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語られ続ける、心揺さぶられる悲しき愛の物語
いま地球上のさまざまな場所で非情な戦いが行われ、多くの人々が苦しんでいることは誰もが知っている。恐怖、悲しみ、飢え、別れ…悪いことと知りながら、傲慢さや身勝手が引き起こすのが戦争で、誰もが嫌って憎みながら無くなることはない。
そんな戦争が傷つけ、奪って苦しめながら、ときに甘美な歓びを生みだす「恋愛」は映画が愛してやまない題材の一つだ。戦争は映画の中にさまざまな恋愛や友情を生み、見る人の心を成長させて忘れがたい思いを残す。
多くの人々を魅了してやまない『哀愁』(1940)や『誰が為に鐘は鳴る』(1943)『地上より永遠に』(1953)などは長らく語り継がれ、忘れられることがない。
1970年代の後期、ソ連占領下のエストニアを舞台にした『Firebird ファイアバード』はそんな古い名作が知らない「現在」を持つ。戦争映画が長らく知らぬふりをしてきた男同士の恋。
どこの国でもかつて兵士は男性だった。軍隊で女性といえば看護師や事務系の仕事をする少数の人々。戦場で闘い、死と向かい合うのは男たちだ。そんな彼らの間に生まれる男同士の恋愛を、イギリスをはじめとした多くの国は法律で禁じてきた。
旧ソ連、ロシアで活動した無名俳優が書いた自身の回想録を原作にしたという今作でもパイロットの将校ロマンと二等兵セルゲイの友情から恋愛へと発展する関係は、支配者・ソ連の同性愛を罰する法律を振りかざすソ連軍大佐によって悲劇へと向かう。
戦争映画が描く恋は1932年、1957年、1996年の3度にわたって映画化された『武器よさらば』のように第一次や第二次世界大戦の時代を背景にしたものが多いが、その後のベトナム戦争や湾岸戦争の時代になると兵士の人間関係を描くより新鋭兵器を駆使した戦闘シーンが増えてくる。
戦争映画が描く恋愛は、さまざまな犠牲の上に成り立ちながら見る者を甘美な世界に誘い込む魔力を持つ。あまり大きな声では言えないけれど戦争映画の中に描かれる「恋愛」はほんとうに甘美でステキだ。
『哀愁』(1940)
戦時下のロンドンで出会って恋に落ちた青年将校(ロバート・テイラー)とダンサー(ヴィヴィアン・リー)が「蛍の光」の調べに乗って踊るシーンの美しさ。
戦場へ向かった恋人を待つ女は、ある日、新聞で彼の死を知り、生きるために娼婦になった。ところが彼は生きていた! 戦争が生んだ美男美女の悲恋を描く傑作で知られる。
『離愁』(1973)
第2次大戦下、ラジオの修理工(ジャン=ルイ・トランティニャン)は避難列車で出会った女(ロミー・シュナイダー)と恋に落ちた。列車から女は姿を消し、このあとゲシュタポに呼び出された男はレジスタンスの一員として逮捕された女と対面させられる。知らなければ何事もなかったはずだが、思わず手を差し伸べ、その頬に触れた。
『地上より永遠に』(1953)
1941年のハワイ、日本軍襲撃の12月7日(日本時間では8日)前後のホノルルの米軍基地。ボクシング狂の中隊長がいる隊に転任してきた不幸なボクサーのエピソードを背後に置き、曹長(バート・ランカスター)と無能な隊長の夫を愛せなくなっている妻(デボラ・カー)の不倫の愛を描いて、大人の恋の悲しみが滲み出る。
『ヒマラヤ杉に降る雪』(1999)
第二次大戦中、強制収容所に収容された日本人ハツエ(工藤夕貴)は同じ日本人のカズオ(リック・ユーン)と結婚した。ところが終戦から9年、カズオが殺人犯として法廷に立たされた。
そんなハツエの前に戦争で愛を引き裂かれたイシュマエル(イーサン・ホーク)が取材記者として現れる。しかもカズオを無罪に出来るかもしれない証拠を持って。ハツエの心は揺れ動いた。
『つぐない』(2007)
第2次大戦下、セシーリア(キーラ・ナイトレイ)は使用人の息子ロビー(ジェームズ・マカヴォイ)と恋に落ちたが、二人の情事に衝撃をうけたセシーリアの妹は近所でレイプ事件が起きたとき、犯人はロビーと嘘をつく。
そのため彼は激戦地ダンケルクへ送られ、後に作家になった妹は小説「つぐない」を書いて許しを求めた。
『つぐない』
Blu-ray発売中
価格:2,619円(税込)
発売・販売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
Film © 2007 Universal Studios. All Rights Reserved.
『パール・ハーバー』(2001)
親友ダニー(ジョシュ・ハートネット)と共に陸軍航空隊に志願したレイフ(ベン・アフレック)は看護師イヴリン(ケイト・ベッキンセール)と恋に落ちたが、ヨーロッパ戦線へ。その頃ダニーとイヴリンはハワイに転属、恋が・・・。
そこへレイフの訃報が誤って伝えられた。レイフはイヴリンの心の揺れも知らず、彼女をよりどころに帰国の途についていた。
『誰が為に鐘は鳴る』(1943)
第2次大戦下、スペインの内乱で右翼のフランコ軍と戦う大学教授ジョーダン(ゲイリー・クーパー)と彼に恋した市長の娘マリア(イングリッド・バーグマン)。
敵軍襲来に備えて爆薬を仕掛けながら鉄橋の爆破で傷を負い、逃げきれなくなったジョーダンがマリアを逃がす別れのシーンこそ恋愛映画の代表的名場面。
Netflixシリーズ「すべての見えない光」
盲目のフランス人少女マリー=ロールと叔父はゲシュタポが目をつけるダイヤを持ってドイツ軍占領下の町から脱出。ラジオでレジスタンス活動をする叔父の所に身を寄せた。
一方、違法放送取り締まりのため、ヒトラー政権に徴兵されたヴェルナーは、ラジオから聞こえるマリー=ロールの言葉や心からの思いに惹かれていく。