英国の俳優や映画に好感や興味を持っているファンはたくさんいますが、本来の英国映画の面白さを味わうにはどんな映画を見ればいいの?という声も少なくありません。そこで本誌でおなじみの映画評論家、ライターのみなさんに「マイ・フェイバリット・ブリティッシュ・ムービー」をそれぞれ10作(合作含む)を挙げていただきました。これを参考に、まだ未見の優れた英国映画を探してみては?

稲田隆紀おススメ10選

稲田隆紀おススメ一覧

  • 『旅情』(1955)
  • 『マダムと泥棒』(1955)
  • 『ハバナの男』(1959)
  • 『泥棒株式会社』(1960)
  • 『ビートルズがやって来る/ ヤァ!ヤァ!ヤァ!』(1964)
  • 『バンデットQ』(1981)
  • 『ノッティングヒルの恋人』(1999)
  • 『ラブ・アクチュアリー』(2003)
  • 『ショーン・オブ・ザ・デッド』(2004)
  • 『ヴィーナス』(2006)

英国映画を語るなら、通常であれば『第三の男』(1949)の白黒映像美、『アラビアのロレンス』(1988)の大画面を挙げるべきだろうが、それは他の選者の方々に任せて、昔から好きだったコメディ作品にあえて注目した。

『旅情』

画像1: 【英国映画】プロがおススメする必見の名作はこれ! 英国映画の本当の魅力を味わおう

監督:デヴィッド・リーン
出演:キャサリン・ヘプバーン、ロッサノ・ブラッツィ

念願だった欧州旅行を実現しベネチアに一人やってきたアメリカ人女性が、観光を楽しみながら孤独を感じていたところ、魅力的な男性が現われるが……。名匠リーンの詩情溢れる大人のロマンチック・ストーリー。

まずデヴィッド・リーンの『旅情』のユーモアと切なさに惹かれ、『マダムと泥棒』のアレック・ギネスとピーター・セラーズを見いだし、キャロル・リードの『ハバナの男』、『泥棒株式会社』に至る。頭に浮かぶ作品を並べてみると犯罪コメディが多い。

『マダムと泥棒』

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お人好しな未亡人の営む下宿屋に音楽隊と身分を偽った強盗たちが現れるスリラー・コメディ。

やはり1960年代はビートルズを筆頭に英国は若者文化の発信地だった。『ビートルズがやって来る/ヤァ!ヤァ!ヤァ!』で世界的な注目を集めたリチャード・レスターの洒脱なセンス、そしてもちろんモンティ・パイソン軍団の台頭も衝撃的だった。テリー・ギリアムの『バンデットQ』はアメリカでもヒットしたっけ。

『ビートルズがやって来る/ヤァ!ヤァ!ヤァ!』

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超人気者“ザ・ビートルズ”の日常をドキュメンタリー風に切り取ってコミカルに構成された音楽劇。

ロジャー・ミシェルの『ノッティングヒルの恋人』やリチャード・カーティスの『ラブ・アクチュアリー』はこの時期の英国俳優の人気を物語っている。

『ノッティングヒルの恋人』

画像4: 【英国映画】プロがおススメする必見の名作はこれ! 英国映画の本当の魅力を味わおう

ロンドン西部の小さな書店の店主とハリウッドの人気女優の恋を描くロマンチック・コメディ。

『ショーン・オブ・ザ・デッド』でエドガー・ライトの才気とサイモン・ペッグに感心し、『ヴィーナス』ではピーター・オトゥールの俳優魂に胸が熱くなった。英国コメディに乾杯!

斉藤博昭おススメ10選

斉藤博昭おススメ一覧

  • 『リトル・ダンサー』(2000)
  • 『ザ・コミットメンツ』(1991)
  • 『小さな恋のメロディ』(1971)
  • 『さらば青春の光』(1979)
  • 『ショーン・オブ・ザ・デッド』(2004)
  • 『トミー』(1975)
  • 『カセットテープ・ダイアリーズ』(2019)
  • 『メンフィス・ベル』(1990)
  • 『ウィズネイルと僕』(1987)
  • 『赤い靴』(1948)

イギリス映画で最も惹かれた作品を振り返ると、けっこうジャンルや傾向が偏ってしまうこと気づく。ということで、その偏りに従って青春モノ、音楽モノに絞って10本をセレクト。

『リトル・ダンサー』

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監督:スティーヴン・ダルドリー
出演:ジェイミー・ベル、ジュリー・ウォルターズ

貧しい炭鉱町に暮らす少年ビリー・エリオットは、ボクシングを習えという父の意見に反して女子にまじって秘かにバレエを習いだし、その才能を開花させていく……。

『リトル・ダンサー』はシンプルに主人公が「なりたい自分」になる物語として史上最強。その後、ミュージカル化された「ビリー・エリオット」でのエルトン・ジョンの名曲とともに、人生で最も大きな感動を味わった記憶に『ザ・コミットメンツ』はアイルランドの物語だけど、イギリス共同製作ということで入れたが、バンド映画でここまで楽しさとホロ苦さを美しくブレンドさせた作品を、その後も観たことがない。

『ザ・コミットメンツ』

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ダブリンを舞台に変わり者ばかりのソウルバンド結成の道のりを描くドラマ。

同作の監督アラン・パーカーは、『小さな恋のメロディ』で脚本と一部演出を担当し、ビージーズの名曲をマッチさせた才能など、もっと評価をされるべき人かと。

『小さな恋のメロディ』

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なぜ愛し合っているのに結婚できないの? 子供たちの叛乱が日本で大受け。

『さらば青春の光』はカッコいい邦題どおり、アメリカの青春映画とは明らかに違う、行きづまり感、疾走感、そしてやはり音楽と物語、映像のケミストリーに悶絶。ミュージカルでは独特の美意識がイギリスっぽい『トミー』。

他の9作とやや路線の違う『赤い靴』は、クラシカルな作風なのに物語がけっこう狂っていて、時を超えてトラウマな一本です。

『ショーン・オブ・ザ・デッド』

画像8: 【英国映画】プロがおススメする必見の名作はこれ! 英国映画の本当の魅力を味わおう

ゾンビが大量発生したロンドン郊外でダメ男たちがサバイバル作戦を展開。

大森さわこおススメ10選

大森さわこおススメ一覧

  • 『トミー』(1975)
  • 『赤い影』(1973)
  • 『コックと泥棒、その妻と愛人』(1989)
  • 『トレインスポッティング』(1996)
  • 『赤い靴』(1948)
  • 『マイ・ビューティフル・ ランドレット』(1985)
  • 『日の名残り』(1993)
  • 『天使の分け前』(2012)
  • 『裏切りのサーカス』(2011)
  • 『ビートルズがやって来る/ ヤァ!ヤァ!ヤァ!』(1964)

ちょっとマニアックな味わいが英国映画の醍醐味。自分の原点はケン・ラッセル監督(『トミー』)とニコラス・ローグ監督(『赤い影』)。

『赤い影』

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娘を事故で亡くした英国人夫妻が滞在したベネチアで不思議な事象に遭遇。

現在はロンドンのケン・ラッセル学会のメンバーとなり、英国で出た彼の研究書にも寄稿。ファン道を究める楽しさを英国の映画人に教えられました。

『トミー』

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監督:ケン・ラッセル
出演:ロジャー・ダルトリー、アン・マーグレット

英ロックバンド“ザ・フー”の人気アルバムを映像化。三重苦に陥った主人公の身体と心の絶望、解放、自由などを全編歌で描くオールスター・キャストのミュージカル。

ラッセル&ローグは先駆的な映像派で、ルーツは『赤い靴』のマイケル・パウエル=エメリック・プレスバーガー。その流れは『コックと泥棒…』や『トレスポ』にも流れが受け継がれています。

『赤い靴』

画像11: 【英国映画】プロがおススメする必見の名作はこれ! 英国映画の本当の魅力を味わおう

童話「赤い靴」の舞台のヒロインを演じることになったバレリーナの悲劇。

『トレインスポッティング』

画像12: 【英国映画】プロがおススメする必見の名作はこれ! 英国映画の本当の魅力を味わおう

ドラッグ中毒の若者たちを主人公に彼らの悲惨な日々をポップな感覚で描く。

エッジのある映像派の映画が1番好きですが、英国映画の王道はリアリズム&ドキュメンタリーの流れと文学&演劇系の映画と言われています。前者からケン・ローチの『天使の分け前』、後者から『日の名残り』を選出。

最愛の男優はダニエル・デイ・ルイス(『マイ・ビューティフル・ランドレット』)。取材で1番ステキだったのはゲイリー・オールドマン(『裏切りのサーカス』)。女優はジュディ・デンチ、ヘレン・ミレン、ティルダ・スウィントン等の作品を入れられずに残念。

自身の英国文化へのめざめは音楽なので、ビートルズもはずせません。他にも『ifもしも…』(1968)、『フル・モンティ』(1997)、『カラヴァッジオ』(1986)等、入れたい作品はつきないです。

渡辺祥子おススメ10選

渡辺祥子おススメ一覧

  • 『アラビアのロレンス』(1962)
  • 『裏切りのサーカス』(2011)
  • 『第三の男』(1949)
  • 『恋におちたシェイクスピア』(1998)
  • 『リトル・ダンサー』(2000)
  • 『フル・モンティ』(1997)
  • 『ラブ・アクチュアリー』(2003)
  • 『ノッティングヒルの恋人』(1999)
  • 『ロスト・キング 500年越しの運命』(2022)
  • 「007」シリーズ(1962~2021)

素晴らしい映像に圧倒されて脳裏に焼き付いた『アラビアのロレンス』。英国軍人T・E・ロレンスをピーター・オトゥールが演じて一世一代の名演を見せる。

『アラビアのロレンス』

画像13: 【英国映画】プロがおススメする必見の名作はこれ! 英国映画の本当の魅力を味わおう

監督:デヴィッド・リーン
出演:ピーター・オトゥール、オマー・シャリフ

第一次大戦下、英国陸軍将校のT・E・ロレンスが、アラブ独立闘争を率いることになる数奇な運命と冒険を壮大なスケールで描いたアカデミー賞受賞作。

英国には元スパイの作家グレアム・グリーンやイアン・フレミングらがいてスパイ・サスペンス小説や映画の名作が多く、『第三の男』『裏切りのサーカス』そして「007」シリーズなども他の国の同種の作品とは違う熟した味わいがある。

『裏切りのサーカス』

画像14: 【英国映画】プロがおススメする必見の名作はこれ! 英国映画の本当の魅力を味わおう

東西冷戦下、イギリス諜報部内で起きる複雑な情報戦を描くサスペンス。

『第三の男』

画像15: 【英国映画】プロがおススメする必見の名作はこれ! 英国映画の本当の魅力を味わおう

大戦後のウィーンを舞台に事故死した友人の謎を追う作家の男。

そして英国といえば演劇王国。そうなったのはエリザベス1世が大の芝居好きだったから?と楽しみながら見た『恋におちたシェイクスピア』。それにしてもリチャード3世を悪人に仕立てたなんてシェイクスピアもひどい奴、と『ロスト・キング 500年越しの運命』は教えてくれる。

貧しい庶民の子からダンサーになる少年を描く『リトル・ダンサー』。失業の痛みをストリッパーになって乗り超える男たちがカッコイイ『フル・モンティ』。

20人近い登場人物の恋模様が楽しい『ラブ・アクチュアリー』の中、太目女性が好きな首相役のヒュー・グラントがハリウッド女優と恋に落ちる『ノッティングヒルの恋人』も楽しくて大好きだ。

『ラブ・アクチュアリー』

画像16: 【英国映画】プロがおススメする必見の名作はこれ! 英国映画の本当の魅力を味わおう

クリスマスを背景に数組のカップルの恋愛のゆくえを描くロマコメ。

『ノッティングヒルの恋人』© 1999 Universal Studios. All Rights Reserved.
『リトル・ダンサー』2000 Tiger Aspect Pictures (Billy Boy)Ltd.
『ザ・コミットメンツ』© 1991 Beacon Communications Corp.
『小さな恋のメロディ』©1971 Sagittarius Entertainment, Inc. All Rights Reserved.
『ショーン・オブ・ザ・デッド』©Images courtesy of Park Circus/Universal
『トミー』© 1975 THE ROBERT STIGWOOD ORGANISATION LTD. All Rights Reserved.
『裏切りのサーカス』© 2011 KARLA FILMS LTD. PARADIS FILMS SARL. AND KINOWELT FILM PRODUKTION GMBH. All Rights Reserved.
『ラブ・アクチュアリー』© 2003 Universal Studios All Rights Reserved. Photos by Getty Images

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