ語/ステレオ/74分
(c) Danish Film Institute
悪魔や吸血鬼の研究に没頭する青年アラン・グレイ。パリ郊外の村を訪れた彼は、奇妙な老人から託された小包に導かれるように、とある古城にたどり着く。そこで老人が殺されるのを目撃し…。そぎ落とされた台詞、数々の撮影トリック、そして緻密に重ねられた音響が、緊張感のある恐怖を作り出す。これは幻なのか、現実なのか。映画史上屈指の美しい悪夢体験を。
『怒りの日』 Vredens dag
監督・脚本:カール・テオドア・ドライヤー 原作:ハンス・ヴィアス=イェンセン 撮影:カール・アンダソン 音楽:ポール・シアベック
出演:リスベト・モーヴィン、トーキル・ローセ
1943年/デンマーク/モノクロ/スタンダード/デンマーク語/モノラル/97分
(c) Danish Film Institute
<1974年ヴェネチア国際映画祭 審査員特別表彰>
中世ノルウェーの村で牧師アプサロンと若き後妻アンネの夫婦は平穏に暮らしていた。しかし、前妻との一人息子マーチンが帰郷するとアンネと親密な関係に。そんな折アプサロンが急死し、アンネが魔女として死に至らしめたと告発を受けてしまう…。陰影を巧みに使ったモノクロームの映像美で、魔女狩りが横行する時代の複雑に絡み合う関係性を映した衝撃作。
『奇跡』 Ordet
監督・脚本:カール・テオドア・ドライヤー 原作:カイ・ムンク「御言葉」 撮影:ヘニング・ベンツセン 舞台美術:エーリック・オース
出演:ヘンリック・マルベア、ビアギッテ・フェザースピル
1954年/デンマーク/モノクロ/スタンダード/デンマーク語/モノラル/126分
(c) Danish Film Institute
<1955年ヴェネチア国際映画祭 金獅子賞|1956年ゴールデングローブ賞 最優秀外国語映画賞>
ユトランド半島に農場を営むボーオン一家が暮らしていた。長男の妻で妊婦であるインガーはお産が上手くいかず帰らぬ人に。家族が悲嘆に暮れる中、自らをキリストだと信じ精神的に不安定な次男ヨハンネスが失踪、しかし突如正気を取り戻しインガーの葬儀に現れる。カイ・ムンクの戯曲「御言葉」を原作に、演劇的目線で家族の葛藤と信仰の真髄を問う傑作。
『ゲアトルーズ』 Gertrud
監督・脚本:カール・テオドア・ドライヤー 原作:ヤルマール・セーデルベルイ 舞台美術:カイ・ラーシュ 衣装:ベーリット・ニュキェア
出演:ニーナ・ペンス・ローゼ、ベント・ローテ
1964年/デンマーク/モノクロ/ヴィスタ/デンマーク語/モノラル/118分
(c) Danish Film Institute
<1965年ヴェネチア国際映画祭 国際映画批評家連盟賞>
弁護士の妻であるゲアトルーズは夫との結婚生活に不満を抱き、若き作曲家エアランとも恋愛関係にある。ある日、彼女の元恋人であり著名な詩人ガブリエルが帰国し祝賀会が催され、ゲアトルーズはエアランの伴奏で歌唱するが卒倒してしまう。愛を探し求め続けたゲアトルーズの姿を完璧な様式美の画面におさめ会話劇に徹したドライヤー遺作にして集大成的作品。
配給:ザジフィルムズ 協力:シネマクガフィン、IVC