映画史への新たな視点や映画保存や映画復元の意義を再発見する機会に
チネマ・リトロバート映画祭とは、イタリアのボローニャを拠点として映画保存活動を行うチネテカ・ディ・ボローニャ財団(FCBFCB)が1986 年に本格始動させた映画祭。世界各地で行われている映画復元・発掘の取り組みを紹介する一大拠点として、映画史に刻まれた作品だけでなく、アーカイブ活動によって蘇った知られざる作品を上映している。
本企画では、長い歴史を誇るチネマ・リトロバート映画祭にこれまで出品された発掘・復元作の中から、日本未公開作を含む25 プログラム(54 本)を上映する。「ネオレアリズモ」の系譜に連なる名作群やそれらと共鳴するようなチェチリア・マンジーニやサラ・マルドロールといった女性監督の作品など、蘇った作品群を鑑賞することで、映画史への新たな視点や映画保存や映画復元の意義を再発見する機会となることだろう。
蘇ったイタリア映画の至宝
ディーバ女優のリダ・ボレッリが主演したイタリア無声映画の傑作『サタン狂想曲』、ロベルト・ロッセリーニの『無防備都市』やヴィットリオ・デ・シーカの『自転車泥棒』などの「ネオレアリズモ」を代表する作品のデジタル修復版を上映する。また、失われゆく南イタリアの伝統を記録したヴィットリオ・デ・セータによるダイナミックな記録映画や、女性の視点からイタリア社会を捉えた作品を多く監督したチェチリア・マンジーニによるドキュメンタリーも紹介する。
世界各地で発掘された映画たち
世界各地で行われている近年のアーカイブ活動によって、長らく鑑賞機会が希少であったワールドシネマの作品などが再びスクリーンに蘇る。本企画では、インド舞踊の歴史で中心的存在であるウダイ・シャンカルが4 年の歳月をかけて完成させた自伝的作品『カルプナー』、イラン・ニューウェーブの代表的な監督の一人であるバハラム・ベイザイがイラン革命前に製作した幻想的な大作『異人と霧』、映画製作において黒人女性が関与することの重要性を唱えたサラ・マルドロールがアンゴラ独立運動を描いた『サンビザンガ』などを紹介する。
上映作品(25プログラム・54作品)
〈サイレント短篇集 〉チネテカ・ディ・ボローニャ財団が近年修復したサイレント映画の短篇集。
『サタン狂想曲 』(1917 、イタリア、ニーノ・オシーリア)
文学、絵画、建築、音楽などの諸芸術を総合したイタリア 無声映画の傑作。
〈グランド・ツアー イタリア紀行・短篇集 〉
1908 ~1912 年にイタリア全土で撮影されたホームムービー集。
『フィリバス 』(1915 、イタリア、マリオ・ロンコローニ)
SFと探偵スリラーの要素を取り入れてスピーディーに展開する冒険映画。
『狂った一頁 』 [染色版](1926 、 日本、 衣笠貞之助)
国立映画アーカイブが2023 年チネマ・リトロバート映画祭に出品した 染色版 。
『ハーレムの殺人 』(1935 、アメリカ、オスカー・ミショー)
先駆的な黒人映画監督のオスカー・ミショーによる探偵映画。
『無防備都市 』(1945 、イタリア、ロベルト・ロッセリーニ)
ナチス・ドイツ占領下のローマにおけるレジスタンス運動 を 描 いた名匠ロベルト・ロッセリーニの代表作 。
『カルプナー』(1948 、インド、ウダイ・シャンカル)
インド舞踊の歴史で中心的存在であるウダイ・シャンカルによる自伝的作品。
『自転車泥棒』(1948 、イタリア、ヴィットリオ・デ・シーカ)
「ネオレアリズモ」の代表的作品。2018 年に作製された 新修復版での上映。
〈ヴィットリオ・デ・セータ作品集 〉
南イタリアの伝統や労働をラディカルな手法で捉えたドキュメンタリー 10 作品。
『風と共に散る』(1956 、アメリカ、ダグラス・サーク)
四人の男女の愛情と欲望が錯綜するダグラス・サークによるメロドラマ。
『吸血鬼』(1957 、イタリア、リカルド・フレーダ)
ハマー・フィルムのドラキュラシリーズに先駆けて公開されたトーキー以降のイタリア初の本格ホラー。
〈チェチリア・マンジーニ作品集〉
イタリア映画界で最も開放的で勇気ある女性ドキュメンタリー作家チェチリア・マンジーニの作品集。
『時は止まりぬ』(1958 、イタリア、エルマンノ・オルミ)
エルマンノ・オルミ初の長篇劇映画で、2021 年にデジタル修復が行われた。
『街の中の地獄』(1959 、イタリア フランス、レナート・カステラーニ)
ローマの女子刑務所を舞台にした、 アンナ・マニャーニとジュリエッタ・マシーナの出演作。
『シシリーの黒い霧』(1962 、イタリア、フランチェスコ・ロージ)
第二次世界大戦中のレジスタンス運動を捉えた「第二のネオレアリズモ」を代表する一篇。
『猿女』(1964 、イタリア フランス、マルコ・フェレーリ)
奇才マルコ・フェレーリが、19 世紀に実在した多毛症のメキシコ人女性から着想を得たラブストーリー。
『サンティアゴへ行こう』(1964 、キューバ、サラ・ゴメス)
ジャーナリストを経てキューバ国立映画芸術産業庁に入り、キューバ初の女性映画監督となったサラ・ゴメスの 初期作 。
『ある方法で』(1974 、 キューバ、サラ・ゴメス・ イエラ)
サラ・ゴメス初の長篇でドキュメンタリーとフィクションを混合させた野心作。
『私は彼女をよく知っていた』(1965 イタリア フランス ドイツ、アントニオ・ピエトランジェリ)
戦後イタリアの経済成長下における刹那的で享楽的な日常を描いた傑作。
『マハゴニー(フィルム# 18 )』(1970~80 、アメリカ、ハリー・スミス)
映像作家、音楽学者、蒐集家など多岐にわたる活動で影響を与え 続けている ハリー・スミスの大作。
『ブッシュマン あるナイジェリア人青年の冒険 』(1971 、アメリカ、デヴィッド・シッケル)
1968年にナイジェリアからサンフランシスコにやってきた青年を通して 米国における人種問題 など を描いた作品。
『サンビザンガ』(1973 、 アンゴラ フランス、サラ・マルドロール)
不可視になりがちな女性の視点からアンゴラ解放闘争を描いたサラ・マルドロール初の長 篇 劇映画。
『異人と霧』(1974 、 イラン、 バハラム・ベイザイ)
「イラン・ニューウェーブ」を代表する監督バハラム・ ベイザイ による寓話的野心作。
『私は時々ハワイを想う』(1978 、 西ドイツ、 エルフィ・ミケシュ)
ベルリン郊外に住む16 歳の少女を捉えたセミドキュメンタリー。
『青の隔たり』(1983 、 西ドイツ、 エルフィ・ミケシュ)
夜行列車に乗る女性に テキストの モノローグ が重ね合わされる 幻想的な短篇。
〈セシル・ドキュジス作品集〉
ヌーヴェル・ヴァーグの一翼を担う編集技師として活躍したセシル・ドキュジスの 映画監督としてのキャリアに光をあてる。
『ムービー・オージー』(1966~ 2009 、アメリカ、ジョー・ダンテ 、ジョン・デイヴィソン)
『グレムリン』(1984) などで知られるジョー・ダンテが学生時代に友人のジョン・デイヴィソンと 製作した 1 930 ~60 年代のB級映画やテレビ番組などをつなぎ合わせた フッテージ集。
トークイベント開催
「サイレント短篇集」/『サタン狂想曲』上映後対談
日時:1 月9 日 (火) 6:00 PM 登壇者:小松弘氏(早稲田大学文学学術院教授)、古賀太氏(日本大学芸術学部映画学科教授)
『カルプナー』上映後講演(逐次通訳付き)
日時:1 月13 日 (土) 12:30 PM 登壇者:チェチリア・チェンチャレッリ氏(FCB ディレクター)
『私は彼女をよく知っていた』上映後講演
日時:1 月13 日 (土) 5:00 PM 登壇者:岡田温司氏(京都精華大学教授、京都大学名誉教授)
「グランド・ツアー イタリア紀行・短篇集」上映前/上映中解説(逐次通訳付き)
日時:1 月14 日 (日) 12:30 PM 登壇者:ジャン・ルカ・ファリネッリ氏(FCB ディレクター)
「ヴィットリオ・デ・セータ作品集」上映後講演(逐次通訳付き)
日時:1 月14 日 (日 )3:00 PM 登壇者:ジャン・ルカ・ファリネッリ氏(FCB ディレクター)
『サンティアゴへ行こう』『ある方法で』上映後対談
日時:1 月27 日 (土) 4:00 PM 登壇者:濱治佳氏(山形国際ドキュメンタリー映画祭)、当館研究員
『狂った一頁』[染色版]上映後トーク
日時:1 月30 日 (火) 7:00 PM 登壇者:野原あかね氏(IMAGICA エンタテインメントメディアサービス)
『ムービー・オージー』上映後トーク
日時:2 月3 日(土) 1:00 PM 登壇者:藤井仁子氏(早稲田大学文学学術院教授)