本作は、家族3人で幸せに暮らしていたアントワーヌが、テロ発生から2週間の出来事を綴った世界的ベストセラー『ぼくは君たちを憎まないことにした』の映画化である。最愛の人を予想もしないタイミングで失った時、その事実をどう受け入れ、次の行動に出るのか。
誰とも悲しみを共有できない苦しみと、これから続く育児への不安をはねのけるように、アントワーヌは手紙を書き始めた。妻の命を奪ったテロリストへの手紙は、息子と二人でも「今まで通りの生活を続ける」との決意表明であり、亡き妻への誓いのメッセージ。一晩で20万人以上がシェアし、新聞の一面を飾ったアントワーヌの「憎しみを贈らない」詩的な宣言は、動揺するパリの人々をクールダウンさせ、テロに屈しない団結力を芽生えさせていく。
パリ中心部にあるコンサートホールのバタクラン。アメリカのバンド、イーグルス・オブ・ザ・デスメタルのライブ中に3人の男たちが1500人の観客に銃を乱射し、立てこもった。少し前には、パリ郊外のスタジアムで行われていたフランス対ドイツのサッカー親善試合や周辺のレストランで過激派組織「ISIL」の戦闘員が自爆テロを起こしていた。バタクランには、アントワーヌの妻、エレーヌと友人がいた。安否確認すらままならないカオスの中で、2日後に判明したのは、友人は生き延び、エレーヌは犠牲となった受け入れがたい事実だった。
原作が世界的ベストセラーとなり、アントワーヌには世界中から多くの実写化のオファーが寄せられていた。そんな中でアントワーヌ本人が映画化を任せたのは、マラソンに挑戦する老人たちをほのぼのと描くコメディ『陽だまりハウスでマラソンを』(13)のドイツ人監督キリアン・リートホーフ。監督は「私たちのアプローチと熱意に好意を抱いたのと、事件から少し距離があるドイツ人であることが決め手になったようだ。」と振り返る。おばに進められて原作を読み、アントワーヌと同じ年頃の娘を持つ監督は「感動したと同時に、もし、同じことが自分の身に起きたら……と不安に駆られた。家族がテロリストに命を奪われるなんて考えただけでも恐怖なのに、そのことが頭から離れなくなった。」と明かす。
「詩的で洗練されている」と原作の印象を語る監督は、その良さを生かすため「忠実に映画化することにした。アントワーヌの心理描写で必要だと思われる箇所だけ劇的な効果を加えたり、心の移り変わりを際立たせるために、家族との関わりをフィクションとして追加している。」と、あくまでアントワーヌをヒーローとしては描かない演出で、人間の弱さと強さを浮き彫りにしつつも、心に響く感動の物語へと仕上げてみせた。
監督は「私たちの愛は、究極的にはこの世界に存在する憎しみより強いということだ。たとえ、憎しみが私たちに大きな傷を負わせることがあってもだ。」と、本作に込めた強いメッセージを明かしている。
今回そんな本作を一足先に鑑賞した著名人からも感動のコメントが到着した。佐々木俊尚(作家・ジャーナリスト)の「「憎まない」というメッセージがさらに強く突き刺さってくる。」など、それぞれ本作のメッセージに心を揺さぶられた様子が伝わるコメントになっている。
著名人コメント
最愛の人を奪われた、悲しみ、苦しみ、怒り、投げやりな気持ち。
暗闇に吞み込まれないための、戒めとしての希望の言葉。
それらすべてに、じっと耳を傾け続ける人が増えたなら、
希望を本気で信じられるんじゃないだろうか。
木村草太(憲法学者)
喪失が繰り返し襲いかかってくる。
次の波に耐えようとする彼の周りに、いくつもの戸惑いがうごめいている。
観ている自分も、気づけば、その渦の中にいた。
一体、どうすればいいのだろう。
武田砂鉄(ライター)
テロリストには、決して憎しみという贈り物は与えない。主人公のことばは感動的だった。
しかしそのことばの裏側には、長く終わらない苦しみがある。その悲嘆をとてもていねいに描いているからこそ、「憎まない」というメッセージがさらに強く突き刺さってくる。
佐々木俊尚(作家・ジャーナリスト)
『ぼくは君たちを憎まないことにした』
11月10日(金)より、TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
配給:アルバトロス・フィルム
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