簡単に分かり合うことはできないけれど、救い合うことはできる
『夜明けのすべて』(2024年2月9日〈金〉ロードショー)
「カムカムエヴリバディ」では夫婦を演じた二人が、今回は同僚役で最高の理解者となる特別な関係性を演じる『夜明けのすべて』。パニック障害を抱える山添くん(松村北斗)とPMS(月経前症候群)に悩む藤沢さん(上白石萌音)が、それぞれの生きづらさを抱えながらも、交流を通して少しずつお互いの殻を溶かし合っていく姿が等身大に描かれる。美容院に行けない山添くんの家に行き散髪をしてあげる藤沢さん。職場でイライラが爆発しそうな藤沢さんを外に連れ出す山添くん。
「簡単に分かり合うことはできないけれど、救い合うことはできる」という特別な関係。パニック障害やPMSでなくとも、今を生きるすべての人は大なり小なり様々な生きづらさや悩みを抱えている。総ストレス社会の今、劇中で描かれる恋愛でも友情でもない“特別な関係”を心から求めている人は実は多いのではないでだろうか。
鑑賞後には生きるのがちょっと楽になるような、私たちの“痛み”に寄り添い、未来に向かってそっと背中を押してくれる本作にあふれる「そう、そうなんだよ」という“リアリティと共感性”。映画『夜明けのすべて』の公開を前に、思わず共感するであろうリアルさが描かれた作品をご紹介しよう。
配給:バンダイナムコフィルムワークス=アスミック・エース
©瀬尾まいこ/2024「夜明けのすべて」製作委員会
共感する派ですか?イキっていたあの頃から変化していく価値観
映画『花束みたいな恋をした』(2021)
「東京ラブストーリー」「最高の離婚」「カルテット」などの坂元裕二のオリジナル脚本を、菅田将暉と有村架純を主演に迎えて「重版出来!」『罪の声』などの土井裕泰監督が映画化。東京・京王線の明大前駅で終電を逃したことから偶然出会った、大学生の山音麦(菅田)と八谷絹(有村)。好きな音楽や映画がほとんど同じで、あっという間に二人は恋に落ちる。大学卒業後、フリーターをしながら麦と絹は同棲を始める。
ふたりの出会いから別れまでの5年間を追った本作。特徴的なのは、ポップカルチャー好きならつい反応してしまう固有名詞の数々。押井守、天竺鼠、cero、Awesome City Club、舞城王太郎、今村夏子、「宝石の国」など様々な作品やアーティスト名が登場する。“メインストリームではないけど、自分たちはこれを知っている”という二人の自意識の高さ、そしてそこから感じる二人の若さと未熟さ。そんな二人が就職を経て学生時代から価値観が変化していく様に共感した方も多いのでは。
「ドキュメンタリーとフィクションの融合」に挑戦した意欲作
映画『余命10年』(2022)
SNSなどで反響を呼んだ小坂流加の恋愛小説の映画化。主演は小松菜奈と坂口健太郎、監督は『新聞記者』の藤井道人が務めた。数万人に1人という不治の病に冒され、20歳で余命10年を宣告された茉莉(小松菜奈)。生きることに執着しないために恋だけはしないと心に決めていたが、ある日、地元の同窓会で和人(坂口健太郎)と出会い恋に落ちる・・・。
悲観的になりすぎず、現実を生き抜こうとする茉莉の姿に多くの人が心打たれたのではないだろうか。本作は原作者・小坂流加氏自身の実話がベースとなっている。映画化のオファーを受け原作を読んだという藤井監督は、オフィシャルインタビューで「闘病中に加筆(文庫版に収録)された部分の生々しさが凄まじくて、彼女が本当に書きたかったことに対する執着みたいなものが感じられたんです。単にこの小説を実写化するのではなく、小坂さんが生きた証を刻みつつ、ドキュメンタリーとフィクションの融合みたいなところに挑戦したいと思いました」とコメント。強い意志で小坂氏と向き合ったことから生まれたリアリティが、今この時を生きる私たちの心を強く動かすだろう。
男女の間に友情は成立するのか?日常で直面する人間関係
テレビドラマ「いちばんすきな花」(2023/CX)
ドラマ「silent」(22)の村瀬健プロデューサーと脚本家・生方美久が再びタッグを組み、“男女の間に友情は成立するのか?”をテーマに、違う人生を歩んできた4人の男女が紡ぎ出す“友情”と“恋愛”、そのどちらとも違う感情を描く、放送中のテレビドラマ。潮ゆくえ(多部未華子)、春木椿(松下洸平)、深雪夜々(今田美桜)、佐藤紅葉(神尾楓珠)の4人はある日、それぞれの日常のなかで“友情”や“恋愛”にまつわる人間関係に直面する。
悩みや立場は違うが、4人が交わる中で生まれる何気ない会話やシーン描写で、性別や“恋人”“友人”といった形容できる関係性に縛られてしまうことで起こるすれ違いや葛藤をリアルに表現。現代的な価値観を持った4人の人物描写や台詞を受けて「すごくわかる」「自分を見ている感覚」といった視聴者からの共感の声が多く寄せられている。